『毛皮のエロス - ダイアン・アーバス幻想のポートレイト』
作品概要&あらすじ 1958年、ニューヨーク。裕福な家庭に育ったダイアン・アーバス(ニコール・キッドマン)は、ファッションカメラマンである夫アラン(タイ・バーレル)のアシスタントとして働いていた。ふたりの娘に恵まれ、夫の仕事も順調。傍目には幸せな生活を送っているかように見えたが、ダイアン自身は心の中で常に自分のいる世界に漠然とした居心地の悪さと不安を感じていた。
ある日の夜、コートやマントで全身を覆い、目の部分だけがくりぬかれたマスクを被った男、ライオネル(ロバート・ダウニーJr.)が隣の部屋に越してくる。この男の異形に激しく心を奪われたダイアンは意を決し、カメラを手に彼の部屋のベルを鳴らす。扉を開けた"運命の男"に隠された秘密は、彼女の好奇心を欲望へと駆り立てていく―。
既存の美醜の概念に挑戦、過激な写真技術と題材によってポートレイト写真の意味を変革した女性写真家ダイアン・アーバスの生涯を、"伝記"としてではなく、エッセンスを汲み取り"オマージュ"として仕上げた作品。ダイアンが自己を発見していく過程で、夫と子供たちへの愛と、芸術を求めてやまない内なる思いとの板ばさみに悩み苦しむ姿をリアルに描いている。
監督は本作が3作目となるスティーヴン・シャインバーグ。アブノーマルな性愛をリアルに描いた『セクレタリー』で2003年サンダンス映画祭の特別審査員賞を始め、ナショナル・ボード・オブ・レビューやインデペンデント・スピリット・アワード賞等、全米の映画賞を次々と制覇した。主演のニコール・キッドマンもこの作品に深く興味をもち、コラボレートを熱望。監督のオファーを快諾し、本作品の主演を飾った。
5月26日よりシネマGAGA! ほか、全国順次ロードショー
※R18指定作品
放談メンバー | ||
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はなこ |
マサオ |
ステラ |
この映画は既存の美醜の概念に挑戦し、結合双生児や同性愛者、ヌーディストなどのフリークスの人々を撮り続けることに生涯を捧げた写真家ダイアン・アーバスのオマージュ作品です。
よくそんなに冷静に解説していられるわね。エッローイ! ちょっと、エロすぎるんですけど。
そりゃそうさ。タイトルが「毛皮のエロス」なんだから、清純映画なわけないよ。
で、でも! 裸はたいしてエロくないのよ。むしろ単なる裸体なの。にもかかわらず、そーでない場面の雰囲気がもう、エロすぎて、は、は、恥ずかしい……。
確かに。ニコール演じるダイアンが下着姿になって毛むくじゃらのライオネルの心を開こうと迫る場面にはただならぬ艶っぽさを感じたよ。
でしょー? 脱がないのにエロいなんて、反則だってば。
ったく! はなこは子供ね。
子供で結構!
もっとエロチズムを堪能しなさいよっ!!
そう言われても……。怖くて凝視できないんだもん。
んもう、なんてもったいない。いまマサオが言ってた場面は、ダイアンが表面に出すことを拒んでいたフリークスへの興味があらわになるシーンよ。意を決して自分の中に潜む意識下にある部分をさらけ出すっていう。隠してたモノを見せるっていうのはほんと、普遍的なエロスよね。
うーん、わたしにはそういう狂気はないんだろな。とにかく、どーして安定した家庭を捨ててまで写真を撮ることに走っちゃうのかが理解できないもん。そんな勇気、どこから降って沸くんだろ。
勇気じゃない。これは愛だ。
はぁー? ますますわかんねー!
はなこには愛の勉強が必要だわね。愛し愛されることの痛みや苦しみ、持って生まれた性愛の儚さを。
てかさー、なんで幸せな家庭を壊してまで、好奇心を優先させるわけ?
常識に当てはまらない愛もあるのよ。
一見、割り切れそうな数式なのに、いつまでたっても計算が終わらない。かといって、四捨五入してざっくり終わらせるのも切ない、みたいなかんじかな?
そうそう!
なにそれ。わけわかんない。
無理してわかることないよ。心の奥にある押さえ切れない欲望を捨てきれず、常識から逸脱していく女の話だ。いわゆる"女の幸せ"とは対極のところに価値を見出しているから、はなこが理解できないのは無理もない。
ごもっとも。
ちょっと2人して何なのよー! あたしだって大人のオンナなんだけど!
シャインバーグ監督はSM嗜好のある男女の愛を描いた『セクレタリー』に続き、フリークスという難しいテーマをうまく盛り込んで映画にした。この手腕は本当に素晴らしいと思うよ。
ふーん、そんな難しいテーマをアッサリ描いた人なんだ。たしかにこの映画にもあからさまなフェチっぽさはなかったな。
はなこがこの映画を見て、気に入ったのは?
ニコール・キッドマンがキレーだった。さすがに『アイズ ワイド シャット』の頃に比べると年とったなーという印象は否めないけど、いい体だった。ああいう年のとり方っていいよね。ニコールもいい恋してるのかな? こないだのアカデミー賞のときも相変わらず人間離れしたスタイルを見せつけてたし。
あんたの考えることは、いつも直接的ね。映画の奥のテーマなんて考えたことないでしょ?
うるさいっ! そういうステラはどうなの?
アタシはこの映画を見て、人が業を捨てることの難しさにしみじみ涙したわ。どうにもならないことでも、どうにかしたい。その捨てきれない欲求を花開かせるまでの心の移り変わりを本当に丁寧に描いているのが素敵だった。
社会で生きていくために、人は自分の心に嘘をついて、折り合いをつける。でも、彼女はそれをしなかった。この選択はそうそう真似できないけど、そんな彼女の生き方は知っておきたいよね。
ええ。彼女にしか生きられなかったこの"人生"がこうやって作品として残るのは素晴らしいことだと思うわ。ダイアンの愛の軌跡は愛のかたちがいかに自由であるか、という象徴なのよね。
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(イラスト:アサダニッキ)