今回の一杯は飯田橋の「天かめ」。つい最近も紹介した肉そばで有名な「豊しま」と同じ通り沿いにある。
立ち食いそば店は不思議なもので、新橋にしろ秋葉原にしろ、ここ飯田橋もそうだが、集まるところには徹底的に集まるわりに、ないところにはとことん、ない。一概にオフィス街に多いとも言えず、六本木や赤坂の方などには有名チェーン店しか見当たらないのが現状だ。住んでいる場所、働いている場所、立ち食いそばの数を数えてみると何か面白いことが分かるかもしれない。
「きんぴら天」も魅力的
閑話休題。「天かめ」は「飯田橋」駅から歩くこと5分。小さな間口のこぢんまりしたお店だ。入り口には券売機がひとつ。窓にはびっしりと短冊でメニューが貼られている。券売機は中にもあり。風が冷たいので早速中に入ることにする。
引き戸から入って、すぐ右にもう一台の券売機が。メニューでは「きんぴら天」(税込350円)が気になった。きんぴらの天ぷら、あまり聞かない珍しいメニューだ。しかし残念。この時は既に売り切れ。ランチタイムを少し過ぎた13時半。それでもまだまだ客の入りはいい。仕方ない、第2候補の「コロッケそば」(税込340円)を購入した。
コロッケがとけたダシもまたよし
店は、左手に厨房、右手に立食カウンターが一列。5~6人並べるかどうかの狭さである。店内ではAMラジオが流れている。水をくみ、場所を陣取る。待つこと1分。コロッケそば、着。
立ち食いそばのお手本のような装い。黒いつゆと白いネギ、どこか垢抜けない表情をしたコロッケがかわいらしい。実は筆者、コロッケはそれほど好物ではないが、コロッケそばには何となく愛着を感じてしまう。甘くてホクホクした、等身大のコロッケ。衣はすぐつゆによってグズグズと崩れてゆき、溶けたそれがまたダシにコクをプラスする。
思い返せば340円。何と優しい味とお値段か。倍の金額を使っても家では再現できないだろう。そんなことをかみ締めている内に完食。次回はきんぴら天そばにありつけるだろうか。
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。