連載第2回でお伝えした、自分の体型やレベルに合ったボードが上達を早めてくれるという事実。そうは言っても、星の数ほどあるサーフボードの中から、自分にベストマッチする1本を見極めるのはカンタンではない。そこで今回は、有名サーフボードメーカー「DICK BREWER SURFBOARDS(ディック ブリューワー)」のボードファクトリーにお邪魔し、カスタムボード(1本1本シェイパーの手で削られるオーダーメイドのボード)を上手にオーダーする方法を伺った。1本のボードができるまでの工程や、シェイパーのこだわりがつまったシェイプルームなど、ファクトリーをすみずみまで撮影してきた動画を中心にお届けする。
そもそもサーフボードは、まったく同じアウトラインのものが"タイヤキ"のように大量生産される「ファクトリーボード」と、1本1本シェイパーの手で削られる「カスタムボード」に大別される。今回お邪魔した「DICK BREWER SURFBOARDS」は、カスタムボードのメーカー。カスタムボードには、サーフショップが「店置き」用にオーダーする場合と、個人がオーダーする場合がある。いずれにしても、身長・体重・主にサーフィンをするポイントなどを記入したオーダーシートを元に、シェイパーがブランクス(写真)を削ってアウトラインをつくるところから、サーフボードづくりがスタートする。
オーダーシート(左)とロゴ各種(右)。クライアントがよくサーフィンをするポイントやこれ以上大きくなったらサーフィンはしないというMAXの波のサイズ、身長・体重が書き込まれている。長さ・幅・厚み・ノーズやテール、レールの形状など細部にわたりオーダーが可能だが、部分的にオーダーしてあとはおまかせということもできる。色やロゴを乗せる位置もお好みで |
ところで、撮影当日、現在では同メーカーの会長となっている日本サーフィン界のパイオニア、長沼一仁氏がたまたまファクトリーに顔を見せていた。 うれしいハプニングにかなり緊張はしたが、またとないチャンス。ロングボード歴7年の筆者は興奮気味に、一番聞きたかった質問をぶつけてみた。
「1本でも多く波に乗るにはどんなボードがいいんですか?」
そう。いつまでたっても初級者レベルな私の切なる願いは、「とにかくもっとたくさん波に乗りたい。少しでも長く、波の斜面を滑る浮遊感を味わっていたい」ということなのだ。サーフィン/シェイパー歴約50年という大御所の答えは、以下の動画にて!
サーフボードづくりの工程
1.シェイプ
長さと幅を決める
まずは、ブランクスの両端をカットしてオーダーシートにある長さにする。そこから、幅を決めるポイントをセンターライン上で3箇所チェックし、テンプレート(型紙のような木の板)でアウトラインを書く。テンプレートは各々のシェイパーのオリジナルだ。
プレーナー(電気カンナ)などで削って整形する
2で引いたアウトラインに沿ってノコギリでカットし、プレーナーやヤスリで形を整える。削る道具もテンプレートと同じくシェイパーのオリジナル。どんな道具を使うかはシェイパーによって異なる。長沼氏はクライアントのホームポイント(よくサーフィンするポイント)の波やサーフスタイルなどをイメージしながら削るという。シェイパーが経験とセンスを発揮するサーフボードづくりのキモの部分だ。
2.カラーリング
白く残す部分をマスキングし、エアガンを使ってフォームに直接色をつける。
3.ラミネート
ファイバーと樹脂でコーティングする。
フォームに直接ロゴシートを載せ、樹脂で固定した上にグラスファイバーをかぶせる。その上からポリエステル樹脂を浸透させてゴムべらで均等にならし、乾かす。フォームが樹脂を吸いすぎるとボードが重くなってしまうため、ラミネーターの判断で硬化剤の量を調整し、乾くスピードをコントロールする。
樹脂に色を混ぜてカラーリングする方法もある。
ストリンガーが透けて見えるカラーをティント、透けないカラーをピグメントと呼ぶ。この方法の場合、ロゴの上に色が重ならないよう、ロゴシートはラミネートと次のホットコートの間のタイミングで乗せることになる。
樹脂が乾いた状態のボード。
表面がざらざらしており、このままではサンディング(最後の仕上げ)ができないので、滑らかにするホットコートを施す。
4.フィン立て&ホットコート
シェイパーの指示に従って、フィンをセットする「フィンカップ」の角度を決める。
ホットコートを塗ってからドリルで穴を開けてフィン立てをする場合と、フィン立てをしてからホットコートを塗る場合がある。また、テール付近のレールにエッジを立てる場合は、この工程で行われる。
5.サンディング
ボードの表面をヤスリで凹凸なく整える。
6.バフがけ
ツヤを出す場合に行われる。
専用の機械(写真右上)を使い、サンディングしたボード(左下)を、右下の写真のようにピカピカに磨き上げる。
満足のいくボードを手に入れるために
以上のように、各工程ごとにプロフェッショナルな仕事が施され、1本のサーフボードが出来上がっていく。同ブランドの人気シェイパー下重正則氏によれば、人の手でつくられるボードを自分に合うものにするために最も重要なのは、シェイパーとのコミュニケーションだという。可能であればファクトリーに訪問し、シェイパーと話し合うことで、シェイパーはどのくらいの技量があるのか、どんなスタイルを目指しているのかなど、オーダーシートからは読み取れない情報をキャッチするという。それが難しい場合は、今乗っているボードのいいところや、憧れのプロサーファーの名前をオーダーシートに書き添えるのも有効とのことだ。究極のコミュニケーションは一緒にサーフィンすること。しかし、難しい場合の方が多い。そこで、サーフボード・ブランドの販売店であるサーフショップを活用するといいだろう。ショップのスタッフと一緒に海に入り、メッセンジャー役になってもらうのだ。
カスタムボードの価格相場はロングボードで20万円前後、ショートボードでも13万円前後といい、ちょっと身構えてしまう金額だ。当連載の主筆である奥田みゆき氏の所属するオクダスタイルサーフィングでは、「カスタムボードよりも壊れにくく、ロングボードで10万円を切るファクトリーボードがある。きちんと初心者向けにデザインされたものであれば、ファクトリーボードも決して悪くはない」との理由から、ファクトリーボードを勧める場合もあるという。ただし、やはりサーフボードの真髄はカスタムボード。1本目のボードでボードの取り扱いに慣れ、サーフィンを楽しめるようになった時には、ぜひともカスタムボードを手に入れてほしい。