六本木には立ち食いそばがほとんどない。独自のリサーチによると、大手チェーン店が2店ほどあるにとどまる。それでもあるだけマシで、このあたりから、麻布~白金エリアなどは本当に空白地帯だ。地価や客層を考えたらしょうがないのかもしれないが、やはり少し寂しい。

「肉そば温」(税込600円)

今回の店は「桃山」。立ち食いそばに含めていいのか実は微妙なところなのだが、その価格帯はそれなりにリーズナブルなので紹介することとした。最寄りは東京メトロ南北線「六本木一丁目」駅。徒歩4分くらい。麻布通りを外苑東通りに向かって南下。通り手前の細い路地を入ったところ、のぼりが目印だ。

鶏がネギをしょって来たそば

桃山の目玉は「山形肉そば」だ。山形県の郷土料理で、具は鶏肉とネギ。冷たいものが一般的だとか。この桃山も都内以外に山形県にも店舗をもつチェーン店のようだ。開店は11時。ほぼジャストタイムに行ったので、ランチの客はまだおらず。店員は黒いポロシャツを着た人が3人ぐらい。今風のラーメン店のようでもある。

入ってすぐ右手側に券売機。タッチパネル式でスクリーンにはカラフルなボタンが映る。冷たい肉そばがメジャーと知りつつも、風の冷たい日だったのでつい「肉そば温」(税込600円)を発券。店員に渡す。

脂きらめくスープは中華そばのよう

店内はカウンターとテーブル席。すべてイスがあり、30人くらいは入る広めのスペースだ。席に座るとすぐ水とお手拭き、それと小皿に入った揚げそばが出される。ポリポリかじりながら、メニューを見て待つ。お酒や一品料理も多く、夜営業は居酒屋になるのだろう。そういう人は、シメに肉そばを食べて帰るのだろうか。そばがお盆で運ばれてきたのは3~4分後。ちょうど揚げそばがなくなった頃である。

鶏肉の脂が浮いた透明なスープがキラキラ光っている。見るからに柔らかそうな鶏肉と刻みネギ。まずツユをいただくと、かなりしっかりした甘みと塩気を感じる。見た目よりもガツンとした濃い味だ。麺は太く、コシがある。スープの味も相まって、中華そばのようだ。実際、メニューにはラーメンもある。

「桃山」へは東京メトロ南北線「六本木一丁目駅」から徒歩4分

この連載でも肉そばは何度か紹介したが、今回もまた違った切り口。「かき揚げそば」がここまで変わることはない。「肉そば」の奥深さをあらためて知ることができた一杯だった。

筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)

1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。