いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、八王子の喫茶店「Live & Cafe SAKURAYA」をご紹介。
57年もの歴史がある老舗コーヒーショップ
以前、八王子のレトロな喫茶店「サントス」をご紹介したことがありました。ずいぶん前の話になりますが、じつはあの日の帰り道、たまたま近くにに見つけたお店がずっと気になっていたのです。ちょうどお休みだったようで閉まっていたのですけれど、コーヒー色の看板が印象的で。
それが今回ご紹介する「Live & Cafe SAKURAYA」。
どんなお店か知りたくて帰宅後に調べてみたところ、立派なウェブサイトを発見。そこにあった記述によると、1965年に開店し、当時からハンドドリップのコーヒーを提供し続けてきた老舗コーヒーショップのようです。57年もの歴史があるんですね。
しかも2015年には音響設備を整え、ジャズやクラシックなどのライヴ・イヴェントも定期開催しているのだとか。
八王子駅北口から徒歩なら10数分、バス利用の場合は3つ目の八日町一丁目停留所近くと、やや離れた場所ではあるのです。けれども、これは気にするなというほうが無理な話。そこで、初めて見つけてたら1年数ヶ月が経過した先日、ようやく伺ってきたのでした。
お店は、上が住居になっているのであろう立派な建物の一階。ドアを開いて足を踏み入れた瞬間、ちょっと驚かされました。なぜって、店内が予想以上に広かったから。
歴史を感じさせる茶色いテーブルと椅子がゆったりと並んでおり、正面突き当たりにはTVモニター。格子の壁に遮られたその向こう側が厨房になっているようで、そちらにはカウンター席もある様子。ときおり、常連さんらしき人の声が小さく聞こえてきたりもします。
窓に近いほうにはL字型のソファ席があり、左奥にはグランドピアノやウッドベース、ドラム・セットなどが。無理して確保したスペースでライヴをやるというレベルではなく、たしかにこの空間ならミュージシャンも余裕を持って演奏に専念できることでしょう。というよりも、そう考えたうえで設計されているのであろうことが容易に想像できるのです。
ここはすごいぞ。
基本的にはコーヒーショップなのですが、スパゲティ、ピラフ、サンドイッチ、トーストなどもあるようですね。お昼がまだだったのでなにか食べようと思ってメニューをチェックしてみたところ、目に止まったのが「醤油のナポリタン」。「醤油味で仕上げたサクラヤオリジナルのナポリタン」だそうで、文句なしにこれで決まり。
サラダとドリンクがつくセットにしてもらい、もちろんドリンクにはメインブレンドの「サクラヤミックスコーヒー」をチョイスしました。
なお14時近くでお客さんは数人しかいなかったため、TVモニター真正面の特等席に座ることができました。モニターに映し出されるディジー・ガレスピーのライヴ映像を眺めていると、やがて厨房のほうからパスタを炒めているのであろう音が聞こえてきます。
その魅力的なサウンド(サウンドなのか?)を聞きながら期待に胸を膨らませていたら、まずはサラダが登場し、そののちお待ちかねの「醤油のナポリタン」がお目見え。
具材にはベーコン、マッシュルーム、ピーマンが入っており、てっぺんに海苔がかかっていることを除けば、見た目は普通のナポリタンですね。
でもいただいてみれば、やはりそれは“醤油の”ナポリタンなのです。とはいっても醤油は決して効きすぎておらず、適度に醤油の風味が感じられる程度。予想以上に上品な味つけで、アルデンテなパスタとの相性も文句なし。
まさにこのお店の“オリジナル”であり、これを食べるためにまたお邪魔したくなるほどの説得力があります。いや、ホメすぎているわけではなく、本当にこれは大当たり。
そして食べ終えてしばらくすると、お次はコーヒーが運ばれてきました。レトロなフォントで「サクラヤ」と書かれた、白いカップ&ソーサーがかわいいですね。いただいてみれば、とてもまろやかなのに、ときおり適度な酸味も伝わってきて、しかも奥深さを感じさせてくれる味。さすがは老舗コーヒーショップという印象です。
やっとお邪魔できたわけですが、ここは文句なしにすばらしいお店。もしも近所にあったとしたら、間違いなく定期的に通ってしまうんだけどな。
●Live & Cafe SAKURAYA
住所:東京都八王子市八日町10-11
営業時間:10:00〜17:00(ライブイベント時は終了時間が変更)
定休日:月曜、第一火曜