連載コラム『株トリビア』では、「わかっているようで、実はよく知らない!?」株式用語、経済用語について、経済キャスターの鈴木ともみ氏が解説します。


最近、よくGPIFという名称を耳にするようになりました。GPIFとは何の名前か…と言いますと、『年金積立金管理運用独立行政法人』の英語名であるガバメント・ペンション・インベストメント・ファンドの頭文字をとった略称のことを言います。

GPIFは、厚生年金と国民年金で国民から集めた保険料のうち、高齢者(年金受給者)に給付した後に余ったお金を一括し、民間の信託銀行や投資顧問会社に運用を委託して、国内と海外の債券や株式に投資しています。運用資産は129兆円と、世界最大の年金基金です。

そもそも年金による金融市場での運用は、GPIFの前身である年金福祉事業団が1986年に始めました。年金福祉事業団は、2001年に年金資金運用基金となり、その後、06年にGPIFに衣替えし、現在に至ります。年金マネーを基に、保養施設関連事業を展開した時期もありましたが、地価の下落で3700億円の赤字を出したため、世間から無駄遣いとの批判が高まり、現在の業務は、市場運用に特化しています。

『年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)』ホームページ画面

GPIFの運用委員会は金融、経済の専門家8人で構成されています。運用委員会は、保有資産の構成割合を決めたり、運用を委託する金融機関を選ぶなどの役割を果たしています。ただ、最終的な決定権は、省庁や日銀のOBが務める理事長が持っており、これまで株式などリスク資産に対する運用が消極的だ、との指摘がありました。

そこで、政府は運用体制の見直しを進め、現場の運用責任者に民間人材をスカウトするなど体制を強化し、運用成績の向上を目指す方針を固めました。理事長に投資対象や運用会社を選ぶ権限が集中している現在の体制を改め、日銀の政策委員会を参考に、合議制で重要事項を決める体制を整えるとしています。

また、資産構成割合についても、現在、運用の「60%を占めている国債比率を40%台に引き下げ、国内株式への比率を12%から20%を視野に大幅に引き上げる」方針です。

株式などリスク資産への投資の拡大は、収益の向上が増す可能性を秘めている一方で、大幅な損失が生じる可能性も出てきます。また、国債への比率を大幅に引き下げれば、GPIFによる国債の売却により、金利が上昇(国債価格が下落)するリスクも増大します。

これまでは、市場平均並みの収益を目指す方針のなかで、少人数でもリスク管理が可能な運用体制でしたが、今後は、リスク管理を強化する必要があり、そのためにも外部人材を活用し、統治機構改革を実施するなどして、複数の目で運用管理をしていく方針です。

GPIFは東京証券取引所第1部(東証1部)に上場する約1800社のほぼ全ての株式を持っているとみられ、最近の株式市場では「GPIFの運用見直し」のニュースが流れる度に、多額の資金が株式市場に流入するとの思惑から、相場全体が上昇する傾向にあります。

株式投資をする上でも「GPIFの運用見直し」に関するニュースは、常にチェックしておく必要があるでしょう。

執筆者プロフィール : 鈴木 ともみ(すずき ともみ)

経済キャスター・ファィナンシャルプランナー・DC(確定拠出年金)プランナー。著書『デフレ脳からインフレ脳へ』(集英社刊)。東証アローズからの株式実況中継番組『東京マーケットワイド』(東京MX・三重テレビ・ストックボイス)キャスター。中央大学経済学部国際経済学科を卒業後、現・ラジオNIKKEIに入社。経済番組ディレクター(民間放送連盟賞受賞番組を担当)、記者を務めた他、映画情報番組のディレクター、パーソナリティを担当、その後経済キャスターとして独立。企業経営者、マーケット関係者、ハリウッドスターを始め映画俳優、監督などへの取材は2,000人を超える。現在、テレビやラジオへの出演、雑誌やWebサイトでの連載執筆の他、大学や日本FP協会認定講座にてゲストスピーカー・講師を務める。