いまなお昭和の雰囲気を残す中央線沿線の穴場スポットを、ご自身も中央線人間である作家・書評家の印南敦史さんがご紹介。喫茶店から食堂まで、沿線ならではの個性的なお店が続々と登場します。
今回は、三鷹の食堂「かどや」をご紹介。
気になる謎のメニューを発見
三鷹駅南口に出たら、駅を背にして中央通りを直進。「三鷹産業プラザ東」交差点を左に折れていずみ通りに入り、しろがね通りとの交差点を越えると、右側隣にシブい食堂が現れます。
それが、今回ご紹介する「かどや」。正面右隣はお寿司屋さんだし、左側はシャッターの閉まった店舗だし、つまりは角地じゃないんだけど、でも「かどや」。
僕が三鷹に住んでいた20年くらい前にはすでに充分すぎるほどの年季が入っていましたし、建物のつくりだって明らかに昭和のそれ。だから通るたび気になっていたのですが、なんだかんだで入る機会がなかったのです。
だからこの日、三鷹での用事を済ませたあとでランチ難民になりかけたことは、ある意味でラッキーだったのかもしれません。それに、たまたま通りかかったとき、店頭にかかった黒板が目についちゃったんですよ。
書かれた定食メニューは全部で6種。さば塩焼とかピーマン肉いためとか、魅力的な品が並んでいます。でも初めてだし、無難に肉しょうが焼定食にでもしておこうかなと思っていたところ、なんだか気になるものを発見。
ぎょうざカツ 680えん
なんなんですかね、それ? ぎょうざをカツにしているとは考えにくいし、ぎょうざとカツが少しずつ載っているということなでしょうか? だとしたらコスパよさそうですし、肉しょうが焼よりこっちを選ぶべきかもね。
そこで勇気を出し(って大げさ)、磨りガラスの入った茶色い引き戸を開けてみたのでした。時刻は13時半をちょっと過ぎたあたり。
店内は縦に長く、左側にあるカウンターの向こうが厨房。右側の木製ベンチの上には「三国志」などのマンガが並んでいますが、どうやら古いものばかりのよう。その前や奥には花が飾ってあり、突き当たりには洗面台も見えます。
その時点でお客さんはふたりいて、どちらも常連さんのよう。奥の旦那は新聞を読みながら、天井近くのテレビに映るニュースをチラチラ見ています。もうひとりは僕の一歩先に入った方で、厨房内のお母さんに注文を告げているところ。
で、続いて僕も気になる「ぎょうざカツ」をオーダーです。外の黒板に、定食のみ冷やっこ、湯どうふ、ポテトサラダが格安でつけられるという表示があったので、なんとなくノリで「冷やっこ180えん」も追加することにしました。
ところで、そののち待っていたところ、ちょっと驚いてしまったのです。なぜって、常連さんだと思っていた奥の旦那が後ろからお茶を持ってきてくださったから。なるほど、常連さんではなくご主人だったんですね。
こりゃー意外な展開だたなあと思いながらお茶をいただいていたら、まずは小鉢に入った冷やっこと薬味がカウンター上に置かれました。そしてすぐに、お新香も登場。バンドのメンバーがひとりずつステージに上がってくるみたいで、なんだかわくわくしますねえ。もうすぐライヴがはじまる。
そのあとは少し待つことになったのですけれど、でも、ぎょうざとカツなんだから時間がかかっても当然ですよね。カツを揚げている音を耳にしながらそう思っていると、次にご飯と味噌汁が出てきました。一見クールな感じに見えるお母さんから、「熱いですよ」と声がかかります。
そしていよいよ、ぎょうざカツが姿を表すことに。いや、じつは頼んだあと、「ぎょうざとカツじゃ、ちょっと多すぎたかな」と軽く後悔もしたんですよ。ところがですね、問題はそういうことではありませんでした。
なんと、ホントにぎょうざのカツだったんだな。
皿の上には、カツと同じように衣がつけられ、カラッと揚がった“ぎょうざ状のもの”が。なーんて表現をしたのはカキフライにしか見えなかったからなのですが、いずれにしてもこれは初めて見ましたわ。
でも驚いたのは、意外なくらいに食べやすかったこと。ぎょうざのカツならくどそうにも思えますけど、上手に揚がっているせいかとても食べやすいのです。
ちなみにカツにはソースをかけますが、ぎょうざにソースはちょっとなぁと思ったので、あえて醤油でいただきましたよ。当然ながら、ご飯もどんどん進みます。これは意外なヒットだったかも。
まさかこういうものが出てくるだなんて、ブルージーな店の外観からは想像もつかなかったなー。やっぱり、気になる店には入ってみるものですね。そうすれば、こういう意外な体験ができるかもしれないのだから。
改めて、そう強く感じた木曜午後でした。
●かどや
住所:東京都三鷹市下連雀3-19-16