連載コラム「人に聞けない相続の話」では、相続診断協会代表理事の小川実氏が、その豊富な実務経験をもとに、具体的な事例を挙げながら、相続の実際について考えていきます。
【ケース11】
85歳を過ぎた母が相続対策のために自宅をアパート併用住宅に建て替えたいと言っています。
費用は1億円ほどかかるそうです。
相続人は、長女の私と妹の2人ですが、いずれも結婚し夫名義の家に住んでいます。
確かに母の住んでいる家は、駅にも近く場所が良いので、相続税も掛かりそうですが、母が亡くなった後は、長女の私が借金を返済しなければいけなくなりそうで、何となく不安です。
1億円の借金をしてまでの相続対策は必要でしょうか?
【診断結果】
まずは、相続税の試算が必要
相談者のお母さんは、相続税が心配でアパート併用住宅を検討されているようですので、まずは、相続税の試算が必要です。
相続税が、対象となる方の財産の合計金額で計算する仕組みになっていますので、まずはどのような財産があるのか、「財産の棚卸し」をします。
おおよその財産の内容が分かったら、相続に詳しい税理士に財産の相続税評価額と相続税額の計算をお願いして下さい。
よく金融機関や不動産会社などが無料で試算を行う事がありますが、財産評価が間違っていたり、財産が漏れていたりして、相続税額が間違っていることが多いので、適正な費用を支払って計算してもらいましょう。
間違った試算に基づく対策が、正しいはずもなく、結局、高くついたなんていう事は良くあります。
現金にしやすいもので、相続税が支払えるかどうか見極め
相続税の計算が出来たら、財産の中の現預金、生命保険、上場有価証券など現金にしやすいもので、相続税が支払えるかどうかの見極めをします。
本事例の場合、お母さんがご自宅のほかに現預金をたくさん持っていて、相続税が十分支払えるのであれば、1億円の借金をしてアパート併用住宅を建てる必要性は低いです。
財産のほとんどが自宅で、しかもその評価が高く、相続税を支払える見込みがないたたない場合には、借金をしてアパートを建てる事は、良い相続税対策の一つと言えます。
相続税が払えないからすぐに借金してアパート併用住宅というのは少し気が早い
それでも、相続税が払えないからすぐに借金してアパート併用住宅というのは、少し気が早いです。
本事案では、相続人となる姉妹二人はご主人の自宅にお住まいとの事ですので、お母さんが亡くなった後、お母さんのご自宅に住む可能性は低いと思われます。
売却して相続税の納税資金を作るという選択肢もあります。
お母さんが亡くなった後、この家と土地をどうして欲しいと思っているのか。
先祖代々の土地でどうしても残したいと思っているのか、そうではないのかなどをお母さんと姉妹二人で、じっくり話し合う必要があります。
なぜ、1億円の借金をしてまで住み慣れた自宅を立て直したいと思ったのか?
お母さんは、なぜ、1億円の借金をしてまで住み慣れた自宅を立て直したいと思ったのか?
85歳という年齢を考えると、建て直している間に体の調子が悪くなり、住めないという事もありえます。
本当に相続税だけの問題だったのか?
もしかすると、人生の最後、2人のお子さんのどちらかと一緒に過ごしたいだけなのかもしれません。
そのような心の底にある本当の気持ちを親子でじっくり話し合う事が、非常に大切です。
この様な話し合いの末、どうしても残したいという結論になれば、借金してアパート併用住宅というのは、大変良い選択肢だと思います。
相続人に相談せず相続税対策でアパートを建てたりマンションを買ったりした親が亡くなり、「現金で残してくれた方がありがたかった…」という話はよくある事です。
相続税の最高税率は、6億円以上の場合で55%です。
全てを取られるわけではありませんので、相続税だけを判断材料としないで受け取る側の相続人とよく話し合いをして、冷静に判断して下さい。
(※写真画像は本文とは関係ありません)
執筆者プロフィール : 小川 実
一般社団法人相続診断協会代表理事。成城大学経済学部経営学科卒業後、河合康夫税理士事務所勤務、インベストメント・バンク勤務を経て、平成10年3月税理士登録、個人事務所開業。平成14年4月税理士法人HOP設立、平成19年4月成城大学非常勤講師。平成23年12月から現職。日本から"争族"を減らし、笑顔相続を増やす為相続診断士を通じて一般の方への問題啓発を促している。相続診断協会ホームページのURLは以下の通りとなっている。
http://souzokushindan.com/