人生における30代は、悩み多き年代と言えるのではないだろうか。就職間もない20代に比べ、結婚や出産といったライフステージの変化を経た人が圧倒的に多くなり、年収や貯金額も同世代間で差が付き始める。それに伴い、悩みの種も増えてくるというわけだ。
そこで本特集では、30代の悩みとしてあげられることが多い「結婚」「貯蓄」「健康」「住宅購入」の4テーマに関し、各分野のエキスパートによるアドバイスを紹介する。今回のテーマは「住宅購入」。一級建築士であり、ファイナンシャルプランナーでもある佐藤章子さんに、住宅購入の手ほどきについて解説してもらった。
「子どもの成長を考えれば、そろそろ……」「住宅ローンの返済を考えれば、なるべく早く……」と、住宅購入を急ぐ気持ちを持たれる30代の方も少なくないと思います。半面、「頭金の用意もまだなのに……」「大きなローンを組んで本当に大丈夫?」と言った具合に、不安面もまた多いのではないかと思います。
住宅購入は人生の一大事。慎重にことを進めないといけませんが、そもそも何から始めればいいのでしょうか。本稿では、これから住宅取得を始める方向けに、「何からスタートすればよいか」「どんなことに注意すればよいか」をお伝えしていきます。
(1)住まい取得への夢と不安を大切にする
「住まい取得への夢と不安を大切にする」。どういう意味か「?」となった方もいらっしゃるかもしれませんが、住宅取得に成功するには、住まいの取得への夢やメリットをしっかり自覚し、温めていくことがとても重要なのです。私の経験からすると住まいの取得について熱く語れる人ほど、上手に住まいを取得します。
夢を語れるということは、将来への設計がしっかりできていることを意味します。また住まいを新築する場合には、その夢やエネルギーは設計者や工務店などにも伝わり、彼らを動かす力にもなります。さらに自分自身が次に行動しなければならないことへの動機付けにもなるのです。
不安な点も同様にしっかり把握して、どうすればそれを回避できるか、いかにリスクを少なくできるかを考えることが大切なのです。不安面に顔を背けていては対策も事前にとれず、かえって問題を大きくしてしまいかねません。
(2)家計の無駄を見直して徹底削減
住宅購入に際しては頭金が重要なことはご理解いただけるはずです。頭金を少しでも多くできれば、その分住宅ローンの借り入れを少なくできたり、万一の場合にとっておくための現金の確保の余力も増えたりします。
それだけでなく、今から家計をシェイプアップしておけば、長い住宅ローン返済期間を通じて、その見直し分が積み上げられていき、将来大きな差となっていきます。具体的には、子どもの教育資金の準備や老後の余力に大きな差がつくこともありえます。
ここで大切な点は、上記の夢がしっかり育てられているかどうかです。その夢を原動力にして、徹底的に無駄を省いてみましょう。最初は1カ月間限定で取り組んでみるのがポイントです。成功したら住宅取得まで頑張ってみましょう。そこまでいけば、見直し後の生活が当たり前になり、その後も継続できるはずです。
1カ月間限定の節約を考える際、下記の表のように区分けして取り組むとやりやすくなります。
光熱費や通信費の節約は習慣化すれば、一生涯の節約となり長期間の効果が期待できます。食費の節約は効果が高いのですが、健康で楽しい食生活のスタイルを作り上げるには、じっくりと取り組む必要があるでしょう。とりあえず1カ月間は食費の改善にも着手しながらも、光熱費と通信費を徹底削減し、その他の臨時出費は極力先送りしてみてください。
節約で生まれた資金は別通帳で管理しましょう。別通帳で管理すれば、節約効果が一目瞭然で続けやすくなります。1カ月間の徹底節約に成功するかどうかは、住宅ローンをしっかり返済していけるか、不測の事態に直面したときに、素早い対策がとれるかどうかのバロメーターでもあります。なかなか貯蓄ができず頭金の用意ができていない状況で、1カ月間の短期節約も難しいようであれば、住宅ローンを借り入れるリスクは高くなると言わざるをえません。
(3)生涯収支計画表を作成してみる
短期節約がしっかり軌道に乗ると、貯金が増えるばかりでなく、そうした節約が将来的にどのようなゆとりを生むのか知りたくなるはずです。例えば、頭金が増えるだけでなく、子どもの教育資金がどれくらい貯まるか、老後にどれだけゆとりが増えるかなどです。
ここで夢だけを追いかければ、「頭金が増えた分、より高い物件が買える」となりますが、不安面にも注目していけば、「購入価格はそのままにして、増えた資金は万一の場合に備えよう」という判断になるかもしれません。
いろいろなケースを比較して判断するには、生涯収支表を作成するのが一番です。生涯収支表とは、現在からおおよそ平均余命までの収入と支出と預貯金残高の推移を表にしたものです。作成してみれば、「増えた資金を頭金に回してもよいか」「住宅ローンの返済と子どもたちが大学入学する時期の数年間のためにどのような準備が必要か」「老後資金を安定させるためには今から何が必要か」などを判断できます。
(4)情報を収集する
生涯収支表の作成と並行して、住宅取得に向けて情報を収集しましょう。資金計画と並行して考えずに情報収集だけを優先すると、自分たちの実情にフィットしない情報も集めてしまいがちになります。
「どの町に住むか」「戸建てかマンションか」「諸費用はいくらくらい必要か」「自分たちの収入でいくらぐらいローンを組めるか」などの情報収集をしていきます。
もちろん、そのときに自分たちの夢を再度確認しながら進めてみましょう。合わせて心配な問題についての対策も検討していきましょう。
■ 筆者プロフィール: 佐藤章子
一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。