私事ながら、最近ではレタッチするときはもちろん、普通に画像チェックするときも「ヒストグラム」を出しっぱなしにしています。人の目は惑わされがちですが、ヒストグラムは冷静に画像の素性を表してくれるからです。今回はこのヒストグラムと「レベル補正」をからめ、写真の明るさとはなんぞや? どういった写真がカッコよいか? といった話をしようと思います。

画像(1):夕焼けを広角で撮影。補正あり

右に山があれば明るく、左なら暗い

ヒストグラム(Histogram)は"度数分布図"という意味です。数学や統計などではいろいろ使い途がありますが、デジタルカメラやデジタル画像では"輝度分布"を表すのに使われます。横軸が明るさ(輝度)、縦軸がピクセル数ですから、同じ明るさの点がたくさんあればグラフが上に伸び、少なければ低くなります。慣例的に右が明るい側、左が暗い側ですので、山が右に寄っていれば全体に明るい画像、左なら暗い画像ということです。

なんだかよくわからないときはサンプルを見るのが一番です。画像(2)は夕焼けの公園ですが、全体に暗い画像になっています。そのためヒストグラム(画像内の右下)は左側に山ができています。画像(3)はプールの水面ですが、画像にほとんど暗い部分がないため、右寄りに山があります。

「それで?」と突っ込まれそうですが、実際にどう使われるかというと、とりあえず白飛び(または黒つぶれ)の確認に便利です。画像(4)はデジタルカメラでのヒストグラム表示ですが、普通はこのように山形のグラフが表示されます。しかしたまに画像(5)のように、ヒストグラムが右に張りつく画像もあります。画像のかなりの部分が白飛びしていることがわかります。とまあ、ここまでが初歩の初歩ですね。

画像(2):公園の石畳に反射する夕日。露出補正はしていない

画像(3):プールの水面。これも露出補正なし。見た目はもっと明るい

画像(4):カメラによってヒストグラムの表示方法は異なる。これは画面全体を使うタイプ

画像(5):白飛びを起し、ヒストグラムが右に寄った。白い部分はベランダの内側

レベルを詰めてコントラストの低い画像を整える

次は「レベル補正」の出番です。ここでいうレベルとは、明るさの幅のこと。ヒストグラムの横軸と同じと考えてください。このレベルを調整するのがレベル補正です。ここではPhotoshopを使っていますが、他のレタッチソフトでも同じような操作が可能です。

画像(6)を見てください。バイクのヘッドライトですが、全体に暗くなってしまいました。中央部に光の反射があるために、カメラが判断して露出を落としたようです。こういった写真はけっこう多く、例えば明るい空を広く入れると白飛びを恐れて(?) 露出を下げるカメラが多いようです。

図(7)が写真(6)のヒストグラムです。予想どおり、明るい側が使われてなく、山が左に偏っています。ここで図(8)の「レベル補正」を開いてみます。ヒストグラムにいくつかのツマミ(レバー)が付いたようなモノですが、このうち、右側のツマミをヒストグラムの山が終わっている裾の部分まで移動させます。これが"レベルを切り詰める"操作です。

補正後が画像(9)です。(6)よりもはるかにクリアに、メリハリの付いた画像になりました。図(10)のヒストグラムを見るとレベルを使い切っているのがわかります。さらに右のツマミを左に寄せたものが画像(11)です。図(12)のヒストグラムを見ると、明るい側は完全に白飛びしていますが、むしろこのくらいのほうが夏の光の強さが表現できて、いいかもしれません。

上では明るい部分を使い切っていない画像を見ましたが、逆に暗い側を使ってない画像もあります。画像(13)は街並みの写真ですが、グレーの道路が多く写っているため、カメラが露出を明るくしたようです。暗い側が使われていません。これもレベル補正で切り詰めるとメリハリの効いた画像になります。

画像(14)はレンズに光が入り、いわゆるハレーションを起した写真です。この場合もレベルの暗い部分が使われていません。レベルを切り詰めれば締りが良くなりますが、ハレをそのまま生かして、あえてレベルを詰めないという手もあります。

画像(6):バイクのヘッドライト。日差しは強いが、写真は暗くなってしまった

図(7):画像(6)のヒストグラム。右の明るい側が使われていない

図(8):レベル補正。右のツマミを左に寄せ、レベルを切り詰める

画像(9):補正後の写真。ヌケが良くなり、クリアな写真に

図(10):画像(9)のヒストグラム。レベルを使い切っているのがわかる

画像(11):さらに右のツマミを動かし、わざと白飛びを多くしたもの

図(12):画像(11)のヒストグラム。右側が張りついている

画像(13):日が傾きかけたころの街。暗い側は使われていない

画像(14):ハレーションを起こして白っぽくなった写真

全体のレベルを切り詰めるだけではうまくいかないことも

画像(15)は望遠レンズで撮影した写真です。遠景ではよくあることですが、霞んだ状態のまま撮影されています。ヒストグラムを見るとレベルの左右とも使われていません(実際には、明るい側を上、暗い側を下と見立て、"上下とも使われてない"といいます)。真ん中の明るさしかないわけです。こういった画像は"コントラストが低い"とか"ねむい"とか"ゆるい"と言い方をします。これはこれで雰囲気があって良いのですが、それだと話が進まないので先程の要領で左右のレベルを切り詰めてみます。

左右を切り詰めたのが画像(16)です。どうでしょう、気持ち悪いと思いませんか? 妙に緑色が立って、人工的な色になってしまいました。右下の道路もなんだかヘンです。こうなると色別に補正するしかありません。光の色はR(赤)/G(緑)/B(青)の3色で成り立っていますが、これを個別にレベル補正するわけです。

図(17)はヒストグラムの色別表示です。Photoshopなどのレタッチソフトはもちろん、図(18)のようにカメラでも色別にヒストグラムが表示できます。レベル補正も同じです。Photoshopの場合、図(19)のように「チャンネル」を変えることで色ごとのレベル補正が可能になります。そうやって処理したのが画像(20)です。どうでしょう? ずいぶん自然になったと思います。補正の詳細は略しますが、図(17)と(21)のヒストグラムを比べると、色のバランスが微妙に違っていることがわかると思います。

画像(15):200mmの望遠で撮影。春夏はこのように遠景が霞みやすい

画像(16):レベルを切り詰めた画像。しかし緑が鮮やか過ぎるなど、いまひとつ

図(17):Photoshopの場合、「全チャンネル表示」を選ぶと色別ヒストグラムが表示される

図(18):デジタルカメラでの色別ヒストグラム表示。これはEOS-1D Mark III

図(19):レベル補正は色ごとの操作が可能。それぞれを操作した場合の色の変化も楽しい

画像(20):まあ、このぐらいがバランスのいいところ

図(21):画像(20)の色別ヒストグラム表示

部分ヒストグラムで色の傾向をチェックする

さて、色別ヒストグラムが出たところで、そろそろ真骨頂(?)に近づいてきました。部分ヒストグラムです。Photoshopでは範囲指定した部分だけのヒストグラムを見ることができます。画像(22)に(A)(B)(C)と記しましたが、元の画像(約800万画素)のそれぞれの位置の100×100ピクセルの部分ヒストグラムが図(23)です。(A)は肌の部分ですので、赤が強めに(明るく)出ています。(B)の青い服はその逆。(C)のコケまじりの地面はわずかに緑が強くなっています。

例えば画像の特定部分の色をおかしいと思ったら、そこを範囲指定してヒストグラムをチェックするわけです。最初は「それで?」という感じですが、多くの画像で試していると、ヒストグラムが示す色の違いがなんとなくわかってきます。

もうひとつ、部分ヒストグラムで画像を見ると、カメラのキャラクターの違いがてきめんにわかります。同じシーンを異なるカメラで撮影すると、それぞれの部分の色の作りがどう違うか、大変よくわかります。チャンスがあれば試してみてください。

画像(22):日陰での人物写真。(A)~(C)の各部で、色がどうなっているかを見る

図(23):各部100×100ピクセルの部分ヒストグラム。元画像は800万画素

白を飛ばす勇気、黒をつぶす度胸

さて、ざっくりヒストグラム(とレベル補正)の話をしましたが、わかるでしょうか? JPEGでは256階調しかないとか、ヒストグラムの輝度分布とレベル補正のRGB合計量は微妙に異なるとか、ダイナミックレンジとレベルの違いとか、難しいところは端折りましたが、まあ、興味があれば調べてみてください。

レベルを左右まで使い切れば(ヒストグラムが左右までいっぱいに伸びていれば)、メリハリの効いたヌケのいい写真になるわけですが、重要なのは、それらを理解した上で無視することです。

例えば冒頭の画像(1)は夕景ですが、G(緑)やB(青)は明るい部分を使い切っていません。そこそこバランスよくなるように補正したのが画像(24)です。手前の建物がよく見えますし、色の偏りも減っています。しかし、なんとなくつまらない写真になってしまいました。(1)のほうがドラマチックで迫力があります。私はこちらのほうが好きです。

画像(11)の白飛びも同じですが、妙にバランスよくまとめると、写真がつまらなくなることが往々にしてあります。写真にセオリーはあっても、ベストの方法はありません。たぶん、ヒストグラムはそれら理解の助けをしてくれるはずです。

画像(24):全体のバランスを良くし、赤みを減らした夕景。なんだかなー