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宇宙の仕事辞典 第12回 【CASE12】エンジニア(ソフトウェア系) × 超小型衛星の開発・製造・運用

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【CASE12】エンジニア(ソフトウェア系) × 超小型衛星の開発・製造・運用

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「宇宙の仕事」と聞くと、一部の専門家たちだけを対象とした”特別な仕事”と思ってしまいがちですが、実態はその真逆。特別な経験や知識がなくとも携われる仕事がたくさんある業界なのです。

そんな宇宙産業のさまざまな仕事を紹介する『宇宙の仕事辞典』の第12回。地球観測から深宇宙探査まで行う超小型人工衛星の開発・運用にかかわるITエンジニアの仕事について、アークエッジ・スペースの岩佐 由喜さんにお話を伺いました。

  • アークエッジ・スペース/岩佐 由喜さん

【イントロダクション】アークエッジ・スペースのビジネスとは?

かつて、人工衛星の打ち上げは、国や一部の研究機関の専売特許でした。しかし、現在は民間企業も多数の衛星を打ち上げ、ビジネスを展開しています。技術の進歩によって衛星が小型化されたことに加え、1機のロケットで複数の衛星を打ち上げることも可能となり、民間でも手の届くレベルまでコストダウンしてきたことが要因の一つです。すでに多数の衛星を打ち上げて複合的に運用する「衛星コンステレーション」を手掛ける企業も登場し始めています。

東京大学発の宇宙スタートアップであるアークエッジ・スペースもその1社です。同社は、先端技術の積極的な活用によって地球観測から深宇宙探査にいたるまでの幅広いニーズに応える衛星を開発、コンステレーション構築にも取り組んでいます。

そんな同社が開発しているのは、10cm×20cm×30cmという引き出しサイズの小型衛星「6U衛星」や、さらに小さな10cm×10cm×30cmという、2リットルペットボトルサイズほどの超小型衛星「3U衛星」などの、いわゆるキューブサット。衛星の製造だけでなく、静岡県に自社で地上局を持ち、打ち上げ後の運用や衛星からのデータの取得なども行うなど、衛星ビジネスを全方位からサポートする体制を取っています。

同社の衛星の本格的な打ち上げはこれからですが、2019年11月に、ISSの実験棟『きぼう』から軌道上に放出されたアフリカのルワンダ政府の衛星『RWASAT-1』の開発にも携わるなど、着実に実績を築き始めています。

なお、令和4年度には、経済産業省の『超小型衛星コンステレーション技術開発実証事業』に採択され、IoT通信、地球観測、海洋DX(VDES)、高精度姿勢制御ミッションの4つのテーマに対応した「6U衛星」7機の設計開発と軌道上運用を、2025年までに実現することを目指し、事業展開を加速させています。

また、日本政府の宇宙開発利用加速化戦略プログラム (スターダストプログラム)の戦略的プロジェクトである「月面活動に向けた測位・通信技術開発」における測位・通信システムの総合アーキテクチャおよび月測位衛星システムや月―地球間の超長距離通信システムなどの関連するシステムとその開発計画の検討の委託先としても選定されるなど、同社の活動には多くの注目が集まっています。

どんな仕事なのか教えてください

今後打ち上がる人工衛星の運用に使われる地上局用ソフトウェアを開発しています。地上局用のソフトウェアは、衛星が収集したデータや現在の衛星の状態を受信して、人が理解できるカタチにして表示したり、逆に衛星に対する指示を衛星が理解できる信号に変換して送信したりと、打ち上げた衛星の運用・管理を行っていくにあたって大切な役割を担うことになります。

システム自体は、一般的なWebアプリケーションと変わらない技術スタックで構成されています。ただ、衛星と地上局がどういう内容のデータをやりとりするのか、把握していなければ適切なシステムは作れません。そのため、衛星開発を担当しているエンジニアと日常的にコミュニケーションを取って、衛星側のことも把握しておく必要がある点が、やや特殊なところかもしれません。

ちなみに私は、先任のエンジニアが地上局用ソフトウェアの概念設計をある程度カタチにしていたタイミングでプロジェクトに参画。そのため、実装フェーズにはゼロから関わることができました。現在、2名体制で開発を進めています。

開発のスタイルはアジャイル型です。次々と新しい技術やアイデアが登場する世界なので、できるだけ早く実装し、テストしてというサイクルを高速で回していくには、ウォーターフォール型よりもアジャイル型の開発の方が向いています。社内で実際に衛星開発を行っているため、それらを用いた実践的なテストをすぐできることが開発に役立っています。開発に関しては裁量が大きいので、やりがいは大きいですね。

この仕事のやりがい・面白さは

当然ですが、地上局用ソフトウェアは世の中的にも希少な存在なので、“こうすれば正解”と言えるものがありません。今、まさに正解を模索している段階ですし、そもそもの課題設定が正しいのかどうかを考えるところから携われるのが面白いと感じています。

現在、自社で活用する地上局用ソフトウェアの開発と並行して、ある顧客企業から委託された地上局用ソフトウェアの開発にも取り組んでおり、当社として急速にノウハウを蓄積している最中です。常に「これで正解なのかな?」という問題意識を持ちながら、無数のトライアンドエラーを重ねている分、完成にこぎつけたときの達成感はより大きなものになるはずです。

もしかすると数年後には、地上局用ソフトウェアの世界的なスタンダードが完成されているかもしれません。その中に、自分が試行錯誤してたどり着いた“正解”が採用されていれば嬉しいですね。

技術的に興味深い点を挙げるとすれば、“クラウド上に衛星を飛ばしている”ところかもしれません。実物の衛星で試せないことを検証するため、クラウド上に仮想的な衛星を構築していて、インターネット経由で仮想衛星に対してコマンドを送ったり、その結果衛星の状態がどうなるかを確認したり、といったテストを行っています。

この仮想環境があるおかげで、アジャイル開発におけるイテレーション(短期間の開発サイクル)をガンガン回すことができ、新しいアイデアをすぐに試せるというわけです。

この仕事の難しさ・大変な部分は

地上局用ソフトウェアの開発に関して言えば、人工衛星と地上局との通信に『CCSDS(宇宙データシステム諮問委員会:Consultative Committee for Space Data System)』が定めるプロトコルを利用しているため、そうした新しい知識を学ぶ必要があります。また、システムの連携という点では、人工衛星に搭載されているソフトウェアの実装についても知る必要もあります。

ただ、どんなソフトウェア開発でも対象分野の専門知識は学ぶ必要があるわけですし、それとなんら変わりません。この業界だから特別に大変ということではないと思います。

さらに言えば、人工衛星に対するコマンド送信の部分はとてもクリティカルです。衛星の回転を止めるコマンドを送信するはずが、コマンドの内容が1ビット違っただけで衛星の回転を逆方向に加速してしまう可能性もあるわけです。あるいは、コマンドの内容は正しくても、対象と異なる衛星に送信したら、大変な事態を招いてしまいます。正しい衛星に正しいコマンドを送信するために、設計からテストまで、何重にもチェックをする必要があります。

この仕事で求められる資質や、活かせる経験・スキル

誰も正解を知らない、誰も経験していないことだらけなのが宇宙業界です。だからこそ、仲間とコミュニケーションを取りながら、各々の課題発見力を集約し、正解に近づいていくことが大切になります。その意味では、本質的な問題発見と課題設定をする力、そして仲間と協力し合うためのコミュニケーション力を持っている人が、より輝ける業界と言えるかもしれません。

私がそう思うようになったのは、衛星試験の効率化を目指すプロジェクトに関わった経験からです。衛星試験のオペレーションというのはとても煩雑です。それをソフトウェアの力によって効率化しようとするプロジェクトでした。当初、衛星開発メンバーからは「手順書とコマンド送信、実行結果の画面を別々に開くのが面倒だから、コマンドと手順書を同じ画面に表示させられるようなシステムが欲しい」という要望が上がってきましたが、よくよく検討してみると手順書とコマンド送信は画面を分けておく必要がないと気付きました。そこで、「手順書のところにコマンド送信ボタンを埋め込むことで、画面を1つ減らし、オペレーションの効率化を図りませんか」と提案し、実装したのです。

些細な事例かもしれませんが、「言われたことをそのままやるのではなく、何をやるべきなのかを見極め、実行する力」が大切だよということが表れている話じゃないかなと思います。

【これから宇宙ビジネスにジョインする方へ】

●私が宇宙を仕事にした理由
私は今でこそエンジニアをしていますが、学生時代は日本国憲法をテーマに卒論を書いた文系出身です。趣味でプログラムを書いていたのが楽しくなりIT業界に就職。医療系のソフトウェア開発を1年ほど続けてから、当社に転職しました。きっかけはJAXAが13年ぶりに宇宙飛行士を募集したこと。残念ながら社会人経験年数の条件を満たなかったので応募は諦めましたが、幼い頃の宇宙への憧れが一気に蘇ってきて、当社に転職しました。

●読者へのメッセージ
宇宙業界はすべてが現在進行形で、良くも悪くも前しか向けません。将来のキャリアが見えにくいという点で、入りづらいと感じるかもしれませんが、後先を考えずに突っ込んでいける人にとっては、とても楽しい世界です。

また、技術が好きな人ならば、自分の得意分野に限らず、幅広い分野の技術に触れるチャンスがあるので、知的好奇心がくすぐられるはずです。未知の領域を仲間と一緒に開拓していく――そんな得がたい経験ができる世界です。

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