いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、阿佐ヶ谷にある「光陽軒」です。
阿佐ヶ谷で慕われ続ける味を求めて
長く続いているのに、地元の人にしか知られていない――。どこの街にも、そんなお店があるものです。
今回ご紹介する光陽軒も、まさにそんなタイプ。メディアで紹介されることはほとんどないのですが、けれど、しっかり地元に根づいているのです。
阿佐ヶ谷駅北口を出て、中杉通りの世尊院前交差点を荻窪方向へ曲がった「北仲通り商栄会」という商店街沿い。ただ、飲み屋の並ぶスターロード商店街をくねくねと抜けて行ったほうが距離的には近いと思います。
ちなみに商店街とはいうものの、このあたりはむしろ住宅地というべきのどかな雰囲気。そんななか、光陽軒は「ゆうゆう阿佐ヶ谷館」という立派な高齢者施設の並びにあります。
この通りは週に何度か自転車で通っているので、もうかなり前から気になっていたのです。すぐ近所に住む知り合いの音楽家からも、「最高ですよ」と聞いていましたし。
だからいつかは行かなければと思っていたのですが、なんと飲み仲間のRさんがここの常連であることが発覚。「ぜひ光陽軒で昼飲みしましょう」とお誘いを受けたので、「そりゃー行きますわ!」と快諾したのでした。ヒャッホウ!
伺ったのは、とある休日。のれんをくぐると、かつて水戸黄門役をやっていた俳優の東野英治郎に似たご主人と、穏やかそうな奥様がにこやかに迎えてくれました。
店内は左側に厨房とカウンター席、右にテーブル席。我々は、いちばん奥の2人用席へ。外を眺めていると、自転車に乗ったおばちゃんがすーっと通り過ぎて行ったり。なんとも阿佐ヶ谷らしい、ゆるやかな空気です。
ちなみにこの時点では他にお客さんはいませんでしたが、それは11時半の開店時刻を狙ったから。でも、ほどなく次々とお客さんが集まってきたので、底力をまざまざと見せつけられた気がしました。
ビールが進む"光陽軒魂"を感じるメニューの数々
ともあれ、まずはビールを注文。当然のようにサッポロ生ビール黒ラベルの大瓶が出てきたので、「わかってらっしゃるなあ!」という感じです。
しかし、お通しとして出てきたチャーシューを見て驚きました。6切れのチャーシューと、メンマ、キャベツの千切りつき。これ、普通に一皿分としてお金が取れる量です。事前にRさんから「量が多いです」とは聞いていたのですが、そうか、こういうことだったのか。
続いて頼んだ餃子も、カリカリの皮とぎっしり詰まった餡のバランスが絶妙なので、ビールが進んでしまいます。
で、その後、2人でシェアしようとチャーハンを頼んだところ、またもや驚かされることになったのでした。チャーハンをひとつだけ頼んだのに、スープは各人に一杯ずつ。それどころか、そのスープがミニラーメンになっているのです。
しっとり目のチャーハンは、ビールのつまみにもなる感じ。ってなわけでビールを追加したら、今度はつまみが少なくなってきたため、また調子に乗って「カツ丼のあたま(ご飯抜き)」まで頼んでしまうことに。
いや、無限ループでしょこれ。さすがに食べすぎ。
あとから聞いたところ、焼きそばの盛りもすごいのだとか。他にもいろいろ"光陽軒魂"を象徴するメニューがあるようで、掘れば掘るほど財宝がザクザクと出てきそうなお店だと感じました。
食べて飲むことに気を取られていましたが、ふと目をやると店内はほとんど満員状態。単身客から老夫婦、果ては若い女性の2人組まで、いろんな人たちが舌鼓を打っています。
しかも大声を出す人もおらず、かといって静寂に包まれているわけでもなく、全員が自然にこの店の空気に溶け込んでいるといった印象。
いいなぁ、こういう雰囲気。だから落ち着くんですね。
聞けば今年で50周年。つい先ごろ、常連さんが会場を手配して記念パーティーを開いてくれたのだそうです。そんなエピソードからも、地元でいかに愛されているお店であるかが想像できますね。
●光陽軒
住所:東京都杉並区阿佐ヶ谷北2-17-3
営業時間:11:30~20:00
定休日:火・水