いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。今回は、東小金井にある「宝華」です。

  • 「宝華」(東小金井)(写真:マイナビニュース)

    「宝華」(東小金井)

東小金井駅を降りればすぐそこに

長らく中央線沿線で暮らしているといっても、当然のことながらすべての駅に精通しているわけではありません。ほとんど縁のない駅もあるわけで、僕の場合、その筆頭が東小金井。

武蔵境と武蔵小金井に挟まれたここは、ひとつの目的を除けば、訪れる機会も必要性もなかったのです。用があるときは車を利用していたし、駅に降りたのは初めてかもしれません。

でも、その「ひとつの目的」において無視できない場所があったのでした。南口を出たら左にすぐ見えてくる中華料理店「宝華」。

  • 東小金井駅の南口を出たらすぐ左

    東小金井駅の南口を出たらすぐ左

創業は1971年ということなので、今年で49年目ということになる老舗。ここは、「宝そば」と呼ばれる油そばで有名なのです。

などと知ったようなことを書いていますが、実をいうと今回は20年ぶりぐらい(前回の「エース」といい、そういうパターンが多いなぁ)。そのころ生まれた子が成人になってしまうほどの時間が経過しているわけですから、初めて伺ったのと大差ないかもしれません。

でも、記憶の端っこにこびりついているあの味を、いつかまた体験してみたいとずっと思っていたんですよね。

訪れたのは平日でしたが、時間配分をミスってしまい、東小金井駅に着いたのが正午ちょっとすぎ。これは完全な失敗だったと言わざるを得ませんなぁ。なぜって超人気店なので、お昼時には並ばなければならないから。

だから店の前にはまた列ができているんだろうなと思っていたのですけれど、意外なことに待っている人はゼロ。

もしや、20年の歳月が流れるなかで人気も落ち着いてしまったのかな? そんなことを思いながら暖簾をくぐると、まったくの思い違いであることがわかりました。

店内、お客さんでパンパンでしたからね。

つまり、僕が着いたときは“たまたま”待ち客がいなかっただけのこと。事実、唯一空いていたカウンター角の席についてからも、外にはすぐに行列ができていました。タイミングがよかったのね。

とはいえ、L字型のカウンター席も、たくさん用意されたテーブル席も満員なので、人の顔を避けて写真を撮ることなど不可能。テーブル席に向かって写真を撮るそぶりをしようものなら、一気に全員の視線を集めてしまいそうです。まー、仕方がありませんね。

それはともかく、懐かしの「宝そば」をオーダー……したのですが、その十数秒後に軽く後悔しました。宝そばだけを頼んでいる人は少なくて、ほとんどの人が「チャーハン宝そばセット」をオーダーしていたからです。

そうだったのか、ここではそのセットが人気なのだな。でもタイミング的に「すみませ~ん、やっぱセットで」などと声を張り上げるには遅すぎたため、泣く泣く諦めたのでした。

お客さんはみんな慣れた感じです。といっても常連風を吹かしているという意味ではなく、昔からの馴染みの店を、いつものように利用しているといった雰囲気。

特別な店というよりは、「お気に入りの、地元の店」といった感じで利用している人が多いように見受けられたのです。実際のところは地元の人ばかりじゃないのでしょうが、そういう親しみやすい空気が流れているということ。

隣の席では、きれいなお姉さんがラーメンとチャーハンのセットをなにごもとないように食べていたりして、なんだかかっこよかったです。

  • 活気にあふれる厨房

    活気にあふれる厨房

広いカウンターのなかには、職人さんが5名。それだけの人数がいるというあたり、さすがは有名店ですね。手前にいる大将らしき人のことを、残りのスタッフが手際よくサポートしています。

スッキリとしたバランスの「宝そば」

そして、ほどなく宝そばが登場。

  • 食欲をそそりまくるルックス

    食欲をそそりまくるルックス

大きなどんぶりにツヤツヤの油そば、チャーシュー、ネギ、かいわれ大根、メンマ、ナルトが並んでいます。

  • 麺はコシがあって食べごたえあり

    麺はコシがあって食べごたえあり

そうそう、これこれ。このルックスを見ただけで、いろんなことを思い出します。なにしろ油そばですから、太い麺は油にまみれていますが、しつこさはまったくありません。それもそのはず、油ダレと鶏がらスープ、そして醤油ダレがスッキリとしたバランスを生み出しているのです。

まずは麺をひとくち食べると、一気に20年前に戻ってしまったような感覚。こんなことなら、もっと早く来るべきだったなぁ。

  • "肉感"を存分に味わえるチャーシュー

    "肉感"を存分に味わえるチャーシュー

そして、そこからは一気にかき混ぜ、すべての具材を絡ませてからいただくことに。本当はガシガシ食べるべきなのかもしれませんが、とてもおいしいので早食いはしたくなく、できるだけゆっくり楽しんだのでした。

とはいっても、どんぶりの底が見えてくるに従って、楽しい時間も終わりに近づいてしまうのですよね。

食べ終えたときに思わず「あ、もう終わっちゃった……」とマヌケなことを思ってしまったのですが、つまりはそれほどおいしかったということです。

縁遠い駅だとはいっても距離的には遠くないのだから、これを機会にまたちょくちょく通うことにしよう。


●中華料理店 宝華
住所:東京都小金井市東町4-46-12
営業時間:平日:11:30~15:00、17:30~21:00
     土日祝日:11:30~21:00
定休日:月曜日