日本人なら一度は、ビーチや車窓から、波間で海と戯れるサーファーを見たことがあるだろう。波の上を颯爽と走り抜ける様子はとっても気持ちがよさそう……とは思ってみても、「何から始めればいいかわからない」「サーファーとは住む世界が違う気がする」「昔かじったけど、結局立てずに終わった」などなど、やらない理由がたくさん浮かんでくる。この記事では、そんなあなたを"サーファーへの初めの一歩"へいざなう情報をお届けする。

コーチ役にお迎えしたのは、15年以上サーフレッスンを行い、初めての受講者のほとんどを自力のパドリングでテイクオフさせることで有名という、奥田みゆき氏。さらには「波の世界へようこそ!」の言葉に代えて、プロサーファー奥田哲氏がスタンドアップパドルボードに乗って撮影した「サーファー目線のサーフィン動画」も掲載していくので、お楽しみに! では早速、レッスンを始めよう。まずは「心得」から……

波乗りするなら、まず波を知ろう

波は、風の置き土産

突然ですが、波って何でしょう? それを説明するには、鳥になって空高く舞い上がり、そこから地球を眺める必要がありそうです。全地球の70%は水。地球の表面の4分の3は海で、それを覆う空気の膜は非常に薄く、デリケートに揺らいでいます。太陽の熱と地球の自転により、空気は天気図で示される高気圧から低気圧に流れて循環します。この空気の移動が「風」です。

海上で強く風が吹くと、海面が風下に向かって動きます。海の表面に流れが生じ、「うねり」になります。うねりは海上のはるか遠くから吹き出した風から発生し、何百kmもの距離を伝播してくるもので、ある程度のスピードを持って、人の住む大陸棚に乗り上げて来ます。そして、「うねり」が海底の深い場所から砂の浅瀬や岩棚に乗り上げた時に「波」となって立ち上がり、崩れ始めるのです。

はるか沖の海上で発生したうねりは、サーファーの目の前で長い旅を終える

波の名前と波乗りの流れ

さて、波の生い立ちを知ったら次は波乗りの流れについて。崩れていく波の上で、どういう動きをするのがサーフィンなのか知っておきましょう。波には各部位に名前がついていて、崩れる始めるポイントを「ピーク」と呼びます。ここから「テイクオフ」するのが最も理想的なサーフィン。なぜならピークが一番波の力があり、ボードが走り出す最初のスピードを与えてくれる場所だからです。自らパドリングしてその場所へ行くこと。そこからサーフィンは始まります。意外かも知れませんが、サーフィンの本質とは水泳なのです。

波の各部位の名称

ボードの部位の名称

ピークからテイクオフしたら、波の斜面を滑り降り、ブレイクする波の「ボトム」で「ボトムターン」をします。これができれば波の「フェイス」を横に向かって、ボードを滑らせていくことができるようになります。「ノーズ」が横に向いたら波の先が平水面につながる「ショルダー」に向かいます。波に対するレールの角度や沈み具合をコントロールしながら、波頭がはじけてくる「リップ」をねらって「トップターン」です。波が今にも崩れそうなぎりぎりのポジションでの「リッピング」や「チューブライディング」は究極の満足感をもたらしてくれるでしょう。

「ワイプアウト」しなければ次のボトムターンと更に次のトップターンへ向けて、波の変化に合わせてボードをコントロールして行きます。このように能動的にターンを繰り返して、「スープ」に捕まらないように「アップ・スン・ダウン」でスピードを得て、波のパワーとボードのスピードを活かしてサーフィンします。

どんな感じか想像できなくても焦ることはありません。波乗りの体験を積み重ねながら、ひとつひとつ理解して行きましょう。上達するほどにサーフィンが楽しくなるのです! 覚えておいてほしいのは、なんといっても、かっこいいサーフィンはスピードが重要!!ということ。そのためには波のパワーが最も強いピークからのタイミングの良いテイクオフが非常に重要になるわけです。この波のピークに向かって「パドリングアウト」する初めの一歩をお手伝いしようというのが、この連載のテーマなのです。

動画 つまり、こんな感じだ!
約15秒(WMV形式: 3.96MB) 奥田哲のパドカムによる撮影

サーフィン用語集 - 体で覚えるものだけど、言葉で説明するとこんな感じ!
テイクオフ:波の推進力でボードが走り出すこと
チューブライディング:波が造り出すトンネルの中をボードに乗って滑っていくこと
ワイプアウト:サーフボードから落ちること
アップ・スン・ダウン:波のフェイスを使って上下動すること  
リッピング:波のリップにボードを当てこみ、リップと一体になること

楽しいだけじゃない! だから楽しい!

サーフィンは自ら海に入って、「波という自然」とのやりとりを楽しむものですが、力とスピードのある波はみんなが狙っているもの。うねりが来た時にピークが現れる場所で、いい波を待っているのは自分ひとりではありません。そこは、サーフポイントという社会であり、スポーツである以上、マナーやルールもありますし、「他のサーファーとの駆け引き」も発生するのです。パドリングもテイクオフも自発的に行うことであり、それは実は「自分との戦い」でもあります。

へ~? なんだか難しそう……と思った皆さんは、未知の世界に恐れながらもこの世界に興味があるのでしょう!? ではでは、連載の続きをお楽しみに! そして思いがピークに達したら、ぜひ「サーフショップ」の門を叩いてみてください。デパートメントな量販店ではなく、専門のプロショップではサーフスクールを開催しているお店も多く、サーフボードやウエットスーツもレンタルできます。全国組織の日本サーフィン連盟では、公認インストラクターがいるお店や全国のサーフィンクラブを紹介しています。

他のスポーツ同様、海にも様々な喜びと危険があります。たったひとりでサーフィンするより上級者に導いてもらうほうが、多くの経験を吸収したり発見したりすることができます。そうして、「観察力」「判断力」「決断力」「行動力」が身についていきます。サーフポイントではこれらの力を総動員して、沖に向かう潮の流れや、他のサーファーとの接触など、時に危険がともなう状況をサバイバルする必要があります。くれぐれも安全第一の行動を心がけてください。その上で「楽しんだ者勝ち!!」それがサーフィンです。

筆者はこの連載を通して、みなさまが安全で楽しいサーフィンライフを始められるよう応援します。まず最初はなんと言っても体力勝負ね! がんばれ!!

動画 左:約19秒(同4.84MB) 右:約10秒(同2.55MB) 奥田哲のパドカムによる撮影。体力勝負!とはいっても、みゆきコーチはとっても小柄。優雅なライディングをご覧あれ

撮影者・著者プロフィール


奥田 哲(オクダ サトル)
鎌倉市在住のプロサーファーでウインドサーファーでシェイパー。職業はサーフショップオクダスタイルサーフィングのオーナー。スタンドアップパドルボーディングのコンセプターでもあり、PADOBOブランドのデザイナーで自らパドルを作り出している。パドカムの発案者。パドカムとは、パドルのシャフト(柄の部分)にデジカメを固定し、サーファーと同じ波に乗りながら撮影する。サーフィンが非常に上手なことから出来るものであり、世界でも他に類を見ない斬新な撮影テクニックである。ここに紹介する映像は、2008年に鎌倉のサーフポイントにて撮影したもの。


奥田みゆき(オクダ ミユキ)
奥田哲の妻。サーフィン歴25年。ボディーボードからスタンドアップパドルでのサーフィンまでを多彩にこなす。オクダスタイルサーフィングで15年以上サーフレッスンを行い、初めての受講者のほとんどを自力のパドリングでテイクオフさせることで有名。冬期はスノーボードのレッスンも行っている、天性のインストラクター。初心者でも中級者以上でも確実にレベルアップさせてしまう、そのノウハウは自己流、なればこそオクダスタイル。

(イラスト 長岡伸行)