いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、国立の喫茶店「ロージナ茶房」です。
20年ぶりに訪れる国立の老舗喫茶
考えてみると、国立の駅で降りたのはずいぶんひさしぶりです。ずっと車利用だったから、駅は利用しなかったしな。だから、駅舎が新しくなってからのことはまったく記憶にないのです。
とはいえ、この街に流れる落ち着いた空気は、あのころからずっと好きでした。一橋大学があるせいか知的で、多摩地区の他の街とはどこか違っている気がして。だから、また行かなくちゃと思っていたし、行くならどこよりも先に訪れたいと思っていたのが、今回ご紹介する「ロージナ茶房」です。
駅の南口を出て、大学通りを右に入ってすぐ。レトロな外観は、以前とまったく同じ。オープンは1954年だというので当然と言えば当然なのですが、「そこにあること」を確認できただけでも、なんだかホッとします。
そして青いドアを開けて店内に足を踏み入れると、これまた懐かしさがどどっと押し寄せてくるのでした。
一階と二階の2フロア構成。でもお昼前の一番乗りだったこともあり人もまばらで、一階の全体を見渡せる壁際の席をチョイスしました。なんだか「帰ってきた」感があって落ち着くわー。
フロアを眺めていたら、最後に家族で来たときのことを思い出しました。あのときはまだ、息子が幼稚園に通っていたんだよな。彼はもう社会人でこの春に26歳になるので、少なく見積もっても20数年ぶりだということになります。
そのときはグラタンとかいろいろ頼んだのだけど、食べきれなくて困った記憶があります。そう、このお店は料理も充実していておいしいのですが、一品の量がものすごく多いのです。
だから、あのとき食べきれなかったグラタンに再チャレンジしてみようかとも思ったのですけれど、今回は名物メニューの「ザイカレー」を食べてみることにしました。
「ザイカレー」の由来とそのお味は……?
不思議な名称に関しては、「"ザイ=罪"で、一橋大学の学生が罰ゲームとして食べさせられていたからその名がついた」などという説もあるのですが、これは嘘。
お店の人に改めて聴いてみたところ、いまは亡き創業者が旅先のインドで食べたカレーを再現したものなのだとか。そのときカレーの名称を尋ねた際、「ザイ」という答えが返ってきたというのです。
しかし由来がどうであれ、お店の看板であるザイカレーは、もはや完全にロージナ茶房ならではのオリジナル。
ほどなくして現れた"それ"は見るからによく煮込まれていて、とてもおいしそうです。そしてもちろん、ごはんの盛りもすごい。横から見てみると山のようで、またしても食べ切れるかどうか不安になってきます。
食べてみると、酸味のあるキリッとした辛さがとても新鮮。しっかり辛いのですが、煮込まれているがゆえのコクもあり、とてもおいしい。あとからポツポツと入ってきたお客さんもほとんどがザイカレーを頼んでいましたが、充分に納得できる話です。
なんにせよ、「ここでしか食べられない」と思わせるものって強いじゃないですか。ザイカレーには、間違いなくそんな力があります。辛いけれどしっかりつくってあることがわかるから、スプーンが止まらなくなってしまうのです。 ちなみに添えられているピクルスも爽やかで、箸休め(スプーンだけど)に最適。
さて、ザイカレーを食べ終えると、いいタイミングでコーヒーが運ばれてきました。これまた、カップの形状もコーヒーの味も、いい意味で昔ながら。
静かに流れるクラシックをバックに、コーヒーを飲みながら本を読んでいたら、なんだか学生時代のことを思い出してしまったりもしたのでした。
「20年ぶりなんです」
お会計のとき、オーナーとおぼしききれいな女性に声をかけると、「そうなんですか。でも20年だと若いほうで、40年ぶりだという方もいらっしゃるんですよ」とのこと。
60数年の歴史があるんだから、それはそうだろうなぁ。これを機会に、今後はまたちょこちょこ足を運んでみよう。帰り道、そんなことを考えたのでした。
●ロージナ茶房
住所:東京都国立市中1-9-42
営業時間:9:00-22:45(L.O.食事21:50、お茶22:10)
定休日:無休