ソリッド・シチュエーション。
この言葉を聞いて、「うん、わかるよ」という方は、ここから数行飛ばして読んでいただいても大丈夫です。
逆に「ソリッド」ときたら「スネーク」しか思いつかないという方は、まずは言葉のおさらいから。
「ソリッド・シチュエーション」とは、すなわち「固定された状況下で展開するストーリー」のこと。古くは謎の建物で繰り広げられる惨劇を描いた『CUBE』。最近では90分間ずっと電話ボックスの中で展開するサスペンス『フォーン・ブース』などが、ソリッド・シチュエーション映画の傑作として知られています。
しかし、なんといってもこの言葉を世間に浸透させた功労者は『SAW』シリーズでしょう。第一作目の舞台となった狭い密室での惨劇は、まさに「ソリッド・シチュエーション」の名にふさわしい緊張感を最後まで保ち続け、僕たちを楽しませてくれました。
そして今回ご紹介するDVD『GAME』は、「ソリッド・シチュエーション最終最強作」と銘打たれた期待の作品! このキャッチコピーだけなら「大きく出たな!」とつっこみたくなりますが、ところがどっこい、本作には『SAW』シリーズのジグソウ役でお馴染みのトビン・ベルも登場するといいますから、「最終最強」の4文字は伊達ではなさそうです。
ではさっそくパッケージからご紹介しましょう。
いいですか、目をおっ広げてよくご覧くださいね!
……ああ……。
……うん、何だろう……この「どこかで見た感」たっぷりのパッケージは……。
これだけ見ても何のことやらよくわからない、という方は「SAW4」でイメージ検索してみてください。きっと僕の言いたいことがわかっていただけると思います。
それも面倒だという方のために説明しとくと、ようするにこの『GAME』のパッケージ、『SAW4』のパッケージとほぼ同じなんですよね……。
もうね、パーセンテージで表したら90%ぐらいは被ってます。
だいたいパッケージって、DVDの顔とも言える重要な要素だと思うのですが、もしこれが顔認証システムのロックだったら、本人じゃないのに普通にセキュリティが解除されてしまうレベルの双子っぷり。……というか、知らない人が見たらSAWの続編だと勘違いして手に取っちゃうんじゃないでしょうか。
とまあ、パッケージの出オチっぷりにつっこんだところで個人的には満足してしまったのですが、それではあまりにあまりなので、しっかり中身についてもつっこみを入れていきたいと思います!
つっこみポイント 1 : シチュエーションが、ぜんぜんソリッドじゃない!
まずはあらすじから。
共に週末を過ごすため、荒野に佇む古い屋敷を訪れた大学生のゼインと、その友人たち。しかし、優雅に過ごすはずの週末は地獄へと変わる。血の色に染まるバスタブ。斧。大きな木箱……彼らを狙う正体不明の存在とはいったい――?
ということで、この「古い屋敷」が物語を通しての舞台となり、それ自体は別にいいのですが、問題は屋敷が最後まで普通に開放されていること。つまり逃げたければ普通に逃げられる状況です。
え……? それって、ソリッド・シチュエーションって言わないんじゃ……?
ほら、『SAW』にしろ『CUBE』にしろ、ソリッド・シチュエーションの醍醐味って「そこから逃げたいのに逃げられない」という状況にあると思うんですよね。ところがこの「GAME」ではそうではなくて、逃げられないわけではないんだけど逃げない。これはけっこうニュアンスが違います。
このへんで、「あのパッケージとキャッチコピーはいったい何だったのか」というつっこみが喉までせり上がってきましたが、ぐっと飲み込んで続きを見ていくことにします。
つっこみポイント 2 : トビン・ベルの役が割と地味!
さて、最初に触れた通り、本作には『SAW』シリーズに登場していたトビン・ベルが出演しています。
「ジグソウ」役で一躍有名になった彼の扱いは明らかに別格で、一人だけパッケージに顔が写っていたり、キャスト紹介では一番上に名前があるなど、かなりプッシュされている様子。
ところがこのトビン・ベル、屋敷を管理しているおじいさん役で登場するのですが、あんまり話に絡んできません。というよりも、具体的に言うと最初と最後にちょろっと出てくるだけです。
いやいやいや! ここまでトビン・ベルで推しといてそれかよ! というか、パッケージだけ見たら確実に主役じゃん!
……はい、それではちょっとここでパッケージをもう一度確認しときましょうか。
つっこみポイント 3 : そもそも「ゲーム」ですらない!
先ほどご覧いただいたパッケージをよく見ると、もうひとつのキャッチコピーとして「死のゲームはまだ、終わってはいない――。」というおどろおどろしい一文が刻まれています。また、本作のタイトルから考えても、「ゲーム」という単語が物語を読み解く上でのキーワードになっていることは間違いありません。……と考えますよね、普通は。
しかし、この作品に「ゲーム」の要素は皆無でした。
……いえ、その、僕もどこらへんがゲームなのかなーと思って鑑賞していたのですが……どう見てもゲームから連想される要素はゼロで、どちらかといえばこれ、オカルト色の強い猟奇殺人事件なのよね……。
じゃあいったい何を思って「GAME」というタイトルにしてみたのか。 やはり『SAW』のヒットに乗っかってみたかったのか。
……疑問は尽きません。
つっこみポイント 4 : 結局つっこむべきはパッケージだけ!
――ということで、ここまでつっこみまくってきたことで、「どんだけ駄作だよ」と思われた方がいたら誤解を解いておきたいのですが、僕がつっこみまくっていたのは、結局のところパッケージについてのみなんですよね。
映画そのものは普通に面白いので、どうぞご安心ください。
映画冒頭から惨劇を予感させる不気味な出来事が起こってドキドキさせられたり、美しい女優陣の素っ裸が拝めるサービスシーンがちゃんと用意されていたり(画像はありません。ごめんね!)、あまり出てこないくせにトビン・ベルがさすがの存在感を示していたり、B級ホラーエンターテインメントとして充分に楽しませてくれる内容となっています。
これからの季節を涼しく過ごすのにぴったりの一本。 ぜひ真夜中に、部屋の照明を落とし、窓をちょっとだけ開けてご覧くださいね(そうすると最高に怖いです)。
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今回ぶった斬られていただいた愛すべき作品
『GAME』
キャスト:トビン・ベル / リア・レイチェル(CSI:ニューヨーク) / エリン・ロキッツ / ジェルメーヌ・デロン(「CSI:マイアミ」) / テレンス・ジェイ
監督:ロバート・カーツマン
脚本:アート・モンテラステリ(トータル・リコール)
トランスフォーマーより発売中 3,990円
山田井ユウキ
レビューサイト「カフェオレ・ライター」主宰。サイトでのP.N.は「マルコ」。映画はもちろんマンガ、ゲーム、さらにはBL作品に至るまで幅広くレビュー記事を執筆、その独特な視点とテンポのよい文章で人気を博し、連日30.000以上のPVを誇る