いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。

今回は、荻窪のとんかつ屋さん「たつみ亭」をご紹介。

  • 昔から、ずっとおいしいとんかつ屋さん「たつみ亭」(荻窪)

"国内産の銘柄豚"を使用した、こだわりの味

荻窪駅には、西口が2つあります。ひとつは線路を隔てて南側の西口(すでに変な表現だな)で、もうひとつはルミネ側のそれ。

説明しづらいのですが、今回ご紹介する「たつみ亭」というとんかつ屋さんがあるのは後者。駅の階段を降り、左にマクドナルドを見ながら直進すると目の前に現れる「白山通り」沿いです。

  • 白山通りを進んだ左側

ちなみに、奥に白山神社があることからその名がついた白山通りには、1980年代になると「ハクサンタウンズ」という名称が加わりました。

  • 真正面には白山神社

なぜ複数形なのかはなはだ疑問なのですが、それはともかくこの商店街を向かって左、すなわち西荻窪方面に直進。「なごみの湯」という温泉施設を通り過ぎてちょっと進んだ左側、白山神社の真正面に「たつみ亭」はあるのです。

  • 荻窪を代表する老舗

1968年(昭和43年)から営業を続けている、荻窪を代表するとんかつ屋さん。地元なので僕にとっても馴染みは深いのですけれど、とはいえ近いと「いつでも行けるから」ということになってしまいがち。ですから、考えてみると今回お邪魔したのは10年ぶりくらいです。

店内に入ると、すぐ左にテーブル席が3卓。右側にも1卓があり、中央部分のレジの向こう側が厨房になっていて、その向かいにはカウンター席になっています。

  • すっきりと清潔な店内

手前の席に座り、メニューをチェック。

  • まずはこれらが運ばれてきます

ちょうどランチタイムだったのですが、基本的にはどの時間であっても定食はご飯、豚汁、お新香つき。豚汁がついてくるところが、まずはたつみ亭ならではの魅力のひとつなんですよねー。もちろんかつも絶品ですが、豚汁もまた魅力的で。ひさしぶりに伺ってみようと思った時点で、豚汁の記憶が鮮やかに蘇ってきたほどです。

さて、「ハンバーグ、メンチカツは売切れ」との表示が出ていたので、ランチメニューには「とんかつ」「ひれかつ」「ロースのソテー」「チキンかつ」の4種ということになります。

  • ランチメニューはこんな感じ

  • ブタのイラストもおなじみ

ロースの脂身が好きだという方も少なくないようですが、僕は脂身がちょっと苦手なひれかつ派なので、当然ながらひれかつで。好みの問題ではあるのですけれど、ここのひれかつって一般的なそれ以上に食べやすい印象があったんですよね。10年前の記憶だけれど、はたして同じ印象を抱くことができるかな?

注文を聞いたお店の女性が「ひれかつ定食です」と伝えると、厨房のほうから「はい、ひれね」と答える声が。そしてほどなく、調理の音も聞こえてきます。

ちなみにBGMもかかっていないし、テレビがついているわけでもないので静かなのですが、それがいい。ピリッとほどよい緊張感が心地よく、とっても落ち着きます。

  • 思わずビールを飲みたくなってしまいます

そしてほどなく、お待ちかねのひれかつ定食が運ばれてきました。「ご飯はおかわりできますので」というひとこととともに。

  • ひれかつ定食

で、目の前に現れたひれかつを目にしたら、なんだかそれだけでうれしくなってしまいました。「そうそう、こういう感じだった」って。

  • ご飯はおかわり自由です

なにより、カリッと揚がった衣の質感がたまりません。そして、その奥にある肉の質感といったらもう。ここは厳選された国内産の銘柄豚を使っていることでも有名ですが、断面からも肉の上質さが伝わってくるようです。

ともあれ、楽しみにしていた豚汁からいただくことにしましょう。

  • 具だくさんの豚汁

豚肉、ねぎ、にんじんなどの具材がたっぷりと入ったそれは、適度に繊細さを感じさせながらもしっかりとした味わい。これだけでも満足できるというほどのクオリティです。

ひれかつにはソースの小皿もついてきますが、まずはなにもつけずにそのままいただいてみることに。サクサクとした衣の質感に次いで上品な肉の旨みが広がっていき、期待どおりのおいしさ。からしを少しつけてみると、さらに味わいが引き立ちます。

  • 肉質も極上

で、以後はソースとからしをつけ、キャベツの千切りを箸休めにしながらゆっくりと味わっていきます。

ひとくち食べるごとに、いろいろな思いが頭をよぎっていくなぁ。

ひとつ感じたことがあります。その味は間違いなく、昔から変わることのない"たつみ亭の味"なんですよ。しかし、それでいて10年前とはなにかが違っている気がしたのです。もちろん、いい意味で。

  • すばらしいルックス

変えてはいけない基本を守りながら、時代に即した"なにか"を加えているかのような。肉質がそう感じさせるのかもしれませんし、考えすぎだと突っ込まれればそのとおりかもしれないのですけれどね。しかしいずれにしても、予想以上に満足できたのは事実。

考えてみると、こういうお店が近所にあるってすごく贅沢なことだな。もっと頻繁に利用しなくちゃいけませんね。

●たつみ亭
住所: 東京都杉並区上荻1-10-4
営業時間: 11:30~14:00、17:00~20:00
定休日: 不定休