いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、三鷹のパスタ店「パスタハウスFujiya」をご紹介。

  • 復活していた三鷹の名店「パスタハウスFujiya」(三鷹)

横長の店内に配されたカウンターには椅子が2脚だけ

かつて三鷹の南側に住んでいたころ、駅向こうの五日市街道沿いにあったパスタのお店が気になっていたんですよ。

三鷹駅北口から歩けば、ゆうに15分はかかりそうな距離。場所的には、ちょうど武蔵野市民文化会館の真正面です。いかにも昭和な外観で、それがなんともかわいらしい。

イマドキっぽくないからこそ、強い訴求力があってですねえ。

だから「そのうち行こう」と思っていたのですけれど、気がつけばいつの間にか閉店していたのです。それを知ったときにはショックだったなあ。そして、「気になるお店は早めに行ってみるべきだなあ」と痛感したものだ。

でも、そういう失敗をしたからこそ、先日たまたま武蔵野市民文化会館前を通りかかったとき、非常に驚かされたのです。なぜって「パスタハウスFujiya」というその店が、いつの間にか復活していたから。

店名が白く抜かれた薄緑色の日除け看板も、古いレンガを基調としたレトロな外観も、すべて以前のまま。

  • レトロでかわいらしい外観

だから、「もしや閉店したということ自体が勘違いだったのではないか?」と思ったりもしたのですけれど、そうではないのです。これは間違いなく「復活」なのです。

  • 五日市街道沿いのロケーション

  • テイクアウトもOK

いずれにしても、知ってしまった以上は通り過ぎるべきではありません。ちょうどお昼前のいい時間だったし、勇気を出して入ってみることにしたのでした(勇気、必要ですかねえ?)。

横に広い店内は1970年代の喫茶店を思い出させる木目調のつくりで、真正面にはカウンター。その向こうが厨房になっています。

  • 明るく居心地のよい店内

入り口側の左右、すなわちカウンターの背後にはそれぞれ木製のベンチもありますが、テーブル席は見あたりません。

  • ベンチで待てるスタイル

というかですね、そもそもカウンターに椅子が2脚しかないんですよ。つまり、少なく見積もってもあと5脚は置けそうな広々としたカウンターの右奥に、ふたり分しか席がないのです。

厨房にはビシッと白衣を着こなしたご主人しかいらっしゃらなかったので、いわゆる"ワンオペ"対策なのでしょうか? それとも、テイクアウトメニューがあるところから察するに、テイクアウトが主体だってこと?

どうあれ、これは不思議な感じだなあ。他にお客さんのいないタイミングでお邪魔できたのは、純粋にラッキーだったというべきでしょうが。

イートインメニューをチェックしてみると、「ガーリック」「トマトソース」「クリームソース」「ミートソース」「バラエティ」とカテゴリー分けされたスパゲッティ(スパゲティではありません)は全26種類。サラダやグラスワインもあるにはありますが、あくまで主体はスパゲッティです。

  • イートインメニューはこんな感じ

しかし、「キャベツとアンチョビのガーリックソース」とか「チキンときのこのクリームソース」とか、気になるメニューがたくさんありますなあ。でも、初めてお邪魔したわけですから、ここはいちばんオーソドックスな「手作りミートソース」ということにしましょう。

オーダーを伝えると、物静かなご主人が調理を開始。必要以上に物音を立てることのない、手際のよい仕事ぶりには信頼できるものがあります。

  • きれいに整えられた厨房

そして、ジャズ・ヴォーカルが静かに流れる店内の雰囲気を楽しんでいたら、ほどよいタイミングで「手作りミートソース」が登場。

  • 手作りミートソース

大きめの皿にのったパスタの上には、濃厚な色合いのミートソースが。チーズはあらかじめかけられており、彩りに少々のパセリも。これはもう予想どおりの、そして見るからに理想的な"昭和のミートスパゲッティ"ですね。皿が白ければ昭和感はさらに際立ったかもしれませんが、野暮なことはいいますまい。

  • 意外とボリュームもあります

肝心の味のほうですが、これがなかなか衝撃的。アルデンテのパスタにはほどよい弾力があり、ひとくち食べてみただけで小麦の香りがずっと抜けていくような印象なのです。

  • 理想的な茹で加減

「パスタって、本来こういう風味だったよな」と改めて実感したくなるほど食感も心地よく、濃厚なミートソースとのコンビネーションも文句なし。途中でチリオイルをかけてみれば、さらに奥行きが増します。

  • チリオイルやペッパーで味変も

食べている途中に2人のお客さんが入ってきたので、「早く食べなきゃ」と少し焦ってしまいましたが、ともあれこれは高クオリティ。「パスタハウス」を自称するこのお店の実力を、しっかりと思い知らされた気がしたのでした。

帰りがけにお聞きしてみたら、2月から再開されたのだとか。席数が限られていて、しかも週に4日のみの営業ですが、ぜひまた伺って他のメニューも試してみたいところです。

  • テイクアウトとイートインでメニューが異なる

●パスタハウスFujiya
住所: 東京都武蔵野市吉祥寺北町4-7-2
営業時間: 月~金11:30~14:00、17:00~20:30
定休日: 火、水、木