作品概要&あらすじ
『羊たちの沈黙(1991年)』『ハンニバル(2001年)』『レッドドラゴン(2002年)』に続くシリーズ第4弾。舞台は第二次世界大戦後、大国ソビエトの厳しい圧政下にあるリトアニア。戦争で家族を失ったハンニバル・レクターはかつてレクター家が住んでいた城を改装した孤児院にいた。ハンニバルは両親と妹を殺されたショックで言葉を失っていたが、独立心が強く、かつ破壊的な性格を秘めた青年に育つ。ある日、ハンニバルは孤児院を脱走し、フランスの叔父夫婦の家へ。しかし、叔父はすでに亡く、迎え入れてくれたのは叔母にあたるレディ・ムラサキだった。
彼女との暮らしの中で茶道や武道など、優雅で機敏な作法を身につけていくハンニバル。しかしある日、市場でレディ・ムラサキを侮辱する肉屋の店主に激怒。その場で重症を負わせるには飽き足らず、後日、レディ・ムラサキの隠し持つ日本刀で店主を冷静、かつ鮮やかな手さばきで殺めてしまう。それはハンニバルが初めて人を殺した瞬間であり、心の封印が解かれた瞬間でもあった。
放談メンバー | ||
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はなこ |
マサオ |
ステラ |
インテリジェンスと狂気に満ちた人食い殺人者、ハンニバル・レクター博士のルーツを探る映画でーす。
ステラはこの過去3作を見てないんだよな。
そう! あたしはグロい映画は見ないのっ!
じゃ、何で今回は来たの?
だってぇ……(赤面)。
若きハンニバル役のギャスパー・ウリエルを見たかったんでしょ?
ギャーッ!! 言わないでー。
なにをいまさら。
だって…。可愛いと思ったのに、不気味なんだもの。ステラ、ショック!
そーいう映画なの! でも、やっぱりアンソニー・ホプキンスの存在感に比べると、目力も立ち振る舞いもアッサリしてたよね。アンソニーと比較するのも酷なハナシなんだけどさ。
僕はレクターらしい言葉攻めが少なかったのが残念だったな。『羊たちの沈黙』を見たときに、彼の異常さと不気味さは天然なんだろうって思ってたんだ。ルーツを探る映画は、それまで作品に対して勝手に描いていた想像をかき消してしまう。そういう意味では今回はハズレだったかもしれないね。
何倍も楽しむには予備知識豊富なほうがベター
それでも、ギャスパーのハンニバルは作品の時系列のおかげか、クラリス役が交代した時よりは馴染めたよ。
ハンニバルが唯一心を許すFBIの実習生クラリス・スターリングね。『羊たちの沈黙』ではジュディ・フォスターが演じたけど、続編の『ハンニバル』で降板。かわりに演じたジュリアン・ムーアが気の毒になっちゃうほど、フォスターがクラリスにハマり過ぎなのよね。
そして、ハンニバルがクラリスに親愛を抱く理由が、この『ハンニバル・ライジング』に隠されている。
え? どこどこー?
わかんないの? ニブイなぁ。クリクリした瞳、クラリスの本名はクラリス・M・スターリング……。
あっ、ミーシャね! ハンニバルの妹のミーシャ!
そう。ハンニバルは不幸にも死んでしまった妹・ミーシャとクラリスをダブらせて見ているんだ。
そうなの? 私にはわかんなかった。それに、クラリスのミドルネームの「M」とミーシャの「M」は後付じゃないの?
そういう見方もあるけど。ハンニバルがクラリスを妹のように見ているというのは、小説にも書かれていたんだ。鑑賞前にハンニバルの世界を知っているほど楽しめる映画であるのは確かだね。
予備知識のないアタシは、可哀想な生い立ちとはいえハンニバルが殺人を繰り返すのには同情はできなかったわよ。あんたたちは中年ハンニバルと美少年を同一人物だと脳内変換させて楽しんだんでしょ?
もちろん。
僕は改めて小説を読み返すんだ。今回は原作者のトマス・ハリス自ら脚本を書いていることもあって、小説と映画の世界観がフィットしていてよかったよ。
イッキミは制作順がおすすめ
マサオはずいぶんお気に入りだね。わたしは日本文化がハンニバルを形成した、というあたりがどーにも腑に落ちなかったな。ただ、生け花や茶道、剣道や日本刀を出しただけで武士道魂とは無縁なんだもん。どうも合致しなかった。『SAYURI』を日本の話だと言われてもピンとこなかった、あの感覚に似てた。
あんた、細かいわね。いいじゃない、キレイなら。
僕も実はそのあたりはちょっとひっかかる。過去の三部作に日本の匂いは全くしないからね。レディ・ムラサキのことを忘れるために日本文化も忘れようとした、と言われたら身もフタもないけど。ま、なんだかんだ言ってもこのシリーズのファンなら見逃せない作品であるのは間違いない。
あたし、美少年が出ないのに1800円も払えないわ。レディースデイなら行ってもいいけど。
あんたはレディなのかどうなのかが微妙よね……。わたしはイッキミしたいな。でも、その場合順番が微妙。時系列は『ライジング』→『レッド・ドラゴン』→『羊たちの沈黙』→『ハンニバル』だけど、関連づけて楽しむなら制作順だと思う。
もしも、シリーズ次回作があるなら『羊~』を超える秀作が見たいよね。プロデューサーもそのあたりの考えがあるようだから、まずは本作のヒットを祈ろう!
『ハンニバル・ライジング』は日劇PLEXほかにて全国拡大ロードショー中
(イラスト:アサダニッキ)