いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、西荻窪の喫茶店「ウッドストック」をご紹介。
西荻窪と吉祥寺の中間に、気になる看板が…
西荻窪駅北口から神明通りを吉祥寺方面に向かって、目的もなしに自転車で走っていたある日の午後のこと。
そのあたりを通る際、普段ならそのまま女子大通りに出るのですけれど、とくに理由もないまま、少し手前の公園脇の道を曲がってみたのです。
ちょうど西荻窪と吉祥寺の中間で、ロケーション的には武蔵野市ということになりますね。お店のたぐいは見当たらない、閑静で落ち着いた住宅街です。が、やがて右側に、ともすれば見落としてしまいそうな看板が見えてきたのです。
「WOOD STOCK 1979」とあり、まんなかに手描き風のウッドストックのイラストがレイアウトされています。「スヌーピー」に出てくるあいつですが、あんまり似てないところが逆にかわいい。
でもね、お店なんか見当たらないんですよ。そこでキョロキョロ周囲を見渡してみたところ、右手の奥まったところに緑豊かな空間があることに気づいたのでした。
なんとなく人の家の敷地に入っていくようなシチュエーションなので、ちょっとドキドキしますねえ。けれど緊張しながら近づいてみると、そこにも店名の入った立て看板があり、左側には別荘風の建物が。どうやらここが、「ウッドストック」という名の喫茶店のようです。
白い壁に大きなガラス窓、日除けとドア・窓枠の黄色がいいアクセントになっています。住宅地のなかに、こんな場所があったとは。せっかくなのでお邪魔してみましょう。
店内はすぐ右側に大きなテーブル席があり、奥に進むと右側にカウンター。さらにその先の壁際と窓際には、藤の椅子とテーブルがたくさん並んでいます。「お好きな席へどうぞ」との声を聞きながらいちばん奥の窓際の席に落ち着き、改めて入口のほうを眺めてみると、思っていた以上に広々としていることに驚かされます。
とくに、圧巻なのが窓際です。すぐ近くに白樺の木があり、その周囲も緑豊か。さらに正面側は公園に隣接しているので、すぐ近くを子どもたちが走りまわっていたりするのです。
なんだ、このシチュエーションは? 適度なレトロ感が心地よいし、まるで昭和の軽井沢にあった喫茶店みたいだな。
メニューはドリンク類が中心で、トーストやピラフ、カレーなどの軽い食事も少々。最初はコーヒーだけにしようと思っていたのですが、もう少しゆっくりとこの雰囲気を楽しみたいと思い、ケーキセットを注文してみることにしました。コーヒーか紅茶にケーキがつくようなので、ホットのコーヒーをチョイス。
BGMにはジャズがかかっていて、カウンターには常連さんらしいおばあさんがひとり。コーヒーを淹れるママさんと、ときどきお話をされています。とはいえ店内は静かで、しかも窓の外からは子どもたちの声。こんなの癒されてしまうに決まっているじゃないですか。ってなわけで、しばし読書の時間。
それにしても、ほどなく運ばれてきたケーキセットを目にしてビックリ。生クリームと葡萄がのったシフォンケーキの手前に、大きなメロンが鎮座していたのですから。
いや、いわれてみればメニューにも、メロンとケーキの写真が載っていたのです。でも、「写真はイメージです」的なものだろうと思って気にもかけていなかったんですよね。ところが、イメージどころかめっちゃリアルで、しかもサイズも大きめ。
コーヒーは苦味少なく、柔らかな味わい。フレッシュなメロンと葡萄、手づくりであろうシフォンケーキとの相性も抜群です。
コーヒーとケーキのおいしさ、ジャズのBGM、そして公園から聞こえてくる楽しそうな声と、幸せな素材が凝縮しているようで、文句なしに落ち着きます。
帰りがけにお話を伺ってみたところ、看板にあるとおりお店ができたのは1979年だということなので、今年で43年目。以前は隣の公園の敷地もお持ちだったそうで、それを武蔵野市に譲ったところ、それが公園になったということのようです。
いやー、本当にたまたま見つけたのですけど、穴場とはまさにこういう店のこと。ママさんも気さくで親しみやすい方だったし、今度また改めてお邪魔したいところだな。そのときは、ちょっと気になったビーフカレーも頼んでみよう。
●ウッドストック
住所:東京都武蔵野市吉祥寺東町4-3-9
営業時間:11:00〜18:00
定休日:木曜・金曜