「これは珍DVDなんかじゃない……」

それが、DVDを見終わって僕が思わずつぶやいたセリフでした。

そうなんです。この「珍DVD、愛を込めてブッタ斬り」は、その名の通り、つっこみどころ満載の珍DVDをゴリゴリとレビューしていこうという、どのへんの層にニーズがあるのか自分でもたまにわからなくなってしまう連載コラムなのですが、今回ばかりは僕も困り果ててしまいました。

何しろ、さあ珍DVDだ! と意気込んで鑑賞した作品『ラプター』が、ごく普通の良作だったのですから。

ちなみに、この原稿を書いているまさに今も、振り上げた拳の下ろしどころを見失って右往左往しているわけですが……しかし、良作だからといって「あ、良かったですよ」ではレビュワー失格というもの。

今回は、この珍……いや、良作DVD『ラプター』を、ネタバレすることなく、そしてどこかに珍DVD的な要素がないか目を皿のようにして探しつつ、皆様にご紹介していくことにしましょう。

さて、言い訳ばっかりしていたら前置きが長くなってしまいましたが、『ラプター』というタイトルだけでこのDVDの内容を理解できる方は少ないと思いますので、まずはタイトルの説明から。あまり馴染みのない単語ですが、実は「ラプター」とは獰猛な生物を指す単語であり、このDVDでは「ワニ」がそれに当たります。

子供が見たらトラウマを残しそうなパッケージ。これだけ見れば無尽蔵につっこみどころがありそうな雰囲気なのですが…

本作をしいてカテゴライズするなら、「海洋パニックホラー」ということになるでしょうか。ジャンル自体はありがちですが、ワニを使ったところはなかなか斬新です。

海洋パニックホラーの代表作といえば「ジョーズ」ですが、ワニがサメと違うのは、陸にも上がることができるという点。つまり、安全地帯がないのです。ジョーズも怖かったですが、あれは相手がサメなので、とりあえず家にいるときは安心でしたからね。海はもちろん陸でも気が抜けない……この点を踏まえてご覧いただくと、さらなる恐怖を味わえるのではないかと思います。

海でも

陸でも

ストーリーの方は、ホラーのお約束を守りつつも、中だるみすることなく90分間しっかりと恐怖を感じさせてくれる良質な出来で、見終わったときにはきっと海が怖くてたまらなくなっているはず。

と、ベタ褒めしましたが、ここでちょっと気になるのは上でご紹介したパッケージ。このイラストはちょっと大げさで、実際に登場するワニはあんなにでっかくありません。というか、もしパッケージ通りの大きさだったら、人類の総力を結集して戦わなければいけないレベルの怪獣です。なので、パッケージだけ見て震えていた方はどうぞご安心ください。

実際の大きさはこんなもん。小さくはないけど、パッケージは明らかにやりすぎだ!

……多分、デザイナーがこのパッケージデザインを考えたとき、真夜中でテンションが最高潮だったのでしょう。それでついついワニを誇張しすぎた、と……。

デザイナーの方には、この調子で頑張っていただき、ぜひ次回作ではもっと思い切って弾けてもらいたいですね!

では遅くなりましたが、簡単にあらすじをご紹介しましょう。

主人公であるジャックは、タイの人気観光地で破産寸前のワニ園を経営している超イケメン。家族と共に静かに暮らしていたジャックですが、あるとき町の浜辺に人食いワニが出現。次々と住人が襲われる事件が発生し、あろうことか彼の飼っているワニに疑いがかけられてしまいます。

信用を回復するため、ハンターのホーキンスと手を組んだジャックは、人食いワニを追うことにしたのですが――彼らを待っていたのは、想像を絶する恐怖だったのでした。

……ということで、あらすじを見ても『ラプター』は完璧な海洋パニックホラーであり、僕などがつっこむ隙はないように思えます。

しかし、ずっと見ていると、たまにつっこみどころが出てくるのが本作の面白いところ。たとえば、ワニを追って沼の淵を歩いているジャックの走りづらそうなサンダル姿に見ているこっちがハラハラしたり、本格的にワニを退治しにいくのになぜか女子供を同行させたり……。

適材適所ってモンがあるだろ! と思わず叫びたくなってしまうような展開が多々見られますが、監督に言わせれば「だってその方が怖いじゃん」ということなのかもしれません。

ハンターの横で当たり前のように発砲していますが、まだ子供です

ふと思ったのですが、こういった思わずつっこみたくなる要素については、何も本作に限った話ではなくて、ホラーというジャンルそのものの特徴なのかもしれませんね。

皆さんもホラー映画を見ていて、「なんでそっち行くんだよ! バカ!」とか「わざわざ物音の正体を確かめようとするなよ!」とか、心の中で叫んだことがきっと一度はあるでしょう。

ですので、本作でのつっこみどころも、ある意味では正しいホラーの姿と言えるのかもしれません。

あと、別にどうでもいいところなのですが、物語中に出てくる子供たちが普通にニンテンドーDSで遊んでいたことには、かなり驚きました。さすがは世界中を席巻したヒット商品だぜ……!

そう、僕たちは、ワニよりもむしろ任天堂を怪物と呼ぶべきなのかもしれませんね。 ……すみません、ちょっと上手いこと言ってお茶を濁そうとした姑息な文章(しかも別に上手くない)から何となく僕の苦悩がご想像いただけたかもしれませんが、この『ラプター』にはマジでもうつっこみどころがないんです!

もっとこう……最後はワニが巨大化して町を踏み潰すとか、最後にワニの背中のチャックが開いて「ドッキリでしたー!」と言いながら野呂圭介が出てくるとか、そういう展開を見せてくれたなら、嬉々として文庫本一冊分ぐらいのラプター批評を書くんですけど。

「ラプター」を気になる異性と一緒に見れば、吊り橋効果で恋が始まる!(かも!)

そんなわけで、何が"珍"かって、今回は珍DVDの要素を探しまくった挙句に敗北した僕の文章こそが一番"珍"だったというオチで勘弁してくださいネ!(可愛く)

今回ぶった斬られていただいた愛すべき作品

ラプター

原題:CROC

CAST : マイケル・マドセン / ピーター・ツインストラ / シェリー・プンプラサート / エリザベス・ヒーレイ / スコット・ハッツェル / タウォン・セイタン / ワサン・ユンソック / ジャック・プリンヤ
監督:スチュワート・ラフィル / 製作総指揮:ロバート・ハルミSr/ロバート・ハルミJr

アルバトロスより発売中 5,040円
山田井ユウキ

レビューサイト「カフェオレ・ライター」主宰。サイトでのP.N.は「マルコ」。映画はもちろんマンガ、ゲーム、さらにはBL作品に至るまで幅広くレビュー記事を執筆、その独特な視点とテンポのよい文章で人気を博し、このほど累計1千万アクセスを突破した。2月9日には1千万ヒット記念のネットラジオを開催する予定