舞台がきっかけで歴史上の出来事や人物に興味を抱いたり、関連本に手を伸ばしてみたり──。ひとつの芝居は時に心の栄養剤になり、また、新しい世界の扉を開くきっかけになることもある。今月、観る一篇の作品が、あなたの人生における転機になるかもしれない!? 今月は、知識欲や好奇心をくすぐるような3作品をピックアップした。

『ゼブラ』──人生のほんの一部を切り取った、愛すべき作品

斉藤由貴、星野真里、山崎静代、大沢あかねが四姉妹を演じるのもなんとも楽しみだが、脚本の完成度の高さにも目を見張るものがある作品だ。2007年、今はなき(今年3月末に閉館)「シアタートップス」で行われた再演を見た。「日常」ではないけれど、誰にとっても身近な「お葬式」を題材に、家族の絆をやさしく、リアルに描いた人間への愛にあふれる描写が鮮烈で、あれから3年経った今も印象は色あせることない。お腹を抱えて笑い、ほろりとし、演劇の醍醐味を存分に味わった。

現在、テレビドラマの脚本でも活躍中の田村孝裕の代表作ともいえるこの佳作を、今回、豪華&個性派キャストを迎え、上演。今年、生誕80周年を迎える向田邦子の『阿修羅のごとく』のオマージュである同作、観終わった後、きっと大切な家族に電話をかけたくなるはず。さらに、向田作品の魅力も再確認できる。

「家族の絆」をテーマにした、あなたの物語

『ゼブラ』
日程 2009年6月9日(火)~6月29日(月)
会場 シアター・クリエ(東京・日比谷)
劇作・脚本・演出 田村孝裕
出演 斉藤由貴、星野真里、山崎静代(南海キャンディーズ)、大沢あかねほか (※檀れい降板のため、星野真里が新配役となる)
料金 S席9,000円、A席7,500円

『炎の人』──1951年初演の傑作が、装いも新たに21世紀に蘇る

『炎の人』は、天才画家・ゴッホの生涯を、日本を代表する劇作家、三好十郎が鮮やかに描き出した傑作戯曲。1951年に劇団民藝によって初演された、この日本演劇の歴史に燦然と輝く名作の主人公に、「いつか機会があればやってみたかった」と語る市村正親が挑む。炭坑で宣教師を志していたゴッホは、その献身さゆえに解雇され、放浪の旅の中で絵画に生きる道を求める。肉体を切り売りするかのように絵を描き続け、やがて狂気に支配される、まるで炎のようなゴッホの生涯が、三好の圧倒的な筆致で綴られる。60歳にして、公演ごとに進化を遂げる市村は、「6キロ痩せて本番に臨む」と製作発表で宣言するなど気合い十分。21世紀版『炎の人』、のちのち語り草になるかも!?

円熟味を増し、さらに成長を遂げる市村の芝居は必見!

『炎の人』
日程 2009年6月12日(金)~6月28日(日)
会場 天王洲 銀河劇場(東京・東品川) ※地方公演あり
三好十郎(『三好十郎1 炎の人』ハヤカワ演劇文庫刊)
演出 栗山民也
キャスト 市村正親、益岡徹、荻野目慶子ほか
料金 S席9,000円、A席7,500円

『女信長』──今、解き明かされる「本能寺」の真実とは?

歴史上の「たら」「れば」を実際に体感できるのが、フィクションの醍醐味。しかも、芝居は、実際に登場人物が、動き、話すのを目の当たりにすることができるのがやっぱりうれしい。

原作は、史実の謎を「織田信長は実は女だった」という設定で読み解いていく直木賞作家・佐藤賢一の同名小説。桶狭間の戦い、本能寺の変など、歴史上の出来事を小気味よくエンタテインメントに昇華していく筆致が話題になった人気作の初の舞台化だ。信長が女だったという大胆な解釈以外は極めて史実に忠実で、辻褄あわせにひざを打つこと仕切り。「女」を武器に戦国の世を戦い抜く生身の主人公に、成人後、女優としての充実ぶりをみせる黒木メイサ。激しい殺陣のシーンもあるとあり、こちらも楽しみ。彼女を中心に信長を愛し、支える明智光秀役は中川晃教、信長を手篭めにし、後ろ盾となる斉藤道三役の石田純一、そして信長の正室に有森也実と、充実のキャストが顔をそろえた。

歴史上の「たら」「れば」は生の舞台がおもしろい!

『女信長』
日程 2009年6月5日(金)~6月21日(日)
会場 青山劇場(東京・神宮前) ※地方公演あり
原作 佐藤賢一(『女信長』毎日新聞社刊)
脚本 渡辺和徳
構成・演出 岡村俊一
キャスト 黒木メイサ、中川晃教、石田純一ほか
料金 S席9,500円 A席8,500円
長谷川あや
大学時代から舞台にはまり、小劇団のストレートプレイから大型ミュージカルまでジャンルを問わず観劇。卒業後は出版社に入社し、編集者として活躍。1996年に退社し、現在はフリーライターとして、All About演劇・コンサートや女性誌、情報誌などで読みものページを中心に執筆している

イラスト:gnk