十人十色とはよく言ったもので、人はときに他人には決して理解し得ないものに魅了されることがあります。それは廃墟だったり、工場だったり、路地裏だったり……。ちなみに僕はこの中なら路地裏が好きですが、今のところドン引きされる以外のリアクションに出会ったことがないので、特に合コンなどで路地裏について熱く語るのは控えています。
そんな自分の話はどうでもよくて、さっそく今回の珍DVDをご紹介しましょう。その名も、「放流 ザ・ダム」。
2006年に発売された、ダム好きによるダム好きのためのDVD『ザ・ダム』の正統な続編となっていますが、もちろんパンピー的には三国志における韓玄ぐらいのマイナーっぷりですので、路地裏と同じく合コンの話題としては危険です。
こんなことを書くと全国のダム好きの皆さんから「お前にダムの何がわかる!」、「路地裏よりはマシじゃ!」といったお叱りを受けそうですが、ここまでニッチなジャンルになると、自分とその周囲をメジャーかマイナーかの判断基準にするしかないのでご了承ください……。
ということで、今回はこのDVDにツッコミを入れつつ、おそらく読者の9割以上を占めるであろう「ダムの魅力に気づいていない方々」と一緒に、僕自身もダムについて学んでいこうと思います。
ダム鑑賞心得其之一:まずは本編を黙々と鑑賞すべし!
このDVDの内容を一言で表すなら、
「60分間、日本全国のダムの、特に放流のシーンを映し続ける作品」
ということになりますでしょうか。
放流というのは、ダムの城壁みたいになっている部分から大量の水が怒涛のように流れ出る現象のことで、本作品のパッケージ裏には、「ダム観光最大の見せ場でもある放流シーンのみを徹底収録」と書かれています。
……「放流シーンだけを徹底収録したこと」のすごさはどうもいまいちピンとこないのですが、とりあえず僕はこのDVDで、"ダム観光"という言葉を初めて知りました。
というか、ダムって観光地だったんですね……。
さて、「いくらなんでも60分もの間、ダムばっかりじゃないでしょ、他にも何か企画とかあるんでしょ」……と思われた方がいらっしゃるかもしれませんが、甘い。
何度も言いますが、本DVDは最初から最後までずっとダムです。というより、ダム以外の映像はありません。ちなみにBGMとかそういった軟派なものは水の音を聴くのに邪魔なのでもちろん入ってないですし、人の声もほとんど入っていません。
あくまでも主役はダムなんだぜ、という制作者のこだわりが伝わってきて、もうここまでダムに特化されるとこれはこれでアリだな、と思えてきます。
ちなみに本編全体の流れは、
「〇〇ダム 〇〇県/〇〇川 目的:〇〇 型式:アーチ 堤高:131m(以下説明が延々と続く)」 といった感じのテロップが画面いっぱいに出た後、ダムの映像が映し出され、しばらくしてまた次のダムの説明テロップが出て――という流れをひたすら最後まで繰り返します。
なんという硬派な作り……!
そこらへんのアイドルが水着になってへらへら笑う軟弱なDVDを見るぐらいなら、この「ザ・ダム」を見て真の漢(おとこ)を目指すべきではないでしょうか。
ダム鑑賞心得其之二:初心者のための救済措置もあるよ!
……そうはいっても、やはりいきなり初心者が何の解説もないダムの映像だけを見てその魅力を理解しようというのは、さすがにハイレベルすぎます。
しかしご心配召されるな!
本作品には、そんなダム初心者(僕含む)のために、オーディオコメンタリー(※)が収録されているのです!
※オーディオコメンタリーとは、DVDの特典によくある、監督や出演者が作品を見ながら場面解説をしているアレです
そうですよね、何か僕も偉そうに色々と書きましたけど、どう考えても我々素人がいきなりダムの映像だけを60分間見続けたら、むしろダムを嫌いになる確率の方が高そうですもんね……。
そんなわけで、まだダム見習いである皆さんは、このオーディオコメンタリーをチョイスすべきでしょう。
さて、このオーディオコメンタリーに登場するコメンテーターの方々は、「灰エースさん」「宮島咲さん」「おざすきぃさん」「ふかちゃんさん」「阿部繁さん」「takaneさん」といったダムの達人たち。
「……誰?」と思われるかもしれませんが、本作の解説者に選ばれているほどですし、おそらくダム界ではかなり有名な方々なのではないでしょうか。
こうした一流のダムファンの皆さんが、それぞれのダムについて詳しく解説してくれます。
たとえば一部を抜粋すると……。
「このダム、構造的に珍しいんですよ、オリフィスがむき出しなんですよ。意外にこのタイプは少ないんじゃないかな」
「オリフィス、上の方はどうなってるの?」
「上はコンクリートの壁が……」
「そこだけは垂直に立ってるんだね」
……オリフィス?
「ラビリンスじゃないですよ、ただの引っ張りラジュアルですよ。ラビリンスは気づいたら終わってました」
……ラビリンス? 引っ張りラジュアル?
「これ、実は片方がウイングなんですよね、片側ウイング」
……ウイング?
「これまだ、800まではフリーフローみたいなんですよ、洪水調整開始が800なんで。800から溜め始めですね」
……フリーフロー?
――ということで、オーディオコメンタリーが初心者向きとか言っちゃってほんとすみません。コメントを聞いてもやっぱりハイレベルでした(注:上の会話は字幕がないため僕が耳で聞いた通りに書いています。従って専門用語には表記ミスがあるかもしれません。ご了承ください)。
でもコメンテーターたちの熱い語りを聞いているだけで、何となくダムの魅力が少し伝わってきたような気がします。専門用語は全部聞いてもさっぱり意味不明でしたけど。
ダム鑑賞心得其之三:やはりダムは実際に見てこそ!
以上、ここまでをまとめさせていただくと、本作はものすごくニッチなところをピンポイントで突いているという点において、紛れもなく珍DVDでした。
しかし、最後まで見て、僕はこうも思うのです。 このDVDは、視聴者がダムに興味を持つきっかけになれば、という思いで作られたのではないか……と。
ダムとは、この日本のどこかに、もしかするとあなたが住む町のすぐ近くにもあるかもしれない身近な存在です。となれば、映像だけで満足するのではなく、実際に足を運んでこそダムの魅力に気づけるというもの。
このDVDを見て、またはこのレビューを読んでダムに興味を持たれた方は、まずお近くのダムまでぜひ行ってらっしゃいませ。
それから再びこのDVDを手に取ったとき、最初に見たときとはまた違った「何か」を感じ取れるのかもしれません。
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今回ぶった斬られていただいた愛すべき作品
『放流 ザ・ダム』
監修・撮影:ダム好きさん
アルバトロスより発売中 3,990円 / 購入はコチラから
山田井ユウキ
レビューサイト「カフェオレ・ライター」主宰。サイトでのP.N.は「マルコ」。映画はもちろんマンガ、ゲーム、さらにはBL作品に至るまで幅広くレビュー記事を執筆、その独特な視点とテンポのよい文章で人気を博し、連日30.000以上のPVを誇る