いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、西荻窪の喫茶店「まつばや」をご紹介。

  • 昔ながらのカレーとコーヒー「まつばや」(西荻窪)

これぞ、日本の喫茶店のカレー

西荻窪駅南口を出たら、そのまま南方向へ。駅を背にして直進するわけですが、神明通りと交差する「西荻南二丁目」交差点を越えて以後もひたすら進んでいくと、五日市街道の近くに以前ご紹介したことのある「玉川そば 本店」があります。

しかし今回のお目当ては、その少し手前。玉川そばと同じく右側に位置する「まつばや」という喫茶店です。僕の知る限り、もうかなり昔からこの地で営業を続けられているはず。

アイボリーの壁と格子窓を覆う緑、そして「まつばや」とだけ白く抜かれたココア色の日除け看板がいい感じ。

  • 街に溶け込む外観

茶色いアルミサッシのドアもレトロ感を引き立てており、立て看板にはシンプルに「カレー & コーヒー まつばや」の表記のみ。

  • シンプルな看板がかわいい

すべての要素がかわいらしく、いかにも昭和の喫茶店といった趣です。

  • 緑もいいアクセントに

でも当然のことながら、それは外観だけの話ではありません。足を踏み入れてみれば、眼前に広がるのはまさに昭和そのものの空間なのです。

店内は外観と同じアイボリーの壁と、こげ茶色の家具類で色調が統一されています。左側には、木目調のL字型カウンターを囲むように茶色いスツールが5脚。

  • さりげなくおしゃれな店内

  • よく見れば棚にはこけしが

厨房部分とカウンターとを仕切る部分にはアーチ状の柱のようなものがさりげなくあしらわれていたりもしていて、シンプルなようでなかなか手が込んでおります。

そして右側は、同じ色調のテーブル席が2卓。突き当たりの壁に下げられている、大きな木製のスプーンとフォークが、これまたおしゃれでかわいらしいですねえ。

  • 大きなスプーンとフォーク

ところで、ここでお昼となれば、やはり店頭の看板にもあるカレーライスをいただきたくなってしまいます。いや、改めてメニューを眺めてみると、ピラフとかナポリタン、豚生姜焼きなど意外と品数は多いんですよ。

  • メニューは意外にバリエーション豊か

でも個人的に、ここではカレーとコーヒーをいただきたくなるのです。

「ランチ・サービス」と書かれた手書きの木製プレートがかかっていることからもわかるとおり、お店としてもカレーを推してますしね。ってなわけで、カレーライスとアイスコーヒーをお願いしました。

  • ランチはカレーとコーヒー

店内にBGMはなく、入り口近くにあるテレビからはニュース番組が流れています。いい意味で生活に密着した喫茶店であるわけで、それもまた、こういうお店のあるべき姿だといえるのではないでしょうか?

などとわかったようなことをホザいていたら、やがてカレーライスが登場。

  • カレーライス

ここのカレーライスはね、「なんの変哲もない感じ」がとってもいいんですよ。逆にここでイマドキのカフェっぽいおしゃれぶったカレーがでてきたりしたらがっかりしちゃうのですが、もちろんそんなはずもなく、いたって普通の日本の喫茶店のカレー。

  • オーソドックスでいい感じ

だから、いいのです。そこが、いいのです。こうであってほしいのです。

いただいてみれば、辛すぎず、さりとて甘くもなく、ちょうどいい爽やかな辛さ。

  • ほどよい辛さ

たっぷり入った柔らかな豚バラ肉もカレーとマッチしていて、とてもおいしい。

  • バラ肉も柔らか

一緒についてきた福神漬けを加えてみれば、さらに味に変化が加わります。って、そんなの当たり前なんだけど、個人的に福神漬けにはあまり思い入れがなかっただけに、「あれ、福神漬けってこんなにおいしかったっけ?」などと感じたりもしたのでした。

  • 福神漬けの実力を知らされる

つまり、カレーが福神漬けの味を引き立てているわけであり、それはそれでまた理想的な関係性だといえるのではないでしょうか(って、福神漬けだけでここまで話を引っぱるんですかい?)。

ぱっと見は少なめにも見えたのですが、実はボリューム的にも不足はなく、おなかいっぱいになれたのでした。

食べ終えたころ、絶妙なタイミングでアイスコーヒーが運ばれてきたのですが、グラスが昔ながらの手づくりっぽくてまた魅力的。その形状がひんやりとした質感を高めており、味のほうも昔の喫茶店で出てきたアイスコーヒーを彷彿させます。

  • アイスコーヒー

なんだか、背伸びをして喫茶店通いをしていた中学生時代を思い出しちゃうなあ。

  • 見た目もひんやり

などと思っていたのですけれど、帰り際に伺ったところ、今年で46年目なのだとか。ってことは、まさに僕が中学生だったころにオープンしたということになりますねえ。

これからも、ずっとこのまま続いていってもらいたいものです。

●まつばや
住所: 東京都杉並区西荻南2-7-12
営業時間: 13:00~19:00
定休日: 水曜、木曜