苦労させられたエンジンが前回でようやく始動した。おかげで安心して次の作業に進むことができる。どの部分に手を着けてもいいが、エンジン以外では最も心配なガソリンタンクを仕上げてしまおう。

薄汚いタンクだが表側にサビはなく、へこみもない。塗装を前提とすれば非常に良い状態だ

給油口から中をのぞくとこんな有様。ちょっとグロテスクですらある。内部に水がたまっていたため、水面より上の部分のサビがひどい。水没していた部分は酸素がないためあまりさびず、その代わり泥のような汚れがたまっている

古いバイクのガソリンタンクは内部がひどくサビていることが多く、ひどいときは穴が開いていることもある。そこまでひどいのは論外だが、そうでなくてもサビは大敵だ。サビの粉がキャブレターに入り込めば、ガソリンがあふれ出すオーバーフローを引き起こしたり、ガソリンの通る小さな穴を詰まらせたりしてしまう。したがって、サビは徹底的に除去しなければならない。もちろん、ワイヤーブラシでこすって落とすことはできないから、別の方法が必要になる。

レストア中の「ウルフ50」のガソリンタンクは、外観には目立ったへこみがなく、もちろん穴もない。レストアベースとしてはかなり良い状態だ。しかし、内側はサビが非常にひどい。もう何度も触れていることだが、このバイクはガソリンタンクになぜか水が入っていた。そのせいなのだろう、まるでコケでも生えているかのような、立体的に成長(?)したサビがある。

サビの除去には専用のケミカルを使うが、その前に簡単に落とせるサビを落としておく。その方法は、水と中性洗剤、それに鎖を入れてタンクを振ればいい。鎖はボルトやナットでもいいし、小石でもかまわない。原始的な方法だが、時間をかければこれだけでも十分なサビ落としができるほど効果がある。もっとも、今回はケミカルを使うつもりだったので、ほどほどでやめておいた。ちなみに、中性洗剤を入れるのはタンク内の油分を完全に除去するためだ。油分が残っているとケミカルの効果が落ちてしまう。

水と中性洗剤と鎖を用意。あまりひどくないサビならこれだけで落とすこともできる

すべてをタンク内に投入し、ひたすら振り回す。かなり体力のいる作業だ

数分振っただけで、ここまでサビが落ちた。あとは専用ケミカルの力を借りる

バケツに熱めのお湯を入れ、ガソリンタンク専用のサビ取り剤投入

数分ほどタンクを振り回して、水と鎖を取り出し、中を見てみた。最初の状態よりかなりきれいになっている。ただし、タンク内部の鉄板の表面はサビの茶色い状態のままだ。

次はガソリンタンクのサビを落とす専用のケミカルを使う。今回使用したのは工具や工場で使う資材を販売する「モノタロウ」のオリジナルブランドの商品。1リットルの原液を10~20倍に薄め、60度前後に暖めてタンクに投入する。そして数時間から24時間ほど待てばサビがきれいに落ちるという便利なものだ。同様のサビ取り剤はいくつかのブランドから販売されている。

作業にあたっては説明書を熟読して、慎重に作業した。「ウルフ50」のガソリンタンクは12リットルほどの容量があるので、まず60~70度ほどのお湯を12リットル用意。これにサビ取り剤1リットルを投入し、できあがった液体から1リットルほど取り分けておく。これは最後にサビ防止用としてタンク内に投入するためだ。

薄めたサビ取り剤をタンクに満タンに入れる。もう少し入りそうに見えるが、内部構造の関係で、これ以上入れることが難しい

サビ取り後はこうなった。黒いまだら模様はコーティングの残骸なのか? 釈然としないが、これで完了とした

残りの液体をガソリンタンクに入れ、24時間後に液体を捨てて水ですすぎ、内部を確認した。すると少し予想外の結果に。うまくいけば新品のようにきれいな銀色の鉄板の表面が見えるはずなのだが、実際には銀色の鉄板に、マダラ状に黒い部分がある。これは何なのか? いままで何度かガソリンタンクのサビ取りをしてきたが、これは初めてのことだ。

インターネットで検索しても、同じようなケースが見つからない。最初は黒サビかとも思ったが、もっとペンキのように真っ黒だ。もしかしたら、このタンク内には黒いコーティングがされていて、それがマダラ状に残っているということなのかもしれない。

いずれにしても、茶色い赤サビは跡形もなくきれいに落ちている。黒いものは剥がれてキャブレターに流れていくようにも見えないので、少し釈然としないが、これでサビ取りは完了とした。

最後に、取り分けておいたサビ取り剤1リットルを投入してよく振り、排出してそのまま乾燥させる。これでサビの発生を抑える効果があるという

次は外側を仕上げる。まずレタリングを剥がす。ヒートガンで暖めると面白いように剥がれてくれる

外側はやっぱり全塗装! 下地処理まで仕上げておく

タンクの内部が一応きれいになったところで、次は外側だ。前述のように、このガソリンタンクはへこみもなく、塗装の状態も極端に悪いわけではない。レストア当初は塗装をそのまま生かす方向も検討したが、しかし、やはり再塗装することにした。なぜか給油口の回りがキズだらけで、これがあまりにもひどすぎるからだ。

ボディカラーはサイドカバーなど他のパーツと一緒に塗ったほうが効率が良いので、今回はその下地処理までをしておくことにする。まず、「SUZUKI」のロゴをスクレーパーでそぎ落とし、塗装も完全に落としてしまう。キズがひどい部分も同様に塗装を落とす。これは単純にペーパーがけで落とした。塗装全体を剥離剤で落とす手もあるが、このタンクは部分的な薄利だけで大丈夫だろう。

レタリング跡と、キズのひどい部分を120番でこすって塗装を完全に剥がす

さらにタンク全体を240番のペーパーでこすり、シリコのオフというケミカルで拭き上げる。これをやらないと塗料が弾かれてしまうことがある

プラサフを塗る。台にしているのは古い回転椅子で、回しながら塗れるので非常に便利

プラサフが乾いたら400番でのペーパーで表面を滑らかにする。ペーパーを水で濡らす「水とぎ」をすると粉が飛び散らず、ペーパーも長持ちする

ペーパーの目の細かさを示す番手は、塗装を落とす部分には120番を使用。これだけ目が粗いと、すぐに塗装が落ちる。続いてタンク全体を240番で足着け(細かいキズを付けて塗装の食いつきをよくすること)し、プラサフを塗った。

プラサフとは、塗装の食いつきをよくするプライマーと、表面を整えるサフェーサーの役割を併せ持つ塗料。今回のように部分的に塗装をはがした場合、その上からいきなりボディカラーの塗料を塗ると、塗装を剥がした跡が線になって浮き出してしまうことがある。プラサフを塗ることで防それを防ぐことができる。

プラサフは2~3回重ね塗りして完全乾燥させた後、400番で全体をペーパーがけし、もう一度プラサフを塗った。次は600番でペーパーがけしてからボディカラーのー塗料を塗るが、今回はここまでにして、保管しておく。

これでガソリンタンクの作業はひとまず完了。他の外装パーツと一緒に塗装するまで保管しておく

燃料コックも分解して掃除しておいた。ゴムパッキンや燃料からゴミを取り除くフィルターは新品に交換する

これでガソリンタンクも仕上がった。今回はほとんど予算を使わなかったが、それでも合計額は5万円を突破してしまった。もはやある程度の予算オーバーはやむをえないが、トータル7万円程度で完成させたい。次回は前後サスペンションを仕上げる予定だ。

レストアの必須アイテムを紹介! 「スマートフォン」

工具ではないが、こういった作業に欠かせないのがスマートフォンだ。分解時に写真を撮っておけば、組み立て時に役に立つ。これは大切なことで、とにかく写真はたくさん撮影しておいたほうがいい。

レンズが小さく、その横に照明がついているスマートフォンだから、タンク内も簡単に撮影できる

ちなみに、今回のガソリンタンク内の写真はすべてスマートフォン(iPhone6Sプラス)で撮影している。こういった記事に使うための写真は一眼レフカメラで撮影しているのだが、タンク内を撮影するには一眼レフのレンズは大きすぎ。なんとかレンズをタンク内に抜けたとしても、内部を明るく照らす方法がない。

ところが、スマートフォンだとタンク内の写真がいとも簡単に撮れるのだ。こういった使い方以外でも、死角になっていて直接見られないパーツの様子を写真撮影して確認するなど、スマートフォンは工夫次第でいろいろな役に立つ。

ここまでのレストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
サビ取り剤 2,890円
プラサフ 699円
合計 5万1,583円