今年は、HDMI 1.3を搭載したAVアンプが、やっと市場に出回ってきた年です。それまでのAVアンプでは、HDMIは搭載していても1.1というケースが多く、現状のDVDやハイビジョン放送の再生では問題なくても、次世代ディスクの再生では、使用できる音声形式や色空間、機能に制限が発生する場合があります。今すぐに問題というケースはそれほど多くはないでしょうが、AV機器のなかでも、アンプは長く使うものの1つです。というわけで、今年発売されたAVアンプの機能面を価格帯別に比較してみたいと思います。

1回目の今回は、メーカー希望小売価格が5万円以下のモデル5機種を比較します。このクラスのAVアンプは、いわゆる入門モデルです。入出力の数が少ない、機能的に上級機種に比べて削られている部分が多いといったクラスですが、製品によっては2万円台で購入できるものもあるなど、なにしろ手ごろなので、次世代環境に移行する前、つまり、現在のDVDとハイビジョン放送にのみ使うという前提でなら、それなりに価値があると思えます。

比較対照としたのは、オンキヨー「TX-SA505」、パイオニア「VSX-517」、マランツ「PS3001」(これは昨年のモデルだが、発売が11月なので加えてみました)、ヤマハ「DSP-AX361」「DSP-AX461」です。

オンキヨーのエントリークラスAVアンプ「TX-SA505」。定格出力100W×7

パイオニアのエントリークラスAVセンター「VSX-517」。USBポートの搭載や、低域の位相をコントロールするフェイズコントロール機能を搭載する

マランツの「PS3001」。昨年末に発売されたモデル

ヤマハのエントリークラスDSP AVアンプ「DSP-AX361」「DSP-AX461」。他のAVアンプとは若干毛色が違う

エントリークラスのモデルは入力端子が少なく使用環境を考える必要が

まずは、各機種の入出力端子を比べていきます。

TX-SA505のリアパネル

VSX-517のリアパネル

PS3001のリアパネル

DSP-AX361のリアパネル

DSP-AX461のリアパネル

各モデルの映像入力端子
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
D4 3系統 2系統 - 3系統 3系統
コンポーネント 3系統(D端子と排他使用) - 2系統 - -
S 3系統 3系統 2系統 - 3系統
コンポジット 4系統 3系統 4系統 3系統 3系統
各モデルの映像入力端子
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
D4 3系統 2系統 - 3系統 3系統
コンポーネント 3系統(D端子と排他使用) - 2系統 - -
S 3系統 3系統 2系統 - 3系統
コンポジット 4系統 3系統 4系統 3系統 3系統
各モデルの音声入力端子
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
光デジタル 2系統 2系統 1系統 2系統 2系統
同軸デジタル 2系統 2系統 2系統 1系統 1系統
アナログマルチチャンネル 7.1ch 5.1ch 7.1ch 5.1ch 5.1ch
アナログステレオ 6系統 3系統 8系統 6系統 6系統
ステレオミニジャック入力 - 1系統 - 1系統 1系統
USB - 1系統 - - -
各モデルの映像出力端子(モニター出力含む)
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
D4 1系統 1系統 - 1系統 1系統
コンポーネント 1系統 - 1系統 - -
S 2系統 2系統 2系統 - 2系統
コンポジット 2系統 2系統 3系統 2系統 2系統
各モデルの音声出力端子
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
光デジタル 1系統 - - - 1系統
アナログステレオ 2系統 2系統 4系統 2系統 2系統
サブウーファープリアウト 1系統 1系統 1系統 1系統 1系統
スピーカー出力 7ch(バナナプラグ対応) 7ch(バナナプラグ対応) 7ch(バナナプラグ対応) 5.1ch(フロント2系統:Aのみバナナプラグ対応) 5.1ch(フロント2系統:バナナプラグ対応)

映像入力は、D/コンポーネント入力が、このクラスだと2~3系統、S端子入力は、DSP-AX361以外は装備しており、2~3系統(D/コンポーネントで入力できれば必要ないといえばないのですが)、コンポジット入力が3~4系統というところです。DVDプレーヤーとレコーダー程度しか接続しないのなら、足りてしまいます。ただし、注意したいのが、このクラスのモデルでは、D/コンポーネント端子、S端子、コンポジット端子がそれぞれ内部的に独立している点です。そのため、テレビとの接続がD/コンポーネント端子のみだと、D/コンポーネント端子から入力された信号しか映りません(S/コンポジットでも接続すれば映るのですが)。

音声入力は、各機種で特色が出ています。デジタル入力は3~4系統と、DVDプレーヤー、レコーダーに、CDプレーヤーあたりまではデジタルで接続可能と代わりはありませんが、VSX-517、DSP-AX361/461が装備しているフロントのステレオミニジャック入力は、デジタルオーディオプレーヤー接続のためのものです。これらのモデルには、VSX-517では「サウンドレトリバー」、DSP-AX361/461では「ミュージックエンハンサー」という、圧縮音源の補正機能も搭載されています。また、VSX-517には、フロントパネルにUSBポートも装備しており、USBメモリーやマスストレージクラスに対応したデジタルオーディオプレーヤーに保存されたMP3/WMA/AAC形式の音楽を再生可能です。また、各モデルともアナログマルチチャンネル入力に対応していますが、DSP-AX/361/461/VSX-517のみ5.1ch入力となっています(他のモデルは7.1ch入力)。

映像出力は、TX-SA505のみ、D端子とコンポーネント端子を各1系統装備。それ以外のモデルでは、D/コンポーネント端子は1系統のみです。つまり、テレビとプロジェクターといたように、ハイビジョンで同時に複数の機器に出力が可能なのは、このクラスではTX-SA505のみということになります。S映像出力はDSP-AX361以外は2系統装備。コンポジット映像出力は2~3系統というところです。

音声出力は、TX-SA505/DSP-AX461のみ、デジタル出力を装備しています。ただし、ここに出力できるのは、デジタル入力された信号のみです。アナログ端子からの入力は、アナログ端子からしか出力されません。

なお、DSP-AX361/461には、フロントスピーカー端子がA/Bの2系統装備されています。これは、単にスピーカーを2系統使用できるというだけでなく、ZONE機能も利用可能です。

オートセットアップ機能搭載モデルなら、試聴環境のセッティングも楽

エントリーモデルではありますが、PS3001/DSP-AX361以外のモデルでは、自動音場設定プログララムを搭載しています。

TX-SA505が搭載しているのが「Audyssey 2EQ」。リスニングエリア内の3箇所で測定を行い、スピーカーとの距離、数、クロスオーバー周波数、サイズなどを判定。その範囲内で、適切なサラウンド再生が行われるように設定するものです。

VSX-517が搭載するのは「オートMCACC」。こちらは1箇所での測定ですが、スピーカーのサイズや距離、部屋の周波数特性などを測定します。また、スピーカー同士の位相を併せるフェイズコントロール機能も搭載されています。

DSP-AX461が搭載するのは「YPAO」。リスニングポイントでの測定で、接続されているスピーカーの性能や部屋の音場特性などを測定します。

現在の環境で使うのなら問題のない種類のデコーダー

最後に、対応しているデコーダーについて比較していきます。

各モデルに搭載されているデコーダー
型名 TX-SA505 VSX-517 PS3001 DSP-AX361 DSP-AX461
ドルビーデジタル
ドルビープロロジックIIx
ドルビーデジタルEX - -
DTS
DTS-ES Discrete 6.1 - -
DTS-ES Matrix 6.1 - -
DTS-Neo:6 - -
DTS 96/24 - -
MPEG-2 AAC -
バーチャルサラウンド - -
ヘッドフォンサラウンド - - -

表に掲載したのは、一般的なデコーダーのみですが、これ以外に、各モデルとも独自のサラウンドモードなどを備えています。

まずTX-SA505では、「Orchestra」「Unplugged」「Studio Mix」の3種類の音楽リスニング用プログラム、BGM用の「All Ch Stereo」「Full Mono」、モノクロ映画用の「Mono Movie」、テレビ用の「TV Logic」、2~3本のスピーカーでサラウンド再生を行なうバーチャルサラウンド「Theater-Dimensional」が搭載されます。また、音楽再生時に、ビデオ回路や表示部分の電源を落とす「Pure Audio」モードも使用可能です。

VSX-517では、ADVANCED SURROUNDモードとして、音楽リスニング用の「ROCK/POP」「UNPLUGED」、映画用の「ACTION」「DRAMA」、ミュージカル用の「ENT.SHOW」、テレビ用の「TV SURR.」「SPORTS」、ステレオをマルチch化する「EXPANDED」「X-STEREO」、ゲーム用の「ADV.GAME」、ヘッドフォンサラウンドの「PHONESUR.」といったモードを備えます。また、2.1chでバーチャルサラウンドを行う「フロントサラウンドアドバンス」機能も使用可能です。

PS3001では、SRS社のCS IIを搭載。CS IIは、モノラル/ステレオのソースを6.1ch化するというものです。また、マルチチャンネル音声を2本のスピーカーでサラウンド再生する「VIRTUAL」、ヘッドフォンサラウンド「TruSurround Headphone」、フィルターやトーンコントロール、ディスプレイなどをオフにする「PURE-DIRECT」モードも使用可能です。

ヤマハの2モデルは、他のモデルに比べて標準的なデコーダーに関しては見劣りします。ただし、これらのモデルには(というよりも同社のDSP AVアンプには)、DSP-1以来伝統のDSP音場プログラムが搭載されており、普段はこちらを使用するケースのほうが多いでしょう。DSP音場プログラムは、世界各地の著名なホールなどの音場を実際に測定して、それをリスニングルームに再現するというものです。当初は、どのプログラムがどのホールかが明記されていたと記憶しているのですが、最近ではプログラム名のみの表示になっているようです。DSP-AX361/461では、音楽再生用の「2ch Stereo」「5ch Stereo」「Pop/Rock」「Hall」「Jazz」「Music Enh. 2c」「Music Enh.5ch」、エンターテインメント用の「Sports」「Game」、映画用の「Movie Specious」「Movie Dramatic」の11種類のプログラムが使用可能です。また、これらとは別に、フロントのLRスピーカーのみでサラウンド環境を再現する「バーチャルシネマDSP」やヘッドホンでサラウンド再生を行う「サイレントシネマ」といた機能も搭載されています。また、これらのプログラムを、入力ソースを切り替えることで、自動的に切り替える「SCENE」機能も搭載されます(4種類)。

今回は、エントリークラスのモデルの機能を比較してみましたが、低価格モデルとはいえ、なかなか高機能です。これらのモデルでできないことといえば、HDMIでの接続、ビデオ信号のアップスケーリング、次世代フォーマットへの対応などといったところです。それらが可能になるのは、この上のクラス、5万円~10万円程度の価格帯のモデルということになりますが、普通にDVDビデオやハイビジョン番組を見るというレベルならば、エントリークラスのモデルでも、問題のない機能を搭載しているといえるでしょう。