いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、立川のイタリアンレストラン「トスカーナ」をご紹介。

  • 立川のイタリアンレストラン「トスカーナ」

学生時代の思い出の味を求め、40数年ぶりの来店

立川の友だちに、地元のイタリアンレストランへ連れて行ってもらったことがあったんですよ。高校生のころだから、もう40年以上前の話だ(泣けてくる)。

3人連れで行ったのですが、みんなでワイワイ食べたそこのピザがとてもおいしくて。腹ペコだったあのころは学校帰りに吉祥寺「シェイキーズ」のランチ食べ放題をよく利用したりもしていて、あの薄いピザもそれはそれで好きだったのですけれど、こちらはまた違うタイプ。

チーズがこれでもかというくらいにのった、贅沢きわまりないピザだったのです。タイプとしては、福生の「ニコラ」に近い印象かな。で、あのピザをまたひさしぶりに味わいたくて、立川にある「トスカーナ」というそのお店まで行ってきたのでした。

立川駅南口を出て国分寺方面へ少し進み、すぐ右側の「WINS通り」へ。場外馬券場の「WINS立川」を通り過ぎ、「錦町一丁目西」交差点を越えたら右側に白いレンガの建物が見えてきます。

  • とても目を引く外観

料理の写真がたくさん貼ってあるそこが、お目当ての「トスカーナ」。

  • メニュー表示がたくさん

創業は1960年だとのことですが、想像するにその当時って、イタリア料理自体がいまほど一般化してはいなかったのではないでしょうか? そう考えてもかなり先進的な店だったことが想像できますし、あちこちに貼ってある「トスカーナ4大継ぎ足しソース」という広告にもそれは明らか。デミグラス、ピザソース、ミートソース、カレーソースはどれも、開店当初から継ぎ足し続けているというのですから。

  • 「4大継ぎ足しソース」の説得力

お店は、2階と3階に個室や貸切席もある一軒家タイプ。3階には宴会スペースもあるということで、かなりの人数を収容できるようです。でも、エントランスの数段の低い階段を上がったところに位置する1階は、テーブル席とソファー席で構成されていて落ち着いた雰囲気。

  • この階段を上がった先

高校生のころ、どこの席に座ったのかは思い出せないけれど、お店の方に誘導されて右側のテーブル席へ。

  • 落ち着けるテーブル席

壁を背にして座ると、正面向こう側が厨房スペースです。

  • 全体的にレトロな雰囲気

ところで席についた時点で、すでにちょっと戸惑っていたのです。なぜって、どの料理もおいしそうだから。

  • メニューを眺めるほどに迷う

「平日ランチ」のいちばん上には「プリぷりエビとイカフライ ポークソテー(トマト)盛り合わせ」(「プリプリ」ではなく「プリぷり」というあたりにもそそられるものが)などというものもあり、写真を見る限り、食べなければ後悔しそう。

  • 「平日ランチ」の訴求力たるや

けれど、ここは初志貫徹しなければなりません。なにしろ40数年前に食べたピザをまた食べることが目的だったのですから。ってなわけで迷いをとっぱらい、「六十年継ぎ足し続けてきた熟成ピザソースとどんなに食材高騰してもチーズたっぷりを守ってきました」と書かれた「MIXピザ」でいくことに。

  • やっぱりピザですね

しかしこれ、「SS」「S」「M」の3サイズあるんですよ。昔はどれを頼んだんだっけ? そんなこと記憶にないし、これは困ったぞ。でも「SS通常1090円(税込)」ということは、これが1人前ということなのかな? ってなわけで、「SS」にしよう。

それにしても、あいわらずの人気店みたいです。伺ったのは開店直後の11時半だったのですけれど、ひっきりなしにお客さんが入ってくるのです。常連さんも多いようで、お店の方と親しげに話をしていらっしゃいます。いかにも地元に根ざしたお店という感じで、とても印象がいいですね。

  • 奥のスペースもゆったり

さて、先に運ばれてきたサラダとコンソメスープをいただいていると、

  • サラダ

  • コンソメスープ

ほどなくSSのピザが登場です。うっ、思っていたより小さく見える。

  • 「SS」は意外に小さめ

直径は20センチくらいかな? これは選択を間違ってしまったのだろうか? だいいち、あちこちから耳に飛び込んでくるオーダーの声を聞く限り、みんないろいろなものを注文している様子。SSピザ1枚だけのお客さんなんて僕ぐらいしかいなさそうで、なんだか心細くなってきます(小心かよ)。

でも結局のところ、それは考えすぎだったようです。ピザはたしかに直径こそ小さめですが、なかなか食べごたえがあるのです。カリカリの台に具材がたくさんのっており、その上にものすごい量のチーズが。

  • よく見ればボリューミー

「どんなに食材高騰してもチーズたっぷりを守ってきました」という表記に偽りなく、これは相当量のチーズを使用しているはず。事実、1ピースを持ち上げてみただけでズシっとした重みが指に伝わってきます。欲を張ってMサイズを選んだりしていたら、大変なことになっていたかもしれないぞ。

  • 具材もたっぷり

そしてもちろん、チーズは伸びるよどこまでも。食べてみれば、(決して大げさな表現ではなく)高校生のころの記憶がさっと蘇ってきたのでした。

  • チーズが伸びる伸びる

濃厚なチーズと、さまざまな具材が織りなす味わい。そうそう、こういう感じ。あの時代にはまだ少なかった本格的なピザであり、その説得力は数10年を経てもまったく変わっていません。ってなわけで、とても満足できたのでした。

ところで、すっかり疎遠になってしまったけれど、高校時代のあいつらはいまどうしているんだろう? あのあとも、ここにピザを食べにきたりしたのかな?

●トスカーナ
住所: 東京都立川市錦町1-4-7
営業時間: 月~日、祝日、祝前日: 11:30~15:00 (料理L.O. 14:30 ドリンクL.O. 14:30) 17:00~22:30 (料理L.O. 21:30 ドリンクL.O. 21:30)
定休日: 12月31日~1月3日