いまや世界最大の販売台数を誇るトヨタだが、コンパクトカーやエコカーは得意でも、「トヨタにスポーツカーは作れない」という不名誉なレッテルを貼られて久しい。

トヨタのスポーツカーというと、スープラ、セリカ、MR-Sなどがあり、どれもそれなりに評価も人気も高かった。しかし、メーカーのアイコンとなりうるようなカリスマ性のあるモデル、たとえば日産のGT-Rのような、ホンダのNSXのような……、そんなモデルがない。あえていえばトヨタ2000GTが挙げられるが、ちょっと古すぎるかもしれない。

2009年の東京モーターショーで披露されたレクサスLFA

そんなイメージを払拭すべく登場したのが、レクサスブランドのLFAだった。日本で低迷するレクサスのカンフル剤として、長年の課題である欧州市場でのブランドイメージ向上を狙って、レクサスブランドに本気のスポーツカーを出してくるだろうと誰もが予想した。それでもボディを全部CFRPで作ると聞いたとき、業界でも驚きの声が上がった。

「1台ずつ手でつくるのか?」「いや、トヨタのやることだから、FRPのものすごい量産技術を開発したのではないか?」、そんな話も聞かれた。開発がなかなか進まなかった頃、筆者の住む愛知県豊田市周辺では、「ボディは完成したが、値段などでもめてるらしい」「トヨタが下請けの出した値段を半分に叩いているらしい」といったうわささえ流れたほどだ。

小規模なスーパーカーメーカーがFRPボディをやると聞いても、誰も驚かないだろう。しかしトヨタとなると話が違う。「トヨタなら」「トヨタなのに」「トヨタでも」「トヨタだから」、……どこまでいってもLFAそのものより「トヨタ」の名前が先に出てしまう。そこがトヨタの凄いところでもあり、また克服しがたい弱点でもあるだろう。

2009年の東京モーターショーで披露されたLFAを見た。異常なほど礼儀正しく、腰が低く、まるでアメリカ映画に登場するステレオタイプの日本人のようなレクサスの担当者は言った。「サウンドを追求して排気系を設計しました」と。

トランスアクスルが大きな特徴となるASG。入力のパワーを考えればミッション本体は驚異的にコンパクトといえる

技術展示されていた専用トランスミッション「ASG」の横にいたアイシンAWのエンジニアはもっと直接的だった。なぜDCTではないのかと聞くと、「メリットがないですよ。わざわざシャフトを1本追加して大きく重くする意味がない」。それはボルグワーナーには負けないということか(ASGは従来のMTを自動制御するロボットMT、DCTは3軸、デュアルクラッチ)。

礼儀正しく振舞っていても、言っていることは意外と好戦的だ。できあがったLFAも同じで、熱い闘志を内に秘めるが、外観はやはりどこまでもレクサスであり、「トヨタ」だった。

先日、公道を走るLFAを初めて目撃した。筆者は驚いたが、周囲の人々はそれが3,750万円もしたスーパーカーだとは気づいていないようだった。フェラーリやランボルギーニなら、通行人の何割かは目で追うものだが、そうしている人がいない。スーパーカーを作るなら、闘志は内に秘めずにわかりやすく見せた方がいいのだろう。それをしないのはやはり、LFAである前に「トヨタ」だからなのかもしれない。