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宇宙の仕事辞典 第6回 【CASE06】機械設計 × 宇宙ロケットの開発・製造

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【CASE06】機械設計 × 宇宙ロケットの開発・製造

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「宇宙の仕事」と聞くと、一部の専門家たちだけを対象とした”特別な仕事”と思ってしまいがちですが、実態はその真逆。特別な経験や知識がなくとも携われる仕事がたくさんある業界なのです。

そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第6回。宇宙ロケットの開発にかかわる機械設計エンジニアの仕事について、インターステラテクノロジズの倉本 紘彰さんにお話を伺いました。

  • インターステラテクノロジズ/倉本 紘彰さん

【イントロダクション】インターステラテクノロジズのビジネスとは?

今、1年間でどれくらいの数の人工衛星が打ち上げられているかご存知でしょうか。2021年の打上げ数は世界全体でおよそ1,800機。2011年の打上げ数が130機程度だったことを考えると、10年で14倍もの規模に膨れ上がったことになります。その背景にあるのは宇宙空間の商業利用活発化です。特に、高度2,000km以下の低軌道を周回する小型人工衛星を用いた事業領域は伸長が著しく、通信や地球観測のために人工衛星を運用する事業者はもちろん、地球観測データを利活用したさまざまなサービスを提供する事業者も急増しています。そのため、人工衛星の打上げニーズは今後さらに増大していくことが確実視されているのです。

ただ、そこでネックになってくるのが打上げコストです。宇宙への唯一の輸送手段であるロケットに関して言えば、現在は大型ロケットが主流なこともあり、一機あたり数十億円から100億円もかかると言われています。そのあまりに高額な費用が、民間事業者の宇宙進出を阻む障壁になっていることは誰の目にも明らかですが、その現状を打破すべく、「誰もが宇宙に届く未来をつくる」というビジョンのもと、低コストなロケットの開発に取り組んでいる企業がインターステラテクノロジズです。

2019年、日本の民間単独ロケットとして初めて宇宙空間に到達した『MOMO』のニュースを耳にした方も少なくないと思いますが、その開発・製造を手掛けたのが同社です。北海道・大樹町を拠点に、「既存の宇宙ロケットよりも一桁安い」ロケットの開発・製造に取り組んでいます。誰もが気軽に使えて、確実に宇宙空間に到達できるロケットが実現すれば、宇宙進出を考える民間事業者にとっては強力な追い風になります。日本国内のみならず、世界中から支持される企業になるはずです。

さらに同社は、宇宙進出に必要なサービスをすべて自社グループ内で提供できる体制の構築を進めており、2021年には人工衛星の開発・製造を行う子会社を設立したほか、アジア初の民間スペースポート(宇宙港)の運営会社の設立にも関わるなど、活動の幅を大きく広げています。人工衛星がライフラインになる「宇宙時代」の総合インフラ企業への道のりを着実に歩んでいると言ってもいいでしょう。

どんな仕事なのか教えてください

現在、当社では観測ロケット『MOMO』の後継機となる超小型人工衛星打上げロケット『ZERO』の開発に取り組んでいます。この新機種は、1機あたり6億円以下と海外のロケット会社に引けを取らない国際競争力のある小型ロケットであり、超小型人工衛星を地球低軌道に投入することが可能です。現在の人工衛星打上げは大型ロケットへの相乗りが基本なため、スケジュールや投入軌道を自由に決めることは難しいのですが、『ZERO』は超小型衛星の単独打上げを主な目的としたロケットですので、「好きな時に好きな場所へお届け」することができるという利点があります。大きく拡大している人工衛星の打上げニーズを満たすロケットとして開発を進めており、私をはじめ、多くのエンジニアが開発プロジェクトに参加しています。

私はプロジェクト内で、ロケットエンジンの開発を行う「推進グループ」に所属。キーコンポーネントのひとつである燃焼器の設計に携わっています。燃焼器は、燃焼室/噴射器/ノズルという3つの領域で構成されていて、それぞれに専任担当がおりますが、私の担当は燃焼室まわり。エンジンの要求仕様を満たせるよう、燃焼時の高温高圧に耐えられる材料の選定と構造の設計、FEM(有限要素法)やCFD(数値流体解析)等によるCAE(Computer-Aided Engineering)、設計図の作成まで一貫して行っています。

この仕事のやりがい・面白さは

ロケットエンジンの設計を仕事にしている人は世の中にそう多くはありません。単純ですが、人がやっていないことに挑戦する面白さは、この仕事の醍醐味の一つだと思います。

そして、もうひとつが設計からCAEまで一人で一貫して担当できることです。私は前職の経験からCAE専任として入社したのですが、「設計にもチャレンジしたい」と希望したところ、任せてもらえることになったのです。手を挙げた人には積極的にチャレンジさせてくれる企業文化があることも当社の大きな魅力ですね。

当然、CAEだけでなく設計から一貫して担当するほうが、仕事を完遂したときの感動が大きくなるのは言うまでもありません。私が入社したのはちょうど2021年7月の『ねじのロケット(MOMO7号機)』が打ち上がるタイミングでした。打上げ前のドキドキ感を共有するとともに、成功後に大の大人同士が涙を流して喜び合う姿を間近で見ることもできたのです。「今度は自分が」という想いを強くしました。

この仕事の難しさ・大変な部分は

『ZERO』は文字どおりゼロベースの開発を行っており、技術的に新しいチャレンジを行わなければならない局面も少なくありません。エンジニアとして、新しい技術に触れるのは大きな喜びですが、同時に大変な部分でもあります。

たとえば、『ZERO』と『MOMO』ではエンジンの冷却システムの発想が違っていて、『ZERO』の開発では当社として初めて取り入れる技術の活用を求められています。ロケットエンジンの燃焼時の温度は3,000℃以上にもなるわけですが、その温度に耐えられる材料はほとんどなく、同時に冷却を行わなければなりません。『MOMO』の場合はアブレータ方式を採用し、材料が熱分解して発生するガスを冷却に活用していました。これに対して『ZERO』は、さらに積極的に冷却する必要があり、燃料である液化メタンを冷却剤として活用することになったのです。これは二つのロケットの打上げ高度の違い(『MOMO』は高度100km、『ZERO』は高度500km)から来る燃焼時間の差などの要因によってそういう選択をしたわけですが、何しろ社内的には新しい技術なので先例もノウハウもありません。

そこで、ロケットエンジンに関する国内外のさまざまなテクニカルレポートをあたってみたのですが、技術の詳細についてはブラックボックス化しており、材料や構造などの最適解を求めてCAEによるシミュレーションを何度も繰り返すことになりました。シミュレーション上では手応えのある設計ができましたが、それが実際に正解であるかどうかは試作して試験してみるまでわかりません。

この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル

私は大学時代に機械工学を専攻し、特に燃焼分野の研究に力を入れていました。また、前職では、某県工業技術センターの機械電子研究所で、中小企業への技術支援を担当しつつ、自身の研究テーマとしてCAEに関する知見を深めました。現在の仕事をする上で、このキャリアはとても役立っています。

もちろん、機械工学系のバックグラウンドがないとダメかというとそんなことはなく、当社の開発部門には、材料系出身のエンジニアもいます。さまざまな分野の知見を持つエンジニア同士が議論することによって、思いもかけないシナジーが生まれていますので、ぜひ色々な人にジョインしてほしいですね。

その他、エンジニアとしての専門性以外に、仕事を進めていく上で欠かせないのがチームワークです。コンポーネントに仕上げていく過程では、他領域を担当しているエンジニアと連携して設計の整合性を取る必要がありますし、試作フェーズに入れば製造グループとの密なコミュニケーションが欠かせません。ただ、仲間と力を合わせて大きな仕事を成し遂げたいと考えられる人なら大丈夫だと思います。

【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】

●私が宇宙を仕事にした理由
子どもの頃、北九州市にあった宇宙のテーマパークでNASAの月面走行車のレプリカやスペースシャトルの模型を見たことをキッカケに、宇宙に憧れるようになりました。大学で機械工学を学んだのも、そこに少しでも近づきたいという思いからでした。ところが、就職活動とリーマンショックが重なったことで、宇宙産業が狭き門になり、最初は大手の自動車部品メーカーに就職することに。その後も宇宙関係の仕事への興味は持ち続けていましたが、自分の専門性では通用しないと半ば諦めていました。そんなある時、当社がエンジニアを募集するという情報がTwitterで流れてきたのです。宇宙分野の知見や経験は不問ということだったので、「これが最後のチャンスだ」と考えて飛び込んだ結果、念願叶って宇宙業界の一員になることができました。まさか自分が、ロケットエンジンの開発を仕事にして、NASAのテクニカルレポートを読むようになるとは夢にも思いませんでしたね。

●読者へのメッセージ
大手企業との違いを実感しているのは、自分のやりたいと思ったことにトライできる企業文化が根付いていることです。何でもやらせてもらえる環境なので、100%自分がやりたくてやっている仕事だと自信を持って言えますし、「自分じゃなきゃやれない仕事だ」というくらいの気概を持って取り組めます。

社内には、宇宙に対する熱い想いを持っている人が集まっています。私もこの想いを持ち続けたからこそ、現在があります。ぜひ一緒に、自分たちの手で作り上げたロケットを宇宙空間に送り届ける感動を味わいましょう。

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