いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、荻窪の喫茶店「F.イワモリ」をご紹介。
「café candle」とは…?
荻窪駅南口の「仲通り商店街」を入って曲がり角を2つ越え、左に見えてくる「竹中書店」を通り過ぎると、その並びに喫茶店が現れます。
80年代チックな雰囲気がなんとも印象的。しかも上部の看板を確認してみれば、お店の名前がちょっと変わっているんですよね。なにせ「《café candle》F IWAMORI」と書かれているのですから。
IWAMORIさんであることは、かろうじてわかる。しかし、「F」とはなにか? そもそも、《café candle》とはどういうことか?
数年前に打ち合わせで利用したことが一度だけあったのですけれど、そのときから気になってたんですよね。でも、家から決して遠くはないのに、いや、遠くはないからこそ、なかなか謎を究明しに行く(おおげさだな)機会に恵まれなくてですな。
ということで、すぐ近くにある行きつけの古書店「古書ワルツ」を覗いた帰りの夕方、購入した数冊の古本を片手に伺ってみたのでした。
足を踏み入れると、目に飛び込んでくるのはカラフルなキャンドルの並んだ棚。つまり《café candle》とは、「キャンドルも売っているカフェ」ということなのでしょう。
そして右手のメインスペースには、10人ほど座れそうな大きいテーブル席が。
「そうそう、以前はその席に座って打ち合わせをしたんだったなー」と思い出したものの、ひとりお客さんがいらっしゃったので、今回はゆるやかな弧を描く左側のカウンター席を選びました。
カウンターの上には、ラムやリキュールなどアルコール類のボトル、花、なぜかフクロウのぬいぐるみなどが雑然と置かれています。でもスペースがゆったりとられているからか、不思議な統一感がありますね。
さらによく見れば、きれいに並べられたクッキーのパッケージには表の看板と同じ「F」のロゴマークが。つまりはクッキーもまた、ママさんの手づくりなのかもしれません。
さて、目の前の「おすすめMENU」と書かれたプレートの最上部には、「ケーキ+コーヒー・紅茶 ¥900」と書かれています。ということは、これをいちばん推しているということですね。
僕は甘党ではないので、喫茶店でケーキを頼むことはほとんどないんですよ。でも、この感じだとケーキをいただくべきかもしれません。そこで、おすすめだという「レモンのシフォンケーキ」とアイスコーヒーをお願いしました。
それにしても、いい雰囲気です。スペースがゆったりとられているし、ひとりいたお客さんが帰ったあとは貸切状態に。
有線放送だと思われるBGMは最新の洋楽。ケンドリック・ラマーがかかったりするので、そんなときにはレトロな店内になんともミスマッチなグルーヴ感が生まれます。
さてさて、そうこうしているうちにレモンのシフォンケーキが、そしてそのあとにアイスコーヒーが到着しました。
考えてみると、シフォンケーキってひさしぶりに食べるなあ。しかも弾力のあるそれをフォークで切って口に運んでみると、ほんのりとレモンの香りが。レモンのその「強すぎない感じ」が、とても上品なのです。偉そうに語れるほど甘いものに詳しいわけではない僕にさえ、この質の高さは理解できるぞ。
そしてコーヒーにもこだわりをお持ちだということは、アイスコーヒーを飲んでみてもわかります。つくり置きではなく、きちんと一杯ずつ淹れている味だから。
それらを楽しみつつ買ってきたばかりの古本のページをめくっていたら、ちょっと贅沢な気分になれました。
なお、お勘定の際にママさんにお声がけしてみたところ、いろいろなことがわかりました。まずは店名について。いわれて思い出したのですが、かつてこの場所には「岩森書店」という古書店があったんですよ。
ママさんはそちらの娘さんで、その跡地で1986年から始めたのがこの店。キャンドルがお好きなので、ただの喫茶店ではなく「キャンドルも売っているカフェ」にしたのだそうです。「F」は、ママさんのお名前の頭文字なのだとか。
ちなみに、いまも駅前にある「岩森書店」は弟さんが経営されているのだそうです。なるほどなー、街には、そしてそこにあるお店には、いろいろなストーリーがあるんですね。改めて感じました。
●F.イワモリ
住所:東京都杉並区荻窪5-21-11
営業時間:10:00〜19:00(ラストオーダー21:45)
定休日:日祝