いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、西荻窪の喫茶店「ラズベリー」をご紹介。
西荻住人も気になる“あの階段”
「あの店、気になるんだよね」
「あ、やっぱり?」
「そうそう、俺も気になってた」
西荻在住の知人と、西荻のワインバー経営者、そして僕の3人が、同じ店のことを気にかけていたことを知ったのは半年ほど前のこと。
ですよねー。西荻だとあの店のこと、どうしても気になっちゃいますよねー。
というわけで行ってみました。西荻窪駅北口を出て、北銀座通りを青梅街道方面に5分ほど直進したら右側に見えてくるビルの2階にある「ラズベリー」。「アイセイ薬局」の向かい側で、目印はピンク色の階段です(ずっと以前は緑色だったと思うんだけど)。
「本日の定食」の手書き看板に惹かれて上がってみると、入り口脇には「明日の定食」の表示も。
本日のお昼目的で訪れたら明日のことまで知らされちゃうわけで、なかなか味わい深い感じです。しかも赤い文字で“Raspberry”と書かれたガラス窓の向こうには、ズラリと漫画本の並ぶ本棚が。「まず階段」というロケーションはややハードル高めではあったのですけれど、いろいろ期待に応えてくれそうなお店です。
入ると右側に厨房とカウンター席があり、その向かい側には4人がけの丸テーブル席が2卓。
ガラス張りの大きな窓に面しているので、外光がふんだんに入ってきます。そして左側の2人がけ丸テーブル席の向こう側には、カウンター席が数択。つまり通りに面しており、景色を眺めながら過ごすことができるわけです。開店したばかりで他にお客さんはいなかったし、そりゃーこの席を選びますよね。
すぐにマスターが持ってきてくださったメニューを拝見する限り、食事のメニューがとても充実しています。基本的には喫茶店なのでしょうけれど、個人経営のレストランといっても差しつかえない気がします。
ともあれ、ここは「本日の定食」でいきましょうか。Aのハンバーグも気になったのですが、気がつけばBの豚ヒレカツを注文しておりました(なんだよその不可解な決断と行動は?)。
有線放送だと思われるBGMは、1950~60年代のオールディーズ。ロネッツの“Born to Be Together”がかかっているとき、眼下を社会科見学らしき小学生集団が通り過ぎていったり、なんとも牧歌的な雰囲気です。やっぱり、ここは正解だったなあ。
ものの数分で登場したヒレカツ定食も、予想以上の充実度です。大ぶりのヒレカツが4つに、キャベツの千切り、コーン、きゅうり、にんじんなどが混ざったサラダ、マカロニとパイナップルをマヨネーズで和えたもう一種のサラダ、たくあん、わかめと豆腐、ネギが入った味噌汁にご飯、そしてまさかの「のりたま」と、できる限りのサービスを形にしたというような印象。
「ご飯、足りなければ言ってください」と、ありがたい声もかかります。
それにしても、料理を売りにしているだけあって、非常に高クオリティ。カラッと揚がったヒレカツからは、肉の味わいがしっかりと伝わってきましたし、サラダもしっかりつくられていることがわかります。食べすすめているだけで、なんだか楽しい気分になってきたぞ。
これはやはり、喫茶店の片手間ではないな。間違いなく、レストラン級。
しかも、「のりたま」がうれしいじゃないですか。家ではあまり白米を食べないし、何十年ぶりに食べただろうかというくらいひさしぶり。でも、外を眺めつつ箸を進めていたら、「のりたまごはんも、たまにはいいものだなあ」と感じたりもしたのでした。
これは満足。やはり最高のお店でした。お勘定のときマスターにお聞きしてみたら、開店から47年目なのだとか。「もう年なんで、いつまで続けられるか……」と謙遜していらっしゃいましたが、見た目もまだまだお若いですし、これからも続けてほしいところです。他にも気になるメニューがたくさんあったから、またお邪魔しなくちゃな。
ちなみに「コーヒー付」を頼まず料理だけにしたのは、同じ西荻で行きたい喫茶店があったから。コーヒーはそちらでいただこうと思っていたのですけれど、そのあと行ってみたら定休日。だったら、コーヒーもこちらでいただくべきだったなー。判断を誤っちまったぜ……。
●ラズベリー
住所:東京都杉並区西荻北2-11-10
営業時間:11:00~22:00
定休日:日曜