今回紹介する立ち食いそばは、新宿区の早稲田にある「はせ川」である。東京メトロ東西線「早稲田」駅を下車して、新目白通り方面に5分歩く。大隈庭園の裏手、通り沿い。周囲を早稲田大学のキャンパスや講堂などに取り囲まれており、まさに「早大の庭」であるところだ。

「花巻そば」(税込410円)

静かだが温かい接客

訪れたのは9月半ば、昼時の13時頃。大学生の夏休みは長く、あふれかえる学生の姿を見ることはかなわなかった。真っ白な「そばうどん」ののれんをくぐると、立ち食いのみカウンターのみの硬派な店内には相客がすでに7~8人いたが、いずれも30~60代のサラリーマン風の男性ばかり。その様子は新橋や人形町の立ち食いそばと何ら変わらないのだが、「研究の合間にサッと食事を済ませにきた教授かな」などと妄想するのも楽しい。

壁にはメニューがずらりと貼られており、右手が厨房となっている。熟年の大将と女将さん(夫婦かどうかは不明)、それと若い男性(息子かどうかは不明)の3人体制で注文をさばいている。店内にはテレビがあるものの消音中。静かでみな黙々とそばをすすっているが緊張感はなく、むしろ店の方の挨拶があたたかく心地よい。

ボリューム&甘めのツユで食欲を満たす

食券ではなく、口頭注文スタイル。メニューは店外にもPOPが出ているので、入ったら素早く注文を通すのがスマートかと思う。「なっとうそば」なる珍しいメニューもあって心惹かれたが、ここは見た目のインパクトを重視して「花巻そば」(税込410円)を注文した。

「花巻そば」は海苔を散らしたそばのことで、特にこの店のオリジナルというわけではない。もみ海苔が広がるさまが花のようだ、とか、浅草海苔が「磯の花」と呼ばれていた、などの説があるらしい。

2分程完成を待つ。大きな丼を覆う海苔。評判通りのビジュアルだ。海苔の下にはそっと小口切りのネギが添えられているだけのシンプルな一杯。学生街とあってか、ボリュームは相当で、これまで紹介してきたそばの中でも屈指。さらにツユがかなり甘いので、糖分はしっかりフルチャージされる。パリッとした海苔、トロッと溶けた海苔、それを中太麺と絡めながら食べれば食欲に火がつくこと間違いなし。

「はせ川」へは東京メトロ東西線「早稲田」駅から徒歩5分

はせ川には、ここでしか食べられない味、忘れられない味が残っている。長い間この味で、若者の胃袋を支えていたのかもしれないと思えば、味わいもひとしおだ。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。