いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、 阿佐ヶ谷の喫茶店「パーラーエル」をご紹介。
コーヒーに添えられるのはミルクと……?
阿佐ヶ谷駅の南口を出たら、斜め左に「阿佐谷パールセンター」の入り口が見えます。青梅街道まで続いていて、夏になると「阿佐谷七夕祭」が開かれる大きな商店街。
今回ご紹介する「パーラーエル」という喫茶店は、そのパールセンターを入って少し進むと左に現れる「おさかな食堂」の2階。「サンマルクカフェ」の斜向かいという立地条件にもかかわらず、古くから営業を続けている老舗です。
まず、お店の名前がレトロでかわいらしいですよね。
少し暗い階段を上がって店内に入ると、広すぎも狭すぎもしないスペースに4人がけのテーブル席がズラリ。2面はガラス張りになっているので、そちら側の席に座ればパールセンターを見下ろすことができます。
席につくと、まず目の前に置かれるのは灰皿とおしぼり。そう、このお店は喫煙OKなんですよ。でも換気がしっかりしているので、まったく気にはなりませんね。
ところで朝の9時から営業しているこの店といえば、モーニング・サービスが有名です。なぜって、コーヒーか紅茶、もしくはミルクにトースト、サラダ、ゆでたまごがついて400円なのですが、そもそもコーヒーも紅茶もミルクも単品でそれぞれ400円なんですよ。
破格にもほどがあるといいますか、名古屋並みにコスパがいいモーニング・サービスであるわけです。
ただ、この日伺ったのは11時ちょうどくらい。モーニングは11時半までやっているようですが、どちらかといえば早めのランチにしたい気分です。それに、遠い昔に食べたハンバーグがとてもおいしかった記憶があるので、また食べたくて。
ってことで、「自家製ハンバーグ(ライス付き)」をオーダーすることに。
ところが、ここでひとつ問題が。お店のお母さんから、「ハンバーグはまだなんですよ、これからつくるので」との答えが返ってきたのです。たしかに、ランチタイム前のこの時間では仕方がないかもしれませんね。そこで、すぐにできるという「ポークジンジャー(ライス付き)」をお願いしました。
なお、食後にはコーヒーを頼んだのですが、メニューには「エルでは、お食事時にお飲物もご注文いただきますと、コーヒー・紅茶・ミルクは各¥150になり、たいへんお得です。アイスもOK」との表記も。モーニングのみならず、基本的にサービス精神が旺盛なお店だということですね。
さて、窓の外を眺めながらチルしていると、ほどなくポークジンジャーとライスが登場。サラダとゆで卵、ナポリタンもついていて、喫茶店の正統的なランチといった趣。もちろん、その味も期待どおりです。
ちなみに、BGMは1950〜60年代のオールディーズです。チャック・ベリーの“メイベリン”を聴きながら箸でポークジンジャーをいただくというのは、なかなか稀有な体験だなあとも感じました。
で、食べ終えたころに絶妙のタイミングでコーヒーが出てくるわけですが、実はここにもポイントがあります。コーヒーを頼むと自動的に、ミルクだけではなくホイップクリームも出てくるんですよ。非常に珍しいパターンではないでしょうか。
つまり、それを入れればウインナーコーヒーができてしまうわけで、これも破格のサービスだといえると思います。
僕は基本的にコーヒーはブラック派なのですが、ここまでしていただけたのにブラックに執着するというのは野暮というもの。そこで砂糖とホイップクリームを入れ、そこにミルクをたらし、甘いウインナーコーヒーを楽しむことにしました。
これでもかというほどのサービスも、サッパリとしたお母さんの接客も、すべてが心地よい空間。ひとり客も、常連と思われる数人のおばさまも、それぞれが無理なくこの店で過ごす時間を楽しんでいます。
そんな心地よさがあるからこそ、駅近の一等地で長く営業を続けられるのかもしれませんね。
●パーラーエル
住所:東京都杉並区阿佐谷南2-14-12 イセモトビル2F
営業時間:[火〜土]9:00〜21:00、[日] 9:00〜19:00
定休日:月曜日