いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、中野の立ち食いそば店「田舎そば かさい」をご紹介。

  • 駅真正面の人気店「田舎そば かさい」(中野)

安くてうまくて個性的。極太の田舎そばを味わえる店

中野駅を北口に出ると、ブロードウェイへと続く「中野サンモール」入り口の右側に黄色い看板が目につきます。

  • 駅を出たらすぐ目の前

それどころか駅8番線のプラットフォームからも見えますし、なんなら電車の中からでも確認可能。

それほど目立ち、しかも非常に有名なのが、駅から徒歩0分のそのお店「田舎そば かさい」。僕の知る限り、もう40年以上前からこの地で営業を続けている立ち食いそば屋です。

  • のれんの向こうは……

いまの時代、「立ち食いそば」と銘打たれているお店にもたいていはスツールが用意されたりしているものですが、ここは純然たる立ち食い。のれんをくぐった正面の狭い厨房を、L字型のカウンターが囲むような構造になっております。カウンター正面に並べるのは4人程度で、右手脇の角はかろうじて1人立てるような状態。早い話が、5人程度で満員になってしまうということです。

  • お客さんが途絶えることはなし

しかも、すぐ立ち寄れる絶好のロケーションです。だから常に満員で、数人が並んでいることもしばしば。この日も混むに決まっているお昼は避けようと朝の10時半ごろに突撃したのですけれど、もうすでに満員でしたねえ。読みが甘かったですねえ。

  • 少し離れたところで待つ人も

小規模ながらも間違いなく、中野を代表する人気店であるわけです。

とはいえ、単に「駅から近くて狭いから」人気だというわけではありません。「ササッと食べられればそれだけでOK」なのが立ち食いそば屋ですが、ここにはそれ以上の価値があるのです。端的にいえば、安くてうまくて個性的。安くてうまいだけではなく、際立った個性を持った店でもあるということです。

なにが個性的かといえば、そば。

これにつきます。そば屋なんだから当たり前だろうとツッコミが入りそうですが、一度体験してみれば、ここまで断言したくなる理由がきっとわかるはず。店名に「田舎そば」と書かれているとおり極太の田舎そばを使っており、それがとてもうまいわけさ。

加えて、そば以外にも特筆すべき点がいくつかあるんですよねー。それを立証するために、「たぬきわかめそば+生たまご」をオーダーすることにしましょう。僕、これが大好きなんですよ。

カウンター右側の壁にメニュー表がかかっており、そこから注文の品をチョイスするシステム。麺の量も「並盛」「大盛」「ハーフ」から選べます。

本当はそのメニューの写真も撮りたいところだったのですが、なにしろ狭く、お客さんも食べ終えたらすぐに立ち去るようなお店。そんなところに居座ってバシャバシャ写真を撮るわけにもいきませんから、今回は写真が少なめです。

さて、注文してから数十秒で、お待ちかねの「たぬきわかめそば+生たまご」がカウンターに置かれました。

  • たぬきわかめそば+生たまご

この時点でお店の方に代金を支払うシステム。無駄がなく、とても効率的です。

そばにたぬきとわかめ、ねぎが載せられ、あとからつゆをたっぷり注いでくれるスタイル。なので、たぬきもすっかり汁を吸っておりますが、それがまたうまいんですよ。

「……あの、私もここにおりますので……」ってな感じで、ちょっと控え目にどんぶりの向こう側から自己主張している生たまごもかわいらしい。

  • たまごが控えめに見えるほど堂々たる見栄え

割り箸でぐいっと引き上げたそばは、前述したとおり圧倒的な太さです。いい意味でゴワゴワしており、意外とコシがあるところも頼もしい。いかにも「ザ・田舎そば」といった趣で、絶妙の味わいです。また、ほどよい甘味のあるツユは鰹出汁が効いていて、これがまたそばと相性抜群。

  • ゴワゴワした田舎そば

さらに見逃せないのが、徳島県産だという天然わかめ。肉厚で濃厚な味わいがあり、脇役以上の存在感を見せつけてくれるのです。だから僕としては、ここでそばを食べる際にはわかめをトッピングるすことを強くおすすめしたいところ。

なお、控えめに見えるたまごの黄身も割れにくく、しかも濃厚。こちらもいいものを使っていそうな気がします。

ってなわけでメンバーひとりひとり(またメンバーに例えるのかよ)が相応の個性を備えているだけに、それらが噛み合ったとき、ジョージ・クリントン率いるP・ファンク軍団のごとき圧倒的なグルーヴ感を生み出してくれるのです。それにね、ただでさえそうなのに、そこにゲストが加わると、さらにコズミックな奥行きが生まれるのですよ。

そのゲストとは、ステンレスのカウンター上にちょこんと置かれたすりおろし生姜。

  • すりおろし生姜もポイント

どこかのタイミングでこれをひとさじ加えると、濃厚な味わいにスッキリとした爽快さが加わるんですよねー。

それがとっても効果的なので、訪れた際にはぜひともこれも試していただきたいところです。

しかし、考えてみると不思議な店だなー。頻繁に通っているわけではないのに、ある程度の時間が経つと、無性にまた食べたくなるから。とか書いているだけで、なんだかまた食べたくなってきちゃったぞ。

●田舎そば かさい
住所: 東京都中野区中野5-63-3
営業時間: 月~金6:30~21:00、土・祝7:30~20:00
定休日: 日曜日