いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、高円寺のハンバーグレストラン「ニューバーグ」をご紹介。
薄いのにみっちりした不思議食感
その昔、昭和50年代半ばごろのことですが、荻窪の教会通りに「ユーガー」という名前のハンバーグ屋さんがありました。
いま、「やきとり慶屋」というテイクアウト専門の焼き鳥屋さんになっているところ。正面の窓口だけで営業している慶屋は店内を解放していませんが、よく見てみると店の奥にはカウンターが残っています。つまり、それがユーガー時代の名残。
安くておいしかったので、20代だったあのころはよく利用していたんですよ。
出てくるのは分厚い見た目のイマドキっぽいハンバーグではなく、どちらかといえば形状的には薄いタイプ。なのに食べてみればみっちりとした不思議な食感があり、肉の味が凝縮されているのです。
そして、そんなハンバーグに濃厚なデミグラスソースがたっぷりとかかっているのですから、もうたまらなかったわけですよ。個人的にはちょっとだけピリカラなメキシカンソースが好きだったのですけれど、いずれにしても若者の食欲を刺激してやまない、ハンバーグに対する若者のイメージを具現化したかのような非常に魅力的な逸品だったということです。
そんなユーガーが、実は高円寺にある「ニューバーグ」という店の姉妹店だったと知ったのは、80年代後半、昭和が終わろうとしていたころだったかな?
高円寺に住んでいた先輩に連れて行かれたとき、「え、この味、ユーガーと同じだ」と感想を口にしたところ、先輩から「こっちが本家なんだよ」と教えられたんですよ。なんでもニューバーグは、1970年代にはすでにあったのだとか。なるほど、高円寺の駅から近い、この小さな店こそが源流だったのですね。
そんなわけで、ユーガーが閉店してからも、「もしもあの味が恋しくなったら、これからはニューバーグに足を運べばいいのだ」と思うようになったのです。
考えてみると、ずいぶんご無沙汰だったんですけどねー。
しょっちゅう前を通るのに、いや、よく前を通るからこそ、いつでも来られると思っていたのかもしれないけれど。でも、気づけば何十年も経ってしまっていたわけですさ(ダメダメパターン)。
ひさしぶりにお邪魔してみると……おお、昭和っぽい雰囲気はまったく変わってないや。
まずは、入ってすぐ左の券売機で食券を購入しましょう。ひさしぶりだから、ここはやっぱり慣れ親しんだ「メキシカン」でいきたいところだなー。しかも、やはりよく頼んでいた、ハンバーグ2枚の「ダブル」にすることにしよう。
ちなみにハンバーグのダブルと聞くと「多すぎ!」と思われるかもしれませんけれど、不思議なことにここのハンバーグは、ダブルでもペロッと無理なく食べられちゃうんですよ。
でね、鉄板がジュージュー音を立てるメキシカンのダブルが運ばれてきたとき、なんだか妙に胸に込み上げてくるものがあったのです。なぜって、あのころとまったく変わっていなかったから。
重ねられたハンバーグにメキシカンソースがたっぷりとかかり、その上には目玉焼き。スパゲティのソテーとミックスベジタブルが添えられていること、ライスと味噌汁がついてくることも昔のままです。
むしろ、店内にJ-WAVEが流れていることのほうに違和感を覚えてしまうくらい。
さて、期待に胸を躍らせながらハンバーグをナイフで切ってみると、肉の詰まり具合もあのころの印象のままです。肉の味わいを凝縮したようなハンバーグも、他では決して食べられないこの店ならではのスタイル。
ひとくち食べるごとにじゅわっと旨味が広がるので、ご飯もどんどん進みます。しかもじっくり味わってみると、実は味が重層的だったりするんですよね。
とはいえね、これは理屈の問題ではないのです。もっと単純に、感覚で味わうべき味だというか。ああだこうだと面倒なうんちくを傾けるのではなく、「うまいものは、ただただうまい」、それだけ。シンプルかつ直球にそう表現するのが、いちばん正しい。
リーズナブルだし手軽に食べられるのだけど、実はしっかり手をかけてつくられているという印象。だからこそ、何十年も支持され続けているのでしょうね。
ひさしぶりにいただいてみて、強く実感しました。本当にいい店だなって。
●ニューバーグ
住所:東京都杉並区高円寺北3-1-14
営業時間:11:00〜22:00(ラストオーダー21:45)
定休日:無休