残暑はまだまだ厳しいですが、空はすっかり秋模様。おいしい秋の味覚も楽しみですが、「芸術」のほうも堪能しましょ。今月は、「芸術の秋」の始まりにふさわしく、人気劇団のドタバタ劇に、紀元前から口承で伝わるギリシア叙事詩の初の日本上演、気鋭の演出&脚本家が手がけるイギリス現代劇と、じつにバラエティ豊か。「演劇」という表現方法の奥深さを存分に実感してください!

『ハーパー・リーガン』 - 小林聡美5年ぶりの舞台は、すべての人にシンクロする「自分探し」

1年間のロンドン留学から帰国後、発表した『アンチクロックワイズワンダーランド』が話題を集めた長塚圭史が、帰国後初の翻訳作品の演出に選んだのは、『ハーパー・リーガン』。イギリス人作家サイモン・スティーヴンスの作品で、長塚がロンドン留学時代に出会い、日本に持ち帰って上演したいと熱望した作品だとか。

舞台は現代のロンドン。父親の危篤の報を受けたハーパー・リーガンは上司に休暇を申し出るものの受け入れてもらえません。その瞬間、ハーパーのなかの"何か"が動き出し、夫や娘に何も告げないままあてもない旅へ。果たして、その旅の終わりに待っているものとは──? 人間誰しも自分の人生を振り返るきっかけになる出来事は、大小問わず、人生の節々にあるはず。そんなとき、いったい人はどんな行動に出るのか──。いまを生きる私たちにそんなことを問いかけてくるような作品は、自分の生き方を考える「きっかけ」になるかも? 5年ぶりの舞台出演となる小林聡美が、主人公ハーパー・リーガン役で出演するのも楽しみです。

緻密で情熱的。長塚が惚れた現代イギリス戯曲とは?

『ハーパー・リーガン』
日程 2010年9月4日(土)~9月26日(日)
会場 パルコ劇場(東京・渋谷) ※地方公演あり
演出 長塚圭史
脚本 サイモン・スティーヴンス
キャスト 小林聡美、山崎一、美波、大河内浩、福田転球、間宮祥太朗、木野花
料金 7,500円、U-25チケット5,000円

『イリアス』 - 世界最古の叙事詩『イリアス』、日本で初の舞台化

ん? これってどこかで聞いたことのあるタイトルだなと思った人も多いのでは? 『イリアス』とは、紀元前8世紀頃にギリシア最大の詩人、ホメロスによって作られたといわれるギリシア最古の英雄叙事詩のこと。「トロイア戦争」10年目に起きた数十日間の出来事を描いたもので、何千年の時を超え、現在に伝えられている傑作ですが、日本では初めて上演される。

Photo:Tadayuki Minamoto

テーマとなるのは、「怒り」。時代は、紀元前1250年頃。ギリシア軍の総大将アガメムノン(木場勝己)の横暴に業を煮やした、英雄アキレウス(内野)は戦線を離脱。しかし、親友の敵をとるために、再び戦線に戻ることになり──。バイオリンやパーカッション、ピアノなどの生演奏も加わり、さまざまな意味で、壮大な舞台になりそう! 

文字のない時代に、口承で語り継がれてきた物語を堪能すべし

『イリアス』
日程 2010年9月4日(土)~23日(木・祝)
会場 ル テアトル銀座 by PARCO(東京・銀座) ※地方公演あり
原作 ホメロス
演出 栗山民也
脚本 木内宏昌
キャスト 内野聖陽、池内博之、高橋和也、馬渕英俚可、新妻聖子、チョウソンハ/木場勝己/平幹二朗ほか
料金 平日10,000円、土・日・祝11,000円

『鋼鉄番長』 - 人気劇団が本気で挑む、「ドタバタ劇」

エンタテイメント性とスピード感あふれるストーリー展開と豪華ゲストで、毎公演、チケット入手困難状態となる劇団☆新感線。1980年の旗揚げ以来、30周年を迎える今年は、例年以上にエネルギッシュな活動をみせていますが、秋の興行は「チャンピオンまつり」の名のもと、『鋼鉄番長』を上演予定です。

撮影:相澤心也

チケット発売前の段階で劇団側は本作について、「全く知性を感じさせない体力勝負のドタバタ」と明言。そう、新感線が3年に1度、「俺たちのルーツ」と上演している、お笑い満載、おポンチ炸裂の"ネタもの"が久々にお目見えです! 成り行きで鋼鉄の体を手に入れた不死身の男を主人公とした学園アクションに、平均年齢40歳を超える役者たちが全力で挑むとあれば、これは見逃すわけにはいかない? どんな舞台になるのかま~ったく想像がつかないけれど、日常生活のうさを忘れて大笑いできそうな予感大。最高にばかばかしい時間を期待しちゃいましょ! そして、なにげに、田辺誠一、坂井真紀、池田成志と客演も豪華だったり……。

難しいことは考えず、とにかく笑いに行くべし!

2010年劇団☆新感線30周年興行"秋"豊年漫作チャンピオンまつり『鋼鉄番長』
日程 2010年10月4日(月)~11月7日(日)
会場 サンシャイン劇場(東京・池袋) ※地方公演あり
作・演出 いのうえひでのり
キャスト 橋本じゅん、坂井真紀、池田成志、高田聖子、粟根まこと、田辺誠一、古田新太ほか
料金 S席10,500円、A席8,500円
長谷川あや
大学時代から舞台にはまり、小劇団のストレートプレイから大型ミュージカルまでジャンルを問わず観劇。卒業後は出版社に入社し、編集者として活躍。1996年に退社し、現在はフリーライターとして、演劇専門誌や女性誌、情報誌などで読みものページを中心に執筆している

イラスト:gnk