いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、高尾のうなぎ屋さん「うなぎ釜めし 藤田」をご紹介。
「素材の味を楽しむ」という枕詞に期待
ずいぶん前に通りかかったとき、その看板がすごく気になったんですよ。なぜって「うなぎ釜めし」と書かれていたから。うなぎと釜めしの2種を出す店なのかなと最初は思ったのですけれど、店頭にはうなぎの白焼きが入った釜飯の写真が出ていて、「うな釜白」との表記があるのです。
うなぎの釜飯なんか食べたこともないけど、そういうものを見つけちゃったら気になって仕方がないじゃないですか。
だから改めて行ってきました、高尾の「うなぎ釜めし 藤田」まで。
高尾駅の南口に出て、バスロータリーを抜けた先の信号を右折してすぐ右側。迷うことが難しいほどわかりやすい立地です。
とはいえ中央線の西側奥、基本的には多くの人で賑わう街ではない高尾であり、しかも平日の午前中。だから混むことはないだろうと楽観的に考えていたのですけれど、11時を少しすぎたあたりで窓際に並ぶ2卓のテーブル席は埋まり、正面奥の座敷にも単独客が。
「お好きな席へどうぞ」と声をかけていただいたので左奥の座敷に落ち着きましたが、これはちょっと驚きです。地元では有名な店みたいですね。入って右側が厨房になっていて、そちらで調理をされているのがご主人のよう。接客を担当されている奥様らしき方に、迷うことなく「白のうな釜」を注文します。
メニューにある、「素材の味を楽しむ」という枕詞が期待させてくれますね。「お米から炊くので20分くらいかかりますけど、いいですか?」と聞かれましたが、もちろん大丈夫ですとも。
しばらくすると、のり、あられ、三ツ葉、胡麻、山葵が並んだ三品皿、お新香がのった小皿、冷奴、お茶碗、そしてわさび塩が登場。
しばらくすると、のり、あられ、三ツ葉、胡麻、山葵が並んだ三品皿、お新香がのった小皿、冷奴、お茶碗、そしてわさび塩が登場。品数が多いだけにそれだけでも見栄えがするのに、あとから「サービスです」と、とろろまで持ってきていただけたのでビックリです。うれしいなあ。
そののち20分ほどで運ばれてきた「白のうな釜」のふたを開けると、ふっくらと炊き上がったご飯の上に、これまたふっくらとしたうなぎの白焼きが10切れも。これだけで充分に食欲を刺激されてしまいますが、どうやらこれには食べ方があるみたいです。
炊き立てのうま釜 白をまぜます。
一膳目は静岡吉田産うなぎの甘みと新潟米コシヒカリのお米の甘みをご堪能下さい。
二膳目は、のり、わさびをのせ お好みで静岡戸田産わさび塩をかけてお召し上がり下さい。
三膳目はご飯の上に、のり、三ツ葉、わさび、あられ、ごまをお好みでのせ、土びんに入ったダシを注いでお茶漬けとしてお召し上がり下さい。
いわれたとおり、最初はなにもかけずにうなぎとご飯だけをいただいてみましょう。なるほど、うなぎとお米、それぞれが本来持つほんのりとした甘みが広がっていきます。
次に、のり、わさび、わさび塩をかけた二膳目。少し刺激が加わると、うなぎとお米がまた違った印象を伝えてきますね。
そして最後は待望のお茶漬け。考えてみるとお茶漬けを食べること自体がひさしぶりだったのですが、すべての素材のうまみが上品なだしと絡み合い、さらりとしたなかに奥深さをも感じさせてくれます。これは贅沢な食べ方だなあ。
いやー、まさしく絶品。時間をかけてお邪魔したかいがあったというものです。と感動していたら、帰ろうとしていた老齢の女性とお店のお母さんとの会話が聞こえてきました。
「おいくらですか?」
「うな丼は3190円です」
「3190円! 安い!」
「そう、安くしてるの」
うな丼もきっとクオリティが高いだろうし、たしかにその値段では安いですね。同じく、うな釜が2860円だというのも破格だと思いますよ。
だからすっかり満足し、「いいものを食べたなあ」と思いながら席を立つと、お母さんが少し慌てたような表情で「サービスでコーヒーがつきますけど……」。
なんと、これだけいろいろ出していただいたのに、コーヒーまでいただけるんですか? サービス満点すぎますね。
いい気分で帰路に着くことができたのは、隙のないホスピタリティのおかげです。
●うなぎ釜めし 藤田
住所:東京都八王子市初沢町1231-31
営業時間:11:00〜14:00、17:00〜21:00
定休日:木曜日