8月に入って子ども達の夏休みも真っ盛り。しかし、お盆を過ぎると始業式まであっという間です。毎年自由研究や工作のネタを慌てて一緒に考えるお父さん、お母さんは多いのではないでしょうか? そこで今回は夏休みの工作ネタにもなるピンホールカメラの作り方を紹介したいと思います。

ピンホールカメラの原理

「ピンホールカメラ」と聞くと、空き箱に印画紙やフィルムを入れた手作りカメラを思い浮かべる人もいると思います。印画紙やフィルムの現像は難しそうと思っている人も安心してください。今回紹介するピンホールカメラは、手軽に誰でも楽しめるようにデジタル一眼レフカメラを題材にしています。デジタル一眼レフカメラを使うメリットは、感光剤(フィルムや印画紙など)の交換、現像という作業が省略できること。それと撮影した画像もすぐ確認できるので、構図や露出時間を決めることが容易になることです。

写真を撮るには最低限「光の入り口」と「光の像を定着させる感光剤」が必要になります。デジタル一眼レフカメラを利用したピンホールカメラの感光剤は、撮像素子がそれにあたります。写真を撮るにはレンズが不可欠だと思っているかもしれませんが、ピンホール写真ではレンズを使わず、代わりに針のような小さな穴を使います。

下の図がピンホールカメラの原理です。小さな穴を通った光は直進するので、「木のてっぺんからの光」「根っこからの光」などが投射され、撮像面に像を結びます。なぜ通常はこうならないかというと、光は無数の方向から飛んでくるため、像が見えないのです。ピンホールカメラは、穴以外の方向からやってくる光を遮断することで、像が見えてくるのです。

ピンホール写真の特徴をざっとまとめると、(A)レンズを使わないので、光学ガラスによって起こる像の歪みや収差がない、(B)近距離から遠距離までピントが合ったパンフォーカスの画像になる、(C)開放値が針の穴程度に小さいので、光量が少なく露光時間が長い、(D)小さな円が集まって像を結ぶので柔らかい画像になる、などが挙げられます。

ピンホールによって穴以外の方向からの光は遮断され、穴を通った光のみが像を結ぶ

ピンホールカメラの作り方

それでは光の入り口となる穴、ピンホールを作ってみましょう。ピンホールはボディーキャップを利用します。カメラ用品店で400円程度で購入できます。ピンホールを通った光の点で像を結ぶので、この穴の精度で写真の描写性能が決まってきます。真円に近く穴が小さいほど、シャープな画像を得ることができます。

一眼レフカメラのボディを使う場合、撮像素子までの焦点距離を考えると、ピンホール径は0.2~0.3mm程度がいいでしょう。ピンホールカメラの焦点距離はフランジバック(レンズを取り付けるマウント部から撮像素子までの距離)の値とほぼ等しくなります。メーカー(マウント)によってフランジバックの値は違いますが、だいたい43~46mm程度のようです。

ピンホールはボディキャップと身近な材料で作ることができます。アルミ缶を切るので小さなお子さんは、必ず大人と一緒に作るようにしてください。以下、手順を画像を使って説明します。

写真(1):材料はボディキャップ、はさみ、紙ヤスリ、キリ、針、粘着テープ、アルミ缶、ドライバーなど

写真(2):ボディキャップの中央にキリで穴を開けます。この穴はピンホールではないので、大きくてもかまいません

写真(3):キリで開いた穴をプラスドライバーで押し回しながら広げます。ドライバーでなくても大丈夫です

写真(4):直径5mm程度まで穴を広げます

写真(5):紙ヤスリでバリを削り、削りカスを水で洗い流し、乾かします

写真(6):アルミ缶を切ります。キリで穴を開け、そこからはさみを入れるのがいいでしょう。手を切らないように軍手を忘れずに

写真(7):アルミ缶から2cm角ていどの大きさを切り出し、平らな場所で空き缶の曲がりを直し、平らな板にします

写真(8):アルミ板の中央に裁縫針で0.3mm程度の小さな穴を開けます。この穴の精度でピンホール写真の描写力が決まります

写真(9):ボディキャップ同様、紙ヤスリでバリを削り、削りカスを水で洗って乾かします

写真(10):完全に乾いたら、穴の開いたボディーキャップに針穴が開いたアルミ板を粘着テープで固定します

写真(11):一眼レフカメラに取り付けるピンホールの完成です

シャッタースピードが長いピンホール撮影

ピンホールカメラの絞り値は「絞り値=焦点距離÷ピンホール径」で求められ、例えば焦点距離45mm、ピンホール径0.3mmの場合では絞り値はF150になります。

絞り値がレンズに比べて大きいので、シャッタースピードはとても長くなります。そのため撮影には三脚が必要です。三脚がない場合は台に置いて撮影するなど、ブレを防ぐ工夫をしてください。また、デジタルカメラを利用したピンホール撮影は撮像素子のゴミが写り込みやすいので気をつけて下さい。ゴミ取り機能を搭載していないカメラなら、ピンホールを取り付ける前にブロアでゴミを吹き飛ばす程度の掃除はしたほうがいいでしょう。

カメラ側の設定はマニュアルモードで撮影します。シャッター速度優先AEでも撮れることはありますが、マニュアルでないとシャッターが切れない機種もありますので確認してください。シャッタースピードの目安は被写体の明るさやISO感度によって変わりますが、今回は「晴れ:1/15~2秒」、「日陰や曇り:1/2~10秒」、「昼の室内:15~30秒」、「夜間:40秒~」で撮影できました(ニコンD50・ISO200で撮影)。

室内や夜間撮影では極端にシャッタースピードが長くなるので、秒数指定ではなく、リモコンなどを使ったバルブ撮影になります。ISO感度を上げるとシャッタースピードを短くして撮影できますが、ノイズが多くなるのでISO800以上はオススメできません。シャッタースピードはデジタルカメラの特性を活かして、背面液晶で確認しながら調節しましょう。このときに構図も確認できます。

ピンホール撮影はシャッタースピードが長いので、人の動きや車のテールランプの軌跡などを撮影した長時間撮影が楽しめます。普段撮影している写真と違う画像を得られるのがピンホール撮影の醍醐味でしょう。また、自分で作ったレンズ代わりのピンホールを装着して撮影する驚きと喜びもあると思います。夏の思い出を不思議なピンホール写真で残してみてはいかがしょう。

ピンホール写真は露光時間(シャッタースピード)が長いため三脚があると便利

バルブ撮影ではリモコンやレリーズケーブルを使用するとラクに撮影できる

失敗例。ゴミが写ってしまった。レンズを交換するときはブロアの習慣をつけたい

 (以下、作例です)

ピンホール径が大きめだと画像のぼけ具合も大きくなる
ISO100/1/2秒
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左のペンギンの写真より小さなピンホール径で撮影。ピンホールが小さいほど露出時間も長くなるが、像はシャープになる
ISO100/30秒
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セルフポートレート。撮影中動かないようにしなければならないが、それもまた楽しい
ISO200/4秒
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逆に被写体が動くことで多重露光のような表現も可能になる
ISO200/6秒
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野球場で1枚。守備のときは被写体も止まっていた
ISO200/1秒

黒い被写体はシャッタースピードが長くしないといけない。SLのような重厚な被写体もピンホール撮影では柔らかく感じる
ISO200/8秒

古いパンダシーソーがよけいにノスタルジックに表現された
ISO200/10秒

モノクロ写真にするとひと味違った印象になる
ISO200/4秒