これまで9回にわたってレストアの様子を紹介してきたスズキ「ウルフ50」。今回で完成となる。これまでにほとんどの作業は完了しており、あとは細々としたパーツの仕上げを残すのみだ。フロントブレーキキャリパーのオーバーホール、ステップの仕上げ、ドライブチェーンの組付け、バックミラー、バッテリーの取り付けなどを行う。それにもちろん、ナンバーの取得もだ。

スズキ「ウルフ50」のレストアがついに完成

まず最初はフロントブレーキのオーバーホール。ブレーキパッドやブレーキフルードは交換が必要だったので、完璧を期すためキャリパーを分解してオーバーホールすることにした。といってもシンプルなシングルピストンなので、作業は簡単。しかも、分解してみるとひどい汚れもサビもなく、短時間で完了した。

次はドライブチェーンの取付け。もともとこのバイクに取り付けられていたチェーンが新品同様だったので、それをそのまま取り付けるだけだ。したがってサイズ間違いの心配や長さを切り詰める手間はかからないが、張り調整だけはしておかなければならない。このとき、リアホイールを浮かせた状態で回転させ、スムーズに回るか必ずチェックしておく必要がある。チェーンが伸びていたり、スプロケットが摩耗したりしていると、空回りさせたときに急に重くなることがあるからだ。

フロントブレーキキャリパーは当初、パッドとフルードだけを交換するつもりだったが、このように汚れがひどいのでオーバーホールすることにした

分解して見ると、キャリパーの内部はほとんど汚れておらず、ピストンにサビもなかった。クリーニングしてピストンのシールとブーツを新品に交換した

使い残しの耐熱塗料を持っていたので塗装した。これで新品同様だ

ドライブチェーンを取り付けた。張り調整をして動きがスムーズか確認し、チェーンカバーも取り付けておく

チェーンを取り付けたら、ジェネレーターカバーと一体になったスプロケットカバーを取り付け、そこにクラッチケーブルを取り付けておく。これで走る機能はすべて完璧になった

以前にエンジンの始動を確認してから数カ月経っているので、1度エンジンをかけてみることにした。冷却水が少し減っていたので追加したが、ガソリンタンクを着けた後だと非常に難しい。ネイキッドだが整備性性はあまり良くないようだ

ステップはサビだらけで歪んだ状態。手に持っているのは購入した新品のラバーパーツだ

ステップはサビを落とした後、ハンマーで叩いて形を直し、シルバーに塗装した。ひどい状態だったが新品同様にすることができた

続いてステップだが、サビだらけな上にひどく歪み、ラバーパーツもすべて欠品していた。じつはレストアを始めた当初から直せるか気になっていたのだが、重要なパーツではないこともあり、いままで後回しにしてきたのだ。今回、ようやく手を着けたが、ハンマーでたたいて形を直し、黒く塗装してラバーパーツを新調すると、新品同様に蘇った。意外と簡単で、心配していただけに拍子抜けしたくらいだ。

ナンバーを取り付けて完成

これで車体が完成したので、いよいよナンバーを取得する。車体を購入したときにもらった販売証明書と印鑑、身分証明書を持って、まずコンビニへ。チケットなどを購入できる端末で自賠責保険に加入する。次に市役所などに行ってナンバーを取得する。なお、原付のナンバー取得は自治体によって手順や必要な書類が異なる場合があるので、事前に調べておいたほうがいいだろう。

ナンバーを取得し、取り付けた。これで公道を走行できる。ここまで長かった

この、贅肉をそぎ落としたような細身のフォルムが「ウルフ50」の持ち味。いかにもゼロハンスポーツらしいプロポーションだ

ところで、今回のナンバー取得で非常に意外なことがあった。この「ウルフ50」は今年初めに購入したが、ナンバーの取得時に今年分の軽自動車税を請求されたのだ。軽自動車税は毎年4月1日時点での所有車に課税される。このとき車両にナンバーが付いているかどうかは関係がないので、筆者が今年分の自動車税を支払うのは当然だ。

しかし、ナンバーが付いていなければ自治体は所有者を知りようがないため、請求書は来ない。こうした場合、従来はその年の自動車税は誰も支払わずに済んだ。筆者はこれまでにも、ナンバーのない車両を1年ほどかけてレストアしたことが何度もあるが、過去の分の軽自動車税を請求されたことは一度もない。しかし、今回はナンバー取得を機に請求された。この数年で制度の運用実態が大きく変わったようだ。

筆者と同じようにバイクのレストアを楽しもうという人は、市役所の窓口でびっくりしないためにこのことを知っておいたほうがいいだろう。

それにしても、この制度には問題があると言わざるをえない。ナンバーのない車両を10年保管しておき、ナンバーを取得したら10年分の自動車税を請求された例もあるようだが、そもそも然るべき時期に請求書が来ないのは所有者の責任ではなく、何年も経ってからまとめて請求されるのは理不尽だ。しかも、その車両をナンバー取得しないまま廃棄した場合、請求されることはない。

古いバイクとはいえ、キャストホイールと角パイプフレームの組み合わせにクラシカルなイメージはない

シンプルなネイキッドバイクなので、派手な赤に塗装したのは正解だった

超ピーキーなエンジンに青春時代が蘇る

晴れてナンバーを取得できたので、さっそく走行してみた。まずエンジン始動だが、信じられないくらい始動性がよく、いまの時期でもチョークを引かずに一発始動する。しかもアイドリングが非常に安定しており、とてもハイパワーを追求したハイチューンなエンジンとは思えない。続いて発進だが、これも意外なほど簡単に発進でき、意外と低速トルクがあるように感じる。

ところが、いざ走り出すと低回転域にはまったくパワーがなく、まともに走れない。5,000回転以下だと非常にゆっくりと加速するのがやっとで、少しでも上り坂だとたちまち失速する。故障したかと思うほどだ。しかし、シフトダウンして5,000回転以上をキープするように走ると、さっきまでの非力さが嘘のように猛烈な勢いで加速する。この弾けるような走り、オイルの臭い、音と振動。これこそゼロハンスポーツだ。青春の記憶が蘇る。胸が熱くなる。

エンジン部分は非常にシンプル、というよりスカスカな印象。しかし、これもゼロハンスポーツらしさとして好感が持てる

フロントのディスクブレーキは必要十分な効き。見た目もかっこいい

リアサスがリンク式のためなのか、このバイクの乗り心地や安定性の高さはひとクラス上のレベル。腕のある人ならサーキットやジムカーナでも楽しめるだろう

決して上手ではない塗装だが、しっかりプラサフを塗ったおかげで発色は鮮やか。古いゼロハンスポーツにはメタリックやパール塗装よりもソリッドカラーが似合う

ただ、正直に白状すると、感動したのは最初だけ。しばらく乗っていたら、回転数をキープするために頻繁なシフトチェンジが必要なことや、気の休まらない排気音、ヒザの曲がりのきつい窮屈なポジションに辟易してしまった。10代の頃なら1日中でも喜んで走っていただろうが、いまはとても長時間走る気にはならない。青春時代を思い出しても、体が青春時代に戻るわけではないことを思い知った。

とはいえ、あの加速したときの感動を味わえただけでも、苦労してレストアした甲斐があった。あと何度か走ったら欲しい人を探して譲ることにしよう。

スズキ「ウルフ50」レストアに費やした金額

品名 金額
車両購入(スズキ「ウルフ50」) 2万円
パーツリスト 500円
エンジンガスケットセット 4,719円
ピストンピン 594円
ピストンピンベアリング 379円
スナップリング 71円
パーツ送料・代引き手数料 874円
クランクベアリング(2個) 605円
オイルシール(4個) 981円
点火プラグ 276円
ボルトなど 65円
中古キャブレター(送料込み) 4,430円
シリンダー、ピストンセット(送料込み) 1万4,500円
サビ取り剤 2,890円
プラサフ 699円
フロントフォークシール 1,490円
フロントフォークダストカバー 1,080円
フロントフォークガスケット 216円
フロントフォークOリング 150円
フロントタイヤ 4,938円
フロント用チューブ 1,025円
リアタイヤ 5,800円
リア用チューブ 1,324円
スプレー塗料 1,190円
フェイクレザー 1,420円
スプレー塗料 4,270円
サンドペーパー 480円
SUZUKIステッカー 310円
フロントブレーキシール、ブーツ 744円
ステップラバー 1,812円
バックミラー 1,004円
チェンジレバー 1,242円
バッテリー 2,980円
ガソリンタンクモール 810円
自賠責保険 7,280円
合計 9万1,148円