サーフィンは自然を相手にするスポーツ。右のイラストのように、遥か沖の海上で気象が荒れ、風が吹いてうねりが発生し、そのうねりが海底の地形の変化によって波になり崩れる、その場所で遊ぼうというものです。
海岸からすぐそこに見えていても、ひとたび海に入ってしまえば、そこは陸とはまったく別の力学が働く世界。人間は本当に小さな存在です。海の水が動く力は強大で、自分の無力を思い知らされることもあるでしょう。と同時に、ほんの少しの油断が取り返しのつかない結果を招いてしまう可能性もあります。そこには、自分が命を落としたり、他人の一生に関わる重大事件に発展することも含まれます。
そんなことにならないためにも、サーフィンする上で忘れてはならないのが「自分の安全は自分で守る」「他人に危険を及ぼしてはならない」という二つの約束。この約束に責任を持って海に入るためには、"海におけるリスクマネジメント"が必要です。水の中でのパニックを避け、いざというときに落ちついて行動するためには、海で起こり得る現象をあらかじめ知っておくことが非常に重要。そこで、今回と次回は、サーファーなら必ず知っておきたい「安全に関わる常識」をお伝えします。
天気予報/天気図で気象を事前にチェックする
海にいるときの気象で特に危険なのは、沖に向かって吹く強風、そして、雷です。陸にいると気にならない程度の風でも、オフショア(陸から沖に向かって吹く)の場合、沖に流されてしまうリスクがあります。雷の危険は、言うまでもありませんね。これらの発生を、毎日の天気図から読みとれるようになると理想的。風は高気圧から低気圧に向かい、気圧差が大きい(=天気図上で等圧線の幅が狭い)ほど強く吹きます。また、雷は、突風や突然の豪雨をもたらす可能性がある寒冷前線にともなって起こることが多いのです。天気図から読み取れるのは、リスクの高い気象だけではありません。サーファーが心待ちにするグランドスウェル(台風などによる大きくて力強いうねり)や、高気圧から吹き出す風がつくるうねりなど、多くのことを予見することができます。天気図を読めなくても、「風向・風速」や「沿岸の波の高さ」などにも言及する詳しいローカル気象情報をチェックしましょう。気象庁のウェブサイトでも、大体の概況を見ることができます。
気象庁のウェブサイトで見られる風向・風速のデータ。全国の画面(左)から、プルダウンでエリア選択が可能。右は関東エリアの画面。最新データはこちら |
同サイトで見られる波浪のデータ。赤~黄色で示された、太平洋の波の高いゾーンは台風5号によるもの。最新データはこちら |
気象予報を事前にチェックして、無理かも知れないという迷いが生じたら、もっとも確実な危険回避策である「海に入らない。サーフィンしない」という選択を。それも立派な、サーファーとしての行動なのです。
海に出てからも、空模様に気を配る
当然のことながら、気象情報や天気図が教えてくれるのは、その時点でのデータや予測。いつ変化してもおかしくはないので、海の上でも空模様には常に注意を払ってください。「観天望気」と言って空模様を見て自然現象の変化を予測することが、海の中で命を守ることにつながります。天気の急変を知らせるのは、黒い雲。寒冷前線が近づいてくるサインかもしれません。「危ないかな」と注意しておき、稲妻が見えたり雷鳴が聞こえたら、まずは岸に上がって様子を見ましょう。雷雲は30分から1時間ほどで通り過ぎて行くものですが、次々に発生する場合も。雷鳴が近付いたり雷雨に見舞われたら、近くの建物の下(道路の高架下でもOK)やクルマの中に避難しましょう。樹木には落雷する危険があるので、木の下はNG。まわりに何もない場合は、地面に平たく伏せて、雷が遠ざかるのを待ちましょう。
黒い雲は、過ぎ去った後にも注意が必要です。それまでとは逆の方向から突然に強風が来る場合があります。もし流されてしまったら、自分が海に出たところにパドルで帰ろうとせず、できるだけ近くの岸をめざしましょう。とりあえず陸に上がることが重要です。
岸からポイント周辺の海の動きを観察する
海に入る前には、海をよく観察しましょう。波高は事前にチェックできますが、ポイントでの海の動きは、海底の地形や、次回詳しく解説する潮まわり、風向きによって大きく変わるので、いきなり海に入ってパドルを始めるのではなく、まずは「目」で確かめるのです。(海底の地形による波質の違いは、ページ最下部のイラスト参照)以下の4つのポイントに注目しておくと、沖に漕ぎ出しやすいタイミングや場所などが見えてきます。
サーフポイント観察の注目点
- 何分おきに、何本ずつセット(立て続けに押し寄せる比較的大きなうねり)が来るか
- セットの中で、一番大きな波は何番目か
- どのあたりにピークがあり、左右どちらにブレイクするか。およびブレイクし終わる場所
- カレント(押し寄せた波が沖に戻るルート)はどこか
セットの一番大きな波にインパクトゾーンで巻かれる一番避けたいシーン。ピークの位置を観察しておけば、左手のサーファーのようにまわりこんで回避するという対策がとれる。ほんの数メートルの差が運命を分けるのだ |
注目点の1と2でその日のセットのパターンを把握しておけば、そうとは知らずにセットが来ているときにパドリングアウトに挑戦し、急に大きな波が来て慌ててしまったり、自分の技量以上の波に巻かれてしまうというパニックを避けやすくなります。1と2が、沖に向かって漕ぎ出すパドリングアウトの「タイミング」を計る材料だとすれば、3は、パドリングアウトがしやすい「位置」の判断材料になります。スープの力が強く波に巻かれやすいピークやブレイクの正面を避ければ、波に巻かれるリスクを最小限にすることができるだけでなく、波に乗ってくるサーファーの進路を妨げずにポイントに向かうことができます。また、崩れ落ちてくる波が海面にぶつかった瞬間のインパクトゾーンで、海底までひきずりこまれる危険な巻かれ方の予防になるのです。
カレントは、海底の地形によってできる潮の流れで、岸と平行に流れる「サイドカレント/並岸流(へいがんりゅう)」と、沖に向かって出て行く「リップカレント/離岸流(りがんりゅう)」、岸に向かう向岸流があります。リップカレントがあるのは、ブレイクしていなかったり、スープが消えてしまうことで見分けることができる、周囲に比べて水深が深い場所。「チャンネル」と呼ばれます。サイドカレントは、岸に近いところに深みがある場合に発生し、海底に巻き込まれる流れ。パドリングしているサーファーが岸と平行に流されているようなら、そこは下に引き込まれる危険のあるゾーンだということです。
ビーチブレイクにおける一般的なカレントの動き
これらの水の流れを陸から見つけておくことは、どこにどのような危険が存在するかを理解するための助けになるはずです。実は、離岸流に流されてしまい、自力で帰って来られなくなるというのは初心者によくある事故。風が「オンショア(海から陸に向かって吹く)」ならその心配は少ないですが、「オフショア(陸から沖に向かって吹く)」の場合は、気付かないうちにピークを越えて沖に出てしまわないよう、こまめに自分の位置をチェックするなど、十分に注意してください。
上手なサーファーの動きを観察する
以上のような海の動きは、最初はなかなか見えてこないもの。そこで、初心者にとって有効なのは、上手なサーファーを見つけ、その人の動き方を参考にすることです。上手なサーファーを見分けるのはカンタン。何回も繰り返し波に乗っている人を探せばいいのです。同じ時間内でも、何回も波をキャッチできる人と、ボードに座ったまま動かず、まったく波に乗れない人とがいます。経験を積んだサーファーは、セットやピークの位置、カレントなどの"海面の流れ"をよく知っていて、その流れに乗って泳ぎ回ることができるからこそ、多くの波に乗れているのです。
上手なサーファーが、セットの波にピークからテイクオフして、波のフェィスを「グ-フィー/レフトウェィブ(岸から見て右向き)」、または「レギュラー/ライトウェィブ(岸から見て左向き)」に進み、どこで「プルアウト(自分でコントロールして意識的にライディングを中止すること)」して、どのように「アウト(沖の方)」に帰って行くのかをよ~く観察してみてください。見ることで「セット」「ピーク」「ブレイク」が見つけられるだけでなく、ラインナップ(波がブレイクする、サーファーが波待ちをするエリア)にたどり着いてからの自分の行動の模範となるものです。
海底の地形による波質の違い
海底の地形により、ブレイクは大きく4タイプに分かれる。 |
著者プロフィール
奥田みゆき(オクダ ミユキ)
サーフィン歴25年。ボディーボードからスタンドアップパドルでのサーフィンまでを多彩にこなす。オクダスタイルサーフィングで15年以上サーフレッスンを行い、初めての受講者のほとんどを自力のパドリングでテイクオフさせることで有名。冬期はスノーボードのレッスンも行っている、天性のインストラクター。初心者でも中級者以上でも確実にレベルアップさせてしまう、そのノウハウは自己流、なればこそオクダスタイル。