いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、西荻窪の家庭料理店「こんね」をご紹介。

  • メニューは1品のみ! まさかの2時間営業「こんね」(西荻窪)

また訪れたくなる、西荻窪の名店

荻窪と西荻窪の中間……というよりも、ちょっとだけ西荻寄り。有名なおそば屋さんの「本むら庵」前から西荻方向へ進み、「西荻北一丁目東」交差点を越えると、やがて上品な建物が左側に見えてきます。

  • 住宅街の一角に

壁はベージュで、柱や窓枠などはこげ茶色。一軒家のようにも見えなくはないものの、明らかにお店っぽい。けれど、営業中であることをアピールするような派手さは皆無。

しかしよく見れば、建物の端には「家庭料理の店 こんね」という小さな看板が。

  • 小さな看板が目印

そう、閑静な住宅地のなかにぽつんとあるここは、古くからある家庭料理店なのです。

1980年代にはこの道を通り、自転車でしばしば西荻窪へ行っていたのですけれど、間違いなくそのころからあった店。

  • 入り口は右横

当時から気になってはいたものの、まだ20代の半人前だった自分にはハードルが高すぎるような気もして、いつも通り過ぎるだけだったんですよね。

ただ、気がつけば早くも30年以上の時間が過ぎていたわけだ(驚くべきことだ)。あいかわらず半人前だけど年齢的には大人になったので、ついに行ってみようと伺ってみたわけさ。時間がかかりすぎたことを否定はしませんけれど、それについてはひとつ理由がありましてね。

昔は夜も開いていた気がするのですが、いま、この店の営業時間はお昼の12時から14時までのようなのです。まさかの2時間営業。なので、早すぎたり遅すぎたり、何度もフラれてきたわけですね。

この日はほぼオンタイムで伺ってみたのですけれど、入り口のドアにのれんのようなものがかかっているわけでもなく、「営業中」の表示もなし。「ひょっとして、まだ開いてないのかな」と思って外で待っていたら、そんな僕の前を通り過ぎ、常連さんらしき女性がすーっと店内へ。

え、開いてんの?

慌てて引き戸を開けてみると、なんと営業中でした。暑いなか、ずーっと外で待ってた僕はなんだったのでしょう?(そりゃーもちろんバカですね)

ともあれ、入り口にいちばん近い窓際のテーブル席へ。そこからだと店内が見渡せますが、先の女性はいちばん奥の座敷席に座ったため見えず、なんとなく貸し切り状態の気分です。

  • レトロで落ち着いた店内

窓際にはもうひとつテーブル席があり、右手前には4、5人は座れそうな正方形のテーブル席。

  • 不思議な統一感

  • 大きなテーブル席も

厨房に続く中央部分にはカウンター席もあります。"民芸調"というありきたりな表現が適切かどうかはわかりませんが、昔から変わっていないのであろう、とても落ち着いた空間。

  • カウンターもゆっくりできそう

ほどなく店主の女性がお冷やを持ってきてくださり、「おまかせのランチだけですけど、大丈夫ですか?」と、ひとこと。どうやらメニューはなく、ランチ一択のようです。いいねえ、そういうの。なにが出てくるのか、逆に期待してしまいます。もちろん、「はい、お願いします」と答えましたぜ。

  • お冷やでほっとひと息

店内に静かな音量で流れるBGMは、ジュリー・ロンドンなどの古いポップス。それが不思議と、個性的な店内の雰囲気にマッチしています。そして大きな窓のほうに目をやれば、向かいのマンションの樹々の緑がいい感じの借景に。

  • 窓の外の緑が雰囲気を引き立てる

そんな雰囲気を楽しんでいると、やがて半月型をした朱塗りのお盆に乗せられ、おまかせのランチが運ばれてきました。

  • おまかせのランチ

メインはきのこのハンバーグで、他には冷奴、ゴーヤと茄子のおひたし、きゅうりの漬物、昆布の佃煮。キャベツなどがたっぷり入った味噌汁と、ご飯はよく見れば麦飯ですね。麦飯好きに、これはうれしい。

  • きのこたっぷりのハンバーグ

  • ご飯は麦飯

最初にみそ汁をいただいた時点で、この店は間違いないと実感できました。なーんて偉そうだけど、うれしくなってしまったのです。きちんとだしがとられているので、塩分は控えめだけど文句なしにおいしくて。いや、必要以上に塩辛くないからこそおいしい、というべきでしょうね。

  • みそ汁は具だくさん

もちろんそれはハンバーグにしても同じ。素材の持ち味を生かした上品な味わいで、キノコやにんじんなどがたっぷり入ったソースも、ハンバーグの柔らかな食感を見事に引き立てているのです。

  • ハンバーグは柔らかく味わい豊か

ゴーヤと茄子のおひたしも、地味ながら重要な引き立て役といった印象。つまり主役のみならず、すべての脇役もまた主役級だということですね。

  • 脇役だって主役級

食べている間に常連さんらしきご夫婦が来店し、横の大きなテーブルへ。店主さんとも仲がいいみたいで、ことばが交わされるごとに場の空気が柔らかくなっていくような印象を受けました。

食後には「温かいコーヒーと冷たいコーヒー、どちらにしますか?」と聞かれたので、後者をチョイス。添えられたチョコレートは冷やされており、そんな気遣いもうれしいところ。

  • 食後はアイスコーヒーで

いやー、ここは本当にいい店だ。目立たないし営業時間も短いけれど、これぞ名店ですよ。こんなことなら、もっと早くお邪魔するべきだったな。でも、きっとまた伺うことになると思います。

●こんね
住所: 東京都杉並区西荻北1-2-10
営業時間: 12:00~14:00
定休日: 土日祝