SBクリエイティブは、このほど『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(990円/成田奈緒子、上岡勇二著)を発売した。本書は、脳科学×心理学×教育学でわかった認知力・自律力・思考力を奪う言葉、伸ばす言葉を紹介している。子どもの脳を伸ばす"科学的に正しい言葉がけ"とは?
著者は、小児科医・医学博士であり文教大学教育学部教授の成田奈緒子氏と、臨床心理士・公認心理師の上岡勇二氏。同氏らが立ち上げた「子育て科学アクシス」という組織では、脳科学、心理学、教育学のエビデンスに基づいた独自の理論「ペアレンティング・トレーニング」(よりよい脳育てのための生活環境づくり)を確立してきた。
その理論をもとに、同書では「科学的に正しい、子どもの脳をよりよく育てる言葉がけ」を解説している。今回はその中から、子どもの「自信」を奪う言葉の1つを紹介。みなさんは普段、どんな言葉をお子さんにかけているだろうか。ぜひチェックしてみてほしい。
■子どもの「自信」を奪う言葉
勉強ならば夜更かしOK?/ハルキ(小6)
「就寝時刻は21時」と決められているハルキの家庭。しかし、勉強をしていると「頑張っているなんて偉いな」と就寝時刻を過ぎていても許されてしまいます。逆に、ゲームに夢中になっていると、まだ21時になっていないのに、「ゲームしてるくらいなら寝なさい」と𠮟られます。最近、ハルキがゲームをしている様子をすっかり見かけなくなりました。いつも、机に向かって熱心に勉強をしています。部屋をのぞいて、「頑張れよ!」と励ます父親。しかし、教科書の下にはゲーム機が隠されているのでした。
健康的な生活環境がすべての礎
今回の親の言葉は、ロジックが完全に破綻してしまっています。
「就寝時刻は21時」と決められているのですから、ゲームをしていようと、勉強をしていようと、必ず寝なければなりません。勉強しているなら就寝時刻を過ぎてもいい、ましてや、ゲームをしているくらいなら21時前でも寝なければならないとは不条理過ぎます。子どもの脳は混乱してしまうばかりでしょう。
私たちが提唱する「ペアレンティング・トレーニング」の重要な考え方の中に、「ブレない生活習慣を確立する」というものがあります。就寝時刻と起床時刻を決めて、毎日規則正しく生活することはその最たるものです。
どんなに「ロジカルに」「フルセンテンスで」言葉をかけていたとしても、健康的な家庭生活がなければ、よい脳は育ちません。親は子どもの生活習慣をブレさせず、継続できるように手助けをしていく必要があります。
しかし、高学年になればなるほど、早く寝ることを嫌がる子どもは増えていきます。親が夜型の生活をして、子どもだけに早く寝ることを強いている場合、それは顕著に起こりえます。そんなときは、親も子どもと一緒に、朝型の生活にシフトすることをおすすめします。
親が「早起きがどれほどいいことか」を説明すれば、自然と子どもは正しい生活リズムを身につけるでしょう。自分の経験を交えながら「早く起きるとこんないいことがあるんだよ」と、事あるごとに言い続けていく。
たとえば、「昨日の夜にお仕事で原稿を書こうと思ってたんだけど、全然進まなかったから、諦めて早く寝たんだよね。今朝早く起きて書いたら、あっという間に終わっちゃった。やっぱり、早起きは得だよね」などといった具合にです。このような地道な働きかけは大切です。
「子育て科学アクシス」のスタッフは今や全員朝型人間ですので、相談者に「自分の経験」を繰り返し伝えています。イキイキとしたスタッフの表情を見ることで、みなさん自然に「説得」されて生活改善に取り組み、変わってきてくれています。
私たちは、子どもに伝えたいことを、自分のエピソードを交えながら何度も繰り返し話すことを、「地味な刷り込み」と呼んでいます。
前頭葉は繰り返し受けた刺激を、重要なものと判断してその神経回路を太くします。神経回路は太くなることで、情報を速く伝達できるようになります。加えて、「早起きすると頭がすっきりしているから勉強がはかどるよ」と言葉だけで言うよりも、一番身近な存在である親の成功体験を交えながら伝えると、そのロジックはより説得力を増します。
また、今回の言葉には、もう一つ問題点があります。
それは、「ゲームしてるくらいなら早く寝なさい」の「くらいなら」です。「くだらない」と同様に、「くらいなら」も相手の好きなモノを切り捨てる言葉です。「ゲームをすることより、勉強をすることの方が上」という親の価値基準を子どもに押しつけています。
子どもが就寝時刻を忘れてまで夢中になっているということは、相当に面白いゲームなのでしょう。頭ごなしに否定するのではなく、「どんなゲームやってるの?」と聞いてみましょう。実際にゲームを見ても、自分には全然興味のない世界だとしか思えないかもしれません。
しかし、そんなときも、大人は思ったことをそのまま口にしない「知恵者」でなければいけません。「へえ、そんなふうにバトルするんだ。面白いかもしれないけどさ、もう寝る時刻だよ」と子どもの「好き」を認めつつ、就寝を促すことが大切です。
子どもは認められることで、親を信頼するようになります。信頼している親との約束は守らなければならないと思うので、自然に就寝時刻を守るようになるでしょう。
親は家庭生活の「軸」を持つ
子どもが小学校に上がると、親は判で押したように成績のことばかりを気にし始めます。私たちは、「いかに勉強をさせるか」ということに囚われてしまい、その結果、就寝時刻をおろそかにするようになった親御さんたちを数多く見てきました。
「ペアレンティング・トレーニング」に、「親はブレない軸を持つ」という考え方があります。親は、学校や塾などでの成績評価のモノサシは持たず、家庭生活における「軸」をしっかりと持つ。子どもの脳の育ちにとって最も重要なのは家庭生活である、という考えを中心に持てるようになれば、学校の成績が関係なくなるのは当然です。
家庭生活での「軸」は、2本~3本に絞ります。まずは、「死なない、死なせない」「寝る時刻と起きる時刻」という2本は、どんな家庭生活においても絶対に外すことができません。
これに加えて、家庭ごとに必要と思われる「軸」を立てますが、「軸」はどんなに多くても3本だと思います。4本も5本も立ててしまうと、何が本当に重要なのかがわからなくなってしまうからです。
「軸」とするからには、「その部分に抵触する行動は全力で𠮟る」ことが大切です。ハルキのケースで考えれば、𠮟られるのは「21時を過ぎているのに起きている」という1点のみになることはすぐにご理解いただけるでしょう。
「宿題を必ずやる」「塾の成績で10位以内に入る」「マラソン大会で1位を取る」などは家庭生活に一切関係ないので、「軸」にはなりません。
「多くて3本なんて少な過ぎるのでは?」と思われるかもしれません。しかし、そもそも、家庭は子どもを評価する場ではありません。昨日より今日、少しずつ子どもが成長していることを喜び、それを「認める」場です。認めるだけで、子どもは不安を感じにくくなり、脳は自然によい方向に育っていきます。
書籍『その「一言」が子どもの脳をダメにする』(990円/SBクリエイティブ刊)
同書では、本稿で伝えた内容以外にも親として注意したい言葉がけが、多数紹介されている。気になる方は、ぜひ本を手に取ってみてはいかがだろう。