立ち食いそば店は、他の飲食店に比べて街に溶け込みやすいと思う。オフィス街にも繁華街にも多いし、郊外の国道沿いにもよく合う、というかむしろ自然だ。それだけに見逃すことも多いし、意識していないと、とことん付き合いがない。今回紹介するのは、高円寺の「江戸丸」。学生時代から10年程高円寺に住み、この店はずっと知り続けていたが、初めて訪問したのはここ最近のことだった。
おにぎりや丼ものも種類豊富
江戸丸はJR「高円寺」駅から徒歩5分くらい。改札を出て、東側(中野方面)に線路沿いを真っ直ぐ、環七通りを渡り少し右手に進んだところにある。店舗に扉などはなく、短いのれんが路上と店内を仕切るだけのまさに環七の路麺店だ。営業時間は早朝から昼過ぎまでとなる。
のれんの中にはカウンター、横並びで4~5人の立ち食いスペース。のれんの外、道路側の路上には簡易的にテーブルとイスが出ており、こちらでも食べることができる。
ショーケースには天ぷら各種とおにぎり各種が並んでいる。定番からソーセージ天やアジ天、コロッケや玉ねぎ天などうれしいタネも豊富。おにぎりも7~8種、さらに丼メニューまで取りそろえている。
春菊香る腹持ちのいい一杯
口頭で注文、代引きシステム。今回は「春菊天そば」(税込390円)を頼んだ。ちなみに、店内の短冊では「380円」になっているが、税別表記のようで、支払いは10円プラス。謎の税率計算だが、リーズナブルなのには変わりない。
丸いかき揚げ型の春菊天が、黒いつゆと中太麺の上に浮かぶ、シンプルな一杯。天ぷらの油と一緒に春菊の緑色が染み出している。思ったより春菊の香りが強く、コストパフォーマンスは高い。麺は小麦粉のつなぎが多めに感じられ、その分腹持ちも良さそう。無骨な男飯、といった具合である。
ネギはセルフでカウンター上に準備。おかか、たくあんもあるが、これはご飯物用だろう。ふと帰り際に店の壁を見ると、芸人の板尾創路さんや、日本ハムの斎藤佑樹選手(早大時代)のサインが飾られていた。
環七沿いは、かつてラーメン激戦区と呼ばれていた。多くの店が出店し姿を消していったその影でドライバーたちの空腹を満たし続けたのは、これらの立ち食いそば店だったのかもしれない。
※記事中の情報は2016年9月取材時のもの
筆者プロフィール: 高山 洋介(たかやま ようすけ)
1981年生まれ。三重県出身、東京都在住。同人サークル「ENGELERS」にて、主に都内の銭湯を紹介した『東京銭湯』シリーズを制作している。