いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、神田のコーヒーショップ「斎藤コーヒー店 内神田店」をご紹介。
平日には多くの人が行き交う神田、休日は…
見かけは、なんの変哲もないコーヒーショップです。店内に足を踏み入れてみても、とりたてて特徴のようなものは見つかりません。
左側のレジスターで支払いを済ませたら、奥に進んでオーダーしたものを受け取り、空いている席に座る。いたってシンプルな、よくある他のチェーン店と同じスタイル。
しかし、斎藤コーヒー店という名のこのお店、じつは今年で74年目という長い伝統を持つお店なのです。その証拠に、ビル裏側の誰の目にも入らないような場所に、「1948 斉藤珈琲店」という小さな看板がかかっていたりします。厳密にいうと本店があるのは日本橋室町で、今回お邪魔した内神田店は支店にあたるんですけどね。
神田の西口商店街を入り、佐竹稲荷神社を横目に見ながらさらに進むと現れる内神田中央通りを左折してすぐ。
ちなみに平日には多くの人が行き交うこの周辺は、週末には人の数が激減します。数十年前に近隣の会社に勤めていた僕も、休日出勤するたびに平日との人口密度の違いに驚いたものです。
ですから土曜のお昼前に伺ったこの日も、おそらく人は少ないんだろうなと踏んでいたのです。事実、西口商店街にものんびりとした空気が流れていましたし、お目当てのこちらにも人影はほとんどありません。
やっぱり早めに来て正解だったな。
そんなことを考えつつ、暑い日だったのでアイスコーヒーと、それからミックスサンドを注文。入り口近くの席に落ち着いたのでした。
ところが意外にもその後、次から次へとお客さんが入ってくるのです。さすがに平日に多いサラリーマン風の人は見当たらなかったけれど、とはいえ性別も年齢も多種多様。ひとつだけ共通しているように思えたのは、若い人も年配の方も、みんな“日常の一部分”としてこのお店を利用しているのだろうなということ。
ナイキのエアフォース1を履きこなした、いかにもヒップホップが好きそうな若い子が入ってきたり、ひとりで入ってきた女性が「まだ食べたことがないから、きょうはシナモントーストにしようかな」などとお店の方と親しげに話していたり……。このあたりは基本的にビジネス街なんだけど、みんなどういう人なんだろう?
そんなことを考えながら待っていたら声がかかったので、カウンターで注文したものを受け取ります。
うれしかったのは、アイスコーヒーが懐かしい銅製のマグカップで出てきたこと。銅製カップは熱伝導率が高く、熱いものは熱く、冷たいものは冷たく、温度を均等に伝えることで知られています。事実、すでにカップの周囲にはびっしりと水滴がついており、見た目にも冷たそう。
いまやコーヒーチェーンではプラスチック製カップが一般的ですが、やっぱりアイスコーヒーといえば、昭和を思い起こさせるこのスタイルがいいですよねー。
しかもこのアイスコーヒーが、とてもおいしい。このお店で使用しているコーヒーは駅前の本店で焙煎していると聞いたことがあるので、その味を楽しむためにはホットコーヒーを選ぶべきだったのかもしれません。でも、そもそもの豆の質がいいからなのでしょう、アイスコーヒーの味も極上。キリッとした苦味が心地よく、しかも奥深さを感じさせてくれるのです。
正直なところ、ここまでしっかりとした満足感を与えてくれたアイスコーヒーは初めてかもしれません。決してホットの代用品ではなく、アイスコーヒーとしての存在価値を明確にアピールしてくるわけで、これはちょっと驚いたなー。
なおコーヒーがメインなのでフードメニューはトーストやサンドウィッチのみですが、今回オーダーしたミックスサンドの完成度も文句なし。ハム、卵、レタスがたっぷり入っており、サイドメニューとは思えないほどの満足感があります。
食べてみれば見た目以上にボリュームがあり、おなかいっぱいになってしまいましたし。
ともあれ、そんなことも含め、決して派手ではないけれどもしっかり正統派。いろいろな意味で納得させてくれるお店。創業当時からの基本を失っていないからこそ、74年も続けてこられたのでしょうね。
●斎藤コーヒー店 内神田店
住所:東京都千代田区内神田3-9-3 キスケ神田西口ビル(旧森元ビル)1F
営業時間:月〜金7:30〜18:30、土11:30〜17:30
定休日:日曜・祝日・年末年始