いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、高円寺の中華料理店「味楽」をご紹介。
つい頼みたくなる「本日のランチ」はワンコイン! 味も食べ応えも大満足
高円寺駅南口の高架下を、阿佐ヶ谷方面に数分。やがて左側に、真っ赤な日除け看板が見えてきます。そもそも建物の壁も真っ赤な古いレンガブロックなので、色彩的には派手めかな。
にもかかわらず必要以上に目立たないのは、時代を経てきたものにしかない風格のおかげでしょうか?
いずれにせよ、渋い雰囲気がいかにも高円寺らしいここが、今回のお目当てである「味楽」。
場所的には、ずいぶん前にご紹介した高架下の「タブチ」よりもちょっとだけ駅寄りという感じ。
店内は右側に厨房があり、その手前が真っ赤なカウンター。
ずらりと並ぶスツールも同じく真っ赤で、上部に表示された黄色いメニューのプレートとよく合っています。
そして、左側に4人がけのテーブル席が2卓。
ところで看板やのれんに「中華料理」と書かれているとおり、ここは純然たる中華屋さんであります。でも、よくいわれる「町中華」みたいな呼称でくくってほしくない感じがしちゃうんですよねー。流行のたぐいに流されることなく、地道に営業を続けてきたお店だという印象が強いから(あくまで僕の意見ですよ)。
それに個人的には、中華屋さんであると同時に食堂でもあるという印象が強くて。
事実、店内右側の上部にずらりと並ぶ黄色いメニューのプレートをひとつひとつ確認していくと、「さんまひらき定食」とか「コロッケ定食」「ニラ玉定食」など食堂っぽいメニューも多彩。
かと思えば、中華屋さんっぽい「山菜ラーメン」の隣に「カツラーメン」などというちょっと珍しいものも見つけることができたりして、なんとも目移りしてしまいがちなのです。
ただ、僕はこのお店では「本日のランチ」が好きなんですよねー。正面入り口にかかっているのれん脇の、ホワイトボードに小さく書かれているやつ。
通るたびに確認しているのですが、ライスとみそ汁を除き、その内容は日ごとに少しずつ変わっています。この日は「焼肉、アジフライ、ポークハム、味付けのり、サラダ」。これで500円なのですから、いかにもお得な高円寺価格。
いつも人がたくさんいるのも、つまりは安くておいしいからなのです。
事実、「混まないうちに」と11時の開店少し前に到着したにもかかわらず、すでに店内にはお客さんがひとり。厨房のご主人に「ランチをください」を声をかけて待っている間にもどんどん人が入ってきて、開店時刻10分後にはほぼ満席という状態になってしまったのでした。
やっぱりすごい人気だな。みんな、ここの魅力をよくご存知なんだな。
さて、奥のテレビのニュースを眺めながら待っていると、ほどなくお母さんが「本日のランチ」を運んできてくださいました。
それにしても、楕円形のステンレスプレートに並んだランチは、やっぱり見た目も文句なしの説得力。左側に焼肉、中央にどーん盛られたキャベツの千切りの前にアジフライとマカロニサラダ。キャベツの向こう側にはポークハムがひっそりとたたずんでおり、右側には味付けのりが置かれています。
盛りつけ方はややラフで、マカロニサラダがこぼれ落ちそうな感じだったのですが、そんなところもまた味。きれいに盛りつけられているよりも、なぜかそそられるから不思議です。
しかもね、雑そうに見えてじつは気配りがなされてもいるのです。それがわかるのが、味付けのり。一見するとただ置かれているだけのようなのですが、よく見ると食べやすいようにパッケージの封が少しだけ開けられているんですよ。こういう気配り、なかなかできませんよねー。
なお、みそ汁の具はワカメでありました。
そしてもちろん、ご飯も山盛りで食べごたえ抜群。
「ちょっと多いんじゃないか」と感じさせもしますが、なにしろプレート上の料理が多彩。しかも、そのどれもがおかずとしての機能を果たしてくれるのです。
濃いめの味つけになっている焼肉も、卓上のソースでいただく肉厚なアジフライも、当然ながらご飯との相性抜群。それどころか、マカロニサラダでさえご飯のおかずになってしまうのです。きっと、仕込みがしっかりしているんでしょうね。
ってなわけで、あいかわらずの高コスパだったのでした。だからついランチばっかり頼んじゃうんだけど、今度は「カツラーメン」にもチャレンジしてみなくちゃ。
●味楽
住所: 東京都杉並区高円寺南3-59-10
営業時間: 平日11:00~19:30
定休日: 火曜日、金曜日