今回は、8月4日に発表されたヤマハのヘッドホン「HPH-200」のレビューをお届けします。刺激の少ない自然なサウンドが、なかなか好印象な1本です。
まずは、製品の概要をさらってみましょう。HPH-200は、オーバーヘッドタイプのオープンエアー型ヘッドホンです。コンパクトなヘッドホンに比較的よくある耳乗せタイプで、ハウジングは右側が時計回りに、左側が反時計回りに回転します。ハウジングを90度回転させればフラットな状態になるので、持ち運びがラクです。ただし。ヘッドバンドの折り畳み構造などは採用されていません。ハウジングは縦方向にも回転し、180度回転させれば片耳だけで聴くことも可能です。
コードはY字型で、長さが1.2m。プラグは3.5mmステレオミニプラグ(L字タイプ)。パッケージには2mの延長コードと、ステレオ標準プラグへの変換アダプターが付属します。ドライバーは40mmと大口径で、インピーダンスは48Ω。最大入力は100mWと比較的高めです。再生周波数帯域は20Hz~20kHz、製品の質量は180g。価格はオープンで、推定市場価格は1万5,000円前後となっています。
この製品は8月下旬発売で、さらに同社がヘッドホンをリリースするのは約30年ぶりであるため、とりあえず店頭で聴いてみて判断するということがなかなか難しいわけです。そのブランドから既にいくつかの製品がリリースされているのならば、音の傾向などをある程度推し量ることも可能ですが、同社のヘッドホンは現在において、このHPH-200と同時発表されたインナーイヤータイプの「EHP-100」以外には存在しません。というわけで、実際に使ってみた感想を、筆者なりにまとめてみたいと思います。
このところ、ソニーの「XB」シリーズや、オーディオテクニカの「SOLID BASS」シリーズなどのように、低域の表現能力をとくに強化したクラブサウンド向けのヘッドホンが注目を集めています。しかしHPH-200は、それらとはまったく別の方向を向いたヘッドホンだといえます。例えば、低域の再生能力を強化したヘッドホンで音楽を聴くと、刻まれているリズムがサウンドのほとんど……とまではいきませんが、かなりのウェイトを占めることになります。それに対して、HPH-200で同じ曲を聴くと、どちらかというと、メロディラインが強調されたサウンドになります。ボリュームの大小にかかわらず、この傾向は変わりません。ボリュームを大きくすると、中高域がさらに前に出てくるような感じになります。
HPH-200は、全体的に刺激の少ないサウンドを持つモデルだといえるでしょう。また、ガチガチの定位や、超高解像度を求める製品ではありません。ただし、音楽の繊細さは伝わってきます。音楽を純粋に聴くためのモデルということなのでしょう。同社のアンプやプレーヤーなどにも共通する傾向です。同社では、よくナチュラルサウンドという言葉を使用していますが、これは何も加えない自然なサウンドという意味ではなく、自然に聴こえるようにするために最大限の努力をしたサウンドという意味ではないのでしょうか。いずれにせよ、とくにボーカルと、アコースティックな弦楽器の再現性は高いという印象です。
続いて装着感ですが、イヤーパッドの固さは低反発枕よりも少し固い程度といったところで、表面にはベロア生地を使用しており、耳へのフィット感は悪くありません。ただし、側圧はそれなりにあります(例えば、同じ耳乗せタイプでオープンエアー型のゼンハイザーの「PX100」などに比べると、明らかに強め)。しかし、このイヤーパッドと表地の効果でしょうか、最初のうちこそ少し側圧を感じましたが、長時間装着していても耳が痛くなるということはありませんでした。
オープンエアータイプという構造から、外部のノイズを遮るといったことはありません。室内で使用している場合でも、エアコンの音やPCのファンの音などが普通に聴こえてきます。電車やバスなどの中などで使用する場合は、ある程度音量を上げる必要があるでしょう。
ヘッドホンで音楽を聴くときには、つい大音量になってしまうもの。ですがHPH-200の場合は自然な中域をメインとしたバランスとなっており、それほど音量を上げなくても音楽に入り込むことができます。移動中に使用するよりも、室内でリラックスして音楽を聴く際に使用するといった用途で、その本領を発揮するモデルという印象を受けました。