連載4回目なのに、まだエンジンでもたついている「ウルフ50」のレストア作業。今回はようやくエンジンがかかったところまで紹介するが、正直なところ、かなり苦労させられた。とにかく、順を追って紹介していこう。

キャブレターを分解。ぱっと見たところの汚れはそれほどひどくないが、ガソリンではなく水が入っていたため、汚れの種類が通常と違うようだ

灯油で全体を大まかに洗い、細かいところをキャブクリーナーなどで洗浄したが、なかなか詰まりがとれない

前回、エンジンを分解してオーバーホールを完了したところまで紹介した。今回はキャブレターをオーバーホイールし、エンジンを車体に戻してエンジンをかける。エンジンがかかれば、その後のレストア作業を安心して行えるというものだ。

キャブレターのオーバーホールは、ある意味、バイクのレストア作業では中心となるものだ。この作業をしないレストアなどまずないし、逆にこれをやるだけでエンジンがかかるケースも多い(今回は例外だが)。やることは簡単で、分解し、使えないパーツは交換、使えるパーツは徹底的に洗浄する。非常にボロボロに見えるキャブレターでも、ていねいに洗浄すれば、安価なパーツを1~2点交換するだけで再生できることが多い(これについても今回は例外となったが)。

さて、キャブレターを分解してみたのだが、ひどい状態だ。前回までに紹介した通り、このキャブは内部に大量の水が入っていたので、それによるサビが大量に発生している。キャブレターの内部には、ガソリンや空気が通る狭い通路がいくつもあるのだが、それがことごとく詰まっている状態だ。通常、この詰まりはガソリンが変質したものなので、キャブクリーナーなどのケミカルを使えば除去できるが、このキャブではサビが詰まっているのか、ケミカルで溶けてくれない。

また、このキャブはフロートというパーツが真鍮でできているのだが、これもひどい状態で、交換しなければならない。他にも使えないパーツを新品で購入すると、かなりの金額になりそうだ。水が入ったキャブというのは想定外でもあり、この際、修理するよりも中古のキャブレターをネットで探すことにした。キャブレターは複数の車種で共通部品となっていることが多いので、同等品は比較的に簡単に見つかる。今回は運良く、新品のキャブレターを格安で手に入れることができた。

これでキャブレターは完了……と思ったのだが、そうはいかなかった。まったく同じに見える2つのキャブレターだが、よく見るとスターターバルブというパーツの取り付け穴の大きさが違うのだ。これはどうしたものか、非常に悩んだが、元のキャブレターをなんとか洗浄して、使える状態にすることにした。洗浄しても再生できなかったメインジェット、フロート、ピストンバルブ、パッキンなどは、購入したキャブレターから移植して使用。これらのパーツを新品で購入したら相当な金額なので、購入したキャブレターのおかげで安上がりになったはずだ。

真鍮製のフロートは全体にサビがひどく、内部に水かガソリンか、とにかく液体が浸入していた

中古キャブレターを購入。並べてみても違いはないように見えるが、スターターバルブの形式が違っていた

購入したキャブレターの内部は新品そのもの。真鍮製のフロートも光り輝いていた

左が元のキャブレターのメインジェット。穴が詰まっているのがわかる。下に「77.5」の刻印があり、これが「番手」を示している。右が購入したキャブレターに付いていたもので、ほぼ新品。番手は「90」

以前に「バンバン90」をレストアしたときに購入したキャブレターセッティングパーツのセット。この中に、今回使えるスロージェットが含まれていた

スロージェットはこんな形状。非常に小さなパーツだ

ただ、スロージェットというパーツだけは、元のパーツを再生できず、購入したキャブのパーツも適合せず、流用できなかった。あきらめて購入しようかと考えたが、あることを思い出した。以前、スズキの「RV90(バンバン90)」というバイクをレストアしたことがあるのだが、そのときにキャブレターセッティングパーツのセットを購入したのだ。もしかしたら……と引っ張り出して調べると、ズバリ、適合品があった。非常にラッキーだったが、レストアを長くやっていると、こういうことは意外と多い。

エンジンがかからず、さらにパーツを交換

ようやくキャブレターのオーバーホールが完了したので、エンジンを車体に戻し,キャブレターやマフラー、ラジエーターを取り付け、エンジン始動にチャレンジしてみた。エンジンもキャブレターもオーバーホール済み、点火プラグの火花が飛ぶことも確認済みなので、エンジンがかからないはずがない、と思っていたのだが、なんとかからない。何度キックしても、かかる気配すらないのだ(専門用語で言うと「初爆がない」)。

結局、元のキャブレターに購入したキャブレターのパーツを組み込んで、なんとかオーバーホール完了。ビニールチューブを交換して外観もリフレッシュした

キャブレターを取り付け、エンジンにはミッションオイルを入れて準備完了。しかし、何度キックしてもエンジンはかからなかった

これにはかなり落ち込んだ。しかも、かからない原因がどうもよくわからないので、非常に焦った。調べてみると点火プラグがまったく濡れていないので、燃料がエンジンまで届いていないようなのだが、その原因がわからない。

散々苦労していろいろ調べたところ、原因として考えられるのはエンジンのシリンダーしかないというところに落ち着いた。前回のエンジンオーバーホールで、錆びたシリンダーを再利用したことを紹介したが、それがいけなかったようだ。サビをサンドペーパーで研磨して除去した結果、ピストンとの隙間が広がってしまったらしい。

原因究明のため、さまざまなチェックを行った。これは透明なビニールチューブを使って、キャブレター内部にどれくらいガソリンがあるか調べているところ(油面高さのチェック)

エンジンが空気をしっかり吸い込んでいないようなので、シリンダー交換を決意。社外品のエンジン補修用セットを購入した

右が元のシリンダーで、シリンダー内壁以外はアルミ製。左が購入した新品のシリンダーで、全体がスチール製。非常に重いが、格安なので仕方がない

シリンダーを交換し、改めて準備完了。ここまでかなり苦労した

しかたないのでシリンダーを購入。格安の中古品もあったが、ここは思いきってピストンやピストンリングとセットになった新品を購入した。シリンダー、ピストン、それにピストンリングは使用にともなって摩耗し、エンジンパワーが低下する。これらのパーツを新品にすることで、新車時の性能を取り戻せるのだ。

思わぬ苦戦と臨時出費を強いられたが、シリンダーを交換するとあっさりエンジンがかかった。この瞬間はレストアをしていて一番うれしい。もちろんレストアが完成したときもうれしいが、レストアというのは少しずつ完成していくのであって、ある瞬間に突然完成するわけではないから、うれしさもちょっとずつ分散される。それに対して、エンジンがかかるのはまさに瞬間。そのときのうれしさは格別だ。

願いを込めてキック。3回ほどキックしただけで、あっけなく始動した。いままでの苦労が嘘のようだ

このバイクのエンジンがかかったのは何年ぶりなのだろうか。アイドリングは安定しており、吹け上がりも軽い。こうなると速く走らせたくなるが、焦りは禁物だ

しかし、喜んでばかりもいられない。費用が大変なことになってしまった。エンジンオーバーホールの費用が、ガスケットやシールの合計約8,000円に加え、シリンダー、ピストンセットが1万4,500円。これだけ交換すれば新車時の性能を取り戻せるので投資した価値はあるのだが、それでもこの出費が痛いことに変わりはない。

今回までのレストア費用の合計は、早くも約4万8,000円となってしまった。予算5万円でレストアを完成すると最初に決めたのだが、それを突破するのは確実だ。それも、かなり大幅に超えることになるだろう。しかし、もはや引き返すことはできない。次回はサビのひどいガソリンタンクを再生する。

レストアの必須アイテムを紹介! 「キャブクリーナー」

今回はキャブレターをオーバーホールしたが、この作業に欠かせないのがキャブクリーナーというケミカルだ。

右がワコーズの「エンジンコンディショナー」。もう5年以上前に買ったもので、缶がさびているがまだなくならない。左はクレの「クリーナーキャブ」、中央はパーツクリーナーだ

筆者はワコーズの「エンジンコンディショナー」をメインについ買っているが、これは非常に洗浄力が強い。価格は高価だが、アマチュアなら、1本購入すれば数年使える。ほかに、クレの「クリーナーキャブ」やパーツクリーナーも併用してキャブレターの各パーツをきれいにしていく。

ここまでのレストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
合計 4万7,994円