レストア作業も佳境に入ってきたスズキ「ウルフ 50」。今回はタイヤを新品に交換する。タイヤ交換はバイクのレストアで避けて通れない作業だが、そう難しいものではない。しかし、今回はこの作業でも、意外な苦戦を強いられた。

前後のホイールはすでに取り外してある。装着されているタイヤは山が残っているが、古いのでカチカチに硬化して、とても使える状態ではない

ホイールを外したら、必ずベアリングをチェックしておく。指で回してみて、ちょっとでもごろごろした感じがあれば交換しなければならない。今回は大丈夫だった

苦戦した理由のひとつは、このバイクのタイヤがチューブ入りのタイプだったことだ。キャストホイールだし、年式も1990年くらいなのでチューブレスでもまったくおかしくないのだが、開発年次が古いせいだろうか。チューブ入りのタイヤは交換作業がやや面倒になるのだが、今回困ったのは、新品のタイヤが販売されていないことだ。

「ウルフ 50」のホイールは前後17インチで、純正サイズはフロントが「80/90-17」、リアが「90/90-17」。最初の数字がタイヤの横幅、次の数字がタイヤの扁平率、最後の数字がホイールサイズを表している。現在でもこのサイズ、もしくは近いサイズのチューブタイヤは販売されているが、いずれもスーパーカブなどビジネスバイク向けだ。「ウルフ 50」のようなスポーツバイクではグリップ力が不足する恐れがあるし、なによりトレッドパターンがスポーティでなくなり、かっこわるい。

どうしたものか悩んだが、結局行き着いたのは定番の解決法であるチューブレスタイヤの流用だ。しかし、比較的に商品数の多いチューブレスタイヤでも、「80/90-17」「90/90-17」というサイズのタイヤはない。仕方がないので、少し太くなるが「90/80-17」と「100/80-17」を選んだ。前後とも横幅10mmのサイズアップなら、問題はないはずだ。

まずタイヤを外す。チューブレスタイヤではビードを落とすのが大変なのだが、チューブタイヤでは手で押すだけで簡単に落ちる

ビードの片側をホイールの外側に外し、チューブを引っ張り出す。自転車のパンク修理と同じ手順だ

タイヤをホイールから分離させるのもチューブレスタイヤでは苦労するものだが、このタイヤはすでだけで簡単に外せた

ホイールを塗装するので、ブレーキディスクなどを取り外す。ブレーキディスクの固定ボルトは緩み止めがたっぷりと使われているので、緩めるのに苦労する

ホイールを塗装 - 新品同様に蘇った

バイクのホイールには、スポークホイールとキャストホイールがある。スポークホイールはサビが出ると厄介で、錆びているスポークやリムを手間をかけて磨き、それでも新品とは程遠い光沢で妥協するか、もしくは錆びているスポークやリムを新品に交換するしかない。スポークの交換は非常に難しい作業だ。

しかし、キャストホイールならどんなに古ぼけていても、サビが出ていても、塗装をやり直せば新品同様になる。つまりレストア向きだ。「ウルフ 50」のホイールはもちろんキャスト。塗装は劣化し、色あせていたので塗装することにした。

塗装は下地が大切で、本来は劣化した塗装をすべて剥離するのが望ましい。しかし、これは非常に手間がかかる。ホイールの塗装をよく見たところ、新車時の塗装のみだったのでこの上から塗ることにした。すでに重ね塗りされている場合は手間がかかっても剥がしてから塗ったほうがいいが、新車時の塗装に重ね塗りをするのなら実質的に問題はない。

もちろん、重ね塗りであっても下地処理は必要。普通はサンドペーパーをかけるのだが、ホイールは形状が複雑なので、柔軟性のある研磨パッドやスポンジ状の研磨材を使うと良い。安く済ませたいなら100円ショップで売っているスチールタワシでも代用可能だ。

研磨パッドでホイール全体を磨き、汚れや劣化した塗装膜の表面を落とす。同時に表面に細かなキズがつくことで、塗装の密着が良くなる

プライマー、プラサフ、カラー塗料、クリア塗料の順に塗っていく。塗装はレストアの醍醐味が味わえる楽しい作業だ

サフェーサーを塗ったところ。この上から、今回はガンメタリックで塗装した。もし白で塗装する場合は、サフェーサーをもう少ししっかりと塗る必要がある

塗装ができたら十分に乾燥し、新品のタイヤとチューブを組み付ける

塗装自体は簡単で、塗残しを見逃さないことだけ気をつけて塗ればいい。ガソリンタンクなどは、うまく塗らないとツヤが出なかったりするが、ホイールのような形状のものは塗り方による差が出にくい。塗れてさえいれば、見栄えのするものになるはずだ。

タイヤの組付けでリムが上がらず悪戦苦闘

ホイールが新品同様に蘇ったら、あとは購入しておいた新品のタイヤとチューブを組み付けるだけだ。ところが、ここでも苦戦してしまった。まず、タイヤをホイールにはめるのがかなりきつい。チューブタイヤならやわらかいので簡単なのだが、チューブレスタイヤはサイドウォールの強度が高いのではめにくいのだ。とはいえ、それは最初からわかっていたこと。問題はその後だ。

チューブを入れたら、そのあとのタイヤレバーの扱いには十分な注意が必要。さもないとチューブに穴を開けてしまう

チューブを傷つけないように注意してタイヤをはめる。少しコツのいる作業だ

あとは空気を入れるだけ…のはずだったのだが、ここからが大変だった。ビードが上がらないのだ

わかりにくいが、左側から上にかけて、ビードが上がっていない。これでは走行できない。ホイールのリムを磨き、ビードにワックスをたっぷり塗り、空気圧を高めにしてなんとか切り抜けた

タイヤをホイールにはめたら、チューブに空気を入れればタイヤのビード、つまりホイールと接触する部分が、ホイールのリムにせり上がってバチンとはまるはず。しかし、なぜかリムが上がらないのだ。チューブタイヤ用のホイールにチューブレスタイヤを装着したことが原因なのか、とにかく、タイヤがホイールに対して少し小さいとしか思えない。

調べてみたが、チューブレスタイヤがチューブタイヤより小さいなどということはなく、流用しても問題はないはずだ。その一方で、チューブタイヤのリムが上がらないトラブルはときどきあるといった情報も見つかった。結局どうしたかというと、タイヤをいったん外し、ホイールのリムをサンドペーパーで磨いて滑りやすくした。タイヤのビードには滑りを良くするビードワックスをたっぷりと塗り、もう一度タイヤをはめて空気圧を高めに入れると、なんとかビードが上がってくれた。

タイヤ交換後のフロント。タイヤを太くしたためフェンダーとのクリアランスがぎりぎりになったが、なんとか収まった

リアもタイヤを太くしたが、こちらは問題なく取り付けできた。チェーンをまだ取り付けてないが、チェーンとタイヤのクリアランスは十分にある

これで走行に必要な部分はほとんどレストアできたことになる。あとは破れているシートの再生とタンクなどの塗装を残すのみとなった。

レストアの必須アイテムを紹介! 「ミッチャクロン」

今回はアルミのホイールに塗装をしているが、じつはアルミという素材は塗装が難しい素材で、せっかく塗った塗装が剥がれてしまいやすい。

現在では他メーカーからも同等の万能プライマーが発売されているが、やはりこの「ミッチャクロン」の人気が高いようだ

そこで使いたいのが「ミッチャクロン」だ。素材と塗料の密着をよくするプライマーなのだが、アルミや樹脂に使うと一般的なプライマーとは比較にならないほどの効果を発揮する。今回の塗装では古い塗装に塗り重ねているが、アルミが露出した部分もあったので「ミッチャクロン」を使い、その上から一般的なプラサフを塗った。

ここまでのレストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
サビ取り剤 2,890円
プラサフ 699円
フロントフォークシール 1,490円
フロントフォークダストカバー 1,080円
フロントフォークガスケット 216円
フロントフォークOリング 150円
フロントタイヤ 4,938円
フロント用チューブ 1,025円
リアタイヤ 5,800円
リア用チューブ 1,324円
スプレー塗料 1,190円
合計 6万8,796円