今回の作品のテーマは、夢。
といっても「オレ、大人になったらジャイアンツに入団するんだ!」の「夢」ではなくて、スリープ状態で見る「夢」の話題です。
夢といえば僕もここ数年、気づけば夜中の2時や3時になっていて、「あー、もう4時間しか寝れないや……」ということが多く、これは絶対何か得体の知れない化け物が僕の時間を喰っているに違いない! と自己管理能力不足を棚に上げて全力で現実逃避しているのですが、今回ご紹介する珍DVDはそんな「眠り」と「夢」をテーマにした作品、その名も『スリープウォーク』。
いきなりさかさまで登場です |
タイトルだけ見ると、何となく「夢遊病のこと?」と勘違いしそうになりますが、夢遊病は関係なくて、いわゆる「夢魔」を扱ったホラー作品です。
しかし、いきなり「夢魔」とか言い出しても何のことやらさっぱりな方も多いと思うので簡単に説明しておきますね。
夢魔とはそもそもキリスト教で語られる悪魔の一種で、睡眠中に人を襲うモンスター。世界中の宗教や伝承にも同様の存在が確認されており、日本でも「獏」という名前で(こちらは人型ではないですが)夢魔の伝説が語り継がれています。
ということで、さっそく『スリープウォーク』のあらすじを簡単にご紹介しましょう。
大学で睡眠障害の研究に打ち込んでいる主人公、モリー。彼女が睡眠に興味を持ったきっかけは、母親が睡眠障害の患者であり、またモリー自身も謎の悪夢に夜な夜な悩まされているからであった。しかし、エスカレートする悪夢は、次第に彼女の友人たちへもその魔手を伸ばしてくる。果たしてモリーの悪夢に潜む夢魔とは何者なのか? その正体を知ったとき、モリーは愛する人を守るため、夢魔との戦いを決意する!
と、なんだかカッコイイ感じにあらすじをまとめてしまいましたが、別に爽快アクションとかではなく、(序盤は)普通にホラー作品です。
もちろん普通にご覧いただいても面白い作品なのですが、それではレビューになりませんので、今回はちょっと違う視点からの鑑賞法をご紹介したいと思います。
KYキャラ・サイラスに注目!
物語でかなり重要な役割を果たすことになるキャラクターに、サイラスという男がいます。
睡眠研究の分野で優秀な成績を収めながらも、教授との折り合いが悪く学会から追放されたサイラス。彼の主張とは、「俺は人の夢の中に入れるんだ! その力はインドで修行して身につけたんだ!」というもの。
……あー。うん……。
それは確かに教授にも気味悪がられるかな……。
このへんで既に危ない電波を放ちまくっているサイラスですが、そんな彼がモリーに近づいて話しかけた第一声は以下のようなものでした。
「モリー、僕はサイラス。先日、バーにいたよね」
「……授業があるの(嫌そうな顔で)」
「待って! 君には……スゴい力がある」
「……行くわ(ものすごく迷惑そうな顔で)」
「わかった、僕の電話番号を教えよう。ゆっくり話したい」
「……(無視)」
あかん……! サイラス……そのナンパはどう考えてもアウトやで……!
最初はともかく、露骨に嫌がるそぶりを見せたモリーへのフォローが「君にはスゴい力がある」では、余計に溝は深まるばかり。さらに最後の「わかった、僕の電話番号を教えよう」が完全にトドメを刺してしまっています。
仮に「モリーにスゴい力がある」というサイラスの主張がナンパ目的ではなくて真実だとしても、もうちょっと伝え方というものがあるだろうに。
最近はKYという言葉が流行っていますが、そこらへんの流行もバッチリ押さえた本作品。まずは電波男・サイラスに注目してご覧あれ。
中盤~後半にかけて急上昇するテンション!
モリー、サイラス、そしてモリーの友人や恋人など、一通りの登場人物が出揃ったところで、物語は急展開し始めます。
モリーだけでなく、彼女の周囲の人間をも襲う悪夢の恐怖。それは夢の中だけで終わらず、悪夢を見た人間を次々と謎の死に追いやっていくのでした。
「夢魔」とは何なのか。そんな得体の知れない者と戦うことが果たしてできるのか。でもやるしかない。大切な人たちを守るため、「夢魔」と戦う決心をしたモリー。
彼女がどうやって「夢」という実態のないものと渡り合うのかは、実際に本作品をご覧になっていただきたいのですが、問題はその戦いの内容。
普通に実体化した夢魔が、火を放って炎の壁を作り出したり、念力のような力でモリーを投げ飛ばしたり、目に見えない力で締め付けてきたりと、そのほとんどが肉体に直接ダメージを与えてくる物理攻撃です。
いやまあ、戦いの舞台となる場は厳密には現実世界とは異なるので理屈上は夢魔がどう暴れようが問題ないのですが……でも序盤から中盤にかけての、「振り返ると気味の悪い少女がそこに!」や、「眠っているといきなりベッドの下から手が!」といったジワジワくる恐怖感が、後半一気にバイオレンスな方向に弾けてしまって、見ているこっちも戸惑ってしまいます。
わかりやすく例えると、そうですね……『リング』で貞子が主人公と殴り合いを始めた、みたいな感じかな。この感覚、ご覧いただければきっとわかっていただけるはず。
しかしその弾けっぷりはある意味清々しくさえありますので、視聴者としてはむしろ「夢魔だろうが実体の無い化け物だろうが、とりあえず最後は直接攻撃!」という、海外作品ならではの潔さ(?)を楽しんでいくべきでしょう。
ラスト2秒の衝撃!
ネタバレになるのではっきりとは言えないのですが、本作品は最後の最後まで気を抜いてはいけません。なぜならば、ラスト2秒に衝撃のオチが待っているからです。
終わったと思わせておいて最後に驚かせるのは、ホラー作品では割と定番な演出ではありますが、本作品の場合、それが映画全体のテーマとうまい具合にリンクして最後の締めとしてはこれ以上ない結末となっています。
監督、これ思いついたとき絶対ニヤニヤしただろうなあ。
……以上、序盤のツッコミどころ満載KYキャラ・サイラスから、終盤のバイオレンス展開、そしてラストのオチに至るまで、とにかく目が離せない怪作『スリープ・ウォーク』のご紹介でした。
そうそう、小耳に挟んだ情報によると、伝説に語られる夢魔には男性型と女性型がいて、女性型をサキュバスと呼ぶそうです。このサキュバス、どんな悪さを行うのかと思えば、睡眠中の男性を誘惑し、無理やり性交して精を吸い取るのだとか。
……夢魔も悪くないな(台無し)。
今回ぶった斬られていただいた愛すべき作品
『スリープウォーク』
キャスト:ヘイリー・ダフ『バス男』 / ジェシー・ハッチ『エア・フォースII』ほか
監督:テリー・イングラム『ニューヨーク大地震』 / 製作:ブレア・レイキー / 脚本:デビッド・ゴールデン
アルバトロスより発売中 5,040円
山田井ユウキ
レビューサイト「カフェオレ・ライター」主宰。サイトでのP.N.は「マルコ」。映画はもちろんマンガ、ゲーム、さらにはBL作品に至るまで幅広くレビュー記事を執筆、その独特な視点とテンポのよい文章で人気を博し、連日30.000以上のPVを誇る