おかげさまで、連載も間もなく200回目を迎えようとしている。200店も心の赴くままに食べ歩く場合、しっかり整理しておかないと、どこのどのそばかわからなくなる。「お、このあたりに立ち食いそばがありそうだぞ」と意気揚々と向かった結果、見覚えのある店だったことも稀にあり、そうして八丁堀で空振りしたこの日、新橋駅まで歩き「かのや」に入った。
こちらは「新橋駅銀座口店」で、実は同じ新橋駅に「新橋駅構内店」という姉妹店がある。ほかに上野や新宿にも店を構える、立ち食いそば好きなら知られたチェーン。余談だが、こちらの新橋駅銀座口店は開店から半年足らず。新橋の名物立ち食いそば店「ポンヌッフ」の跡地に生まれた。真新しい外観だけは、風景に馴染むまでにしばらく時間を要しそうだ。
ボリューム重視の丼セットにゲソ天をオーダー
入り口に、交通系ICカードが使える券売機が一台。「栃木県産そば粉」「国産米」「自家製カレーライス」の文字とともに「二本のせ! 海老天そば」のポスターがでかでかと張り出されている。そば屋の海老天といえば押しも押されもせぬエースだが、立ち食いそばとなると途端にスケールダウンするような気がするのは自分だけだろうか。サイズの問題だろうか、立ち食いの天ぷらはやはりガツガツ食べたいのだ。選んだのは「高菜丼セット」(500円)に「げそ天」(160円)をトッピング。午前中からしっかりエネルギーを蓄えていこう。
入ってすぐ食券を渡す。店内は窓側に沿って着席カウンターがたった7席のみ。午前10時頃、先客1名→0名。無論狭く、返却口は奥の方なので、お昼時に満席になったら混乱しそう。そんな余計な心配をしていると、そば完成のコール。
さすが「かのや」の一杯、申し分ない旨さ
げそ天はかき揚げ状。大きさはそれほどでもないが、細かくぶつ切りにされたげその歯ごたえは絶妙。麺はやわらかめなので、そのコントラストもいい。高菜丼はそぼろと高菜を炒っているのだろうか、やや塩辛めの味付けが、白飯とよく合う。ネギとわかめのほか、天かす(たぬき)が添えてあるのが意外だ。さっぱりとしたツユにコクが出るのはもちろん、ツユをたっぷり吸うことで、最後の一滴まで"食べられる"スープに早変わり。立ち食いそば界の"魔法の粉"である。
新店とはいえ、業界では既に名を馳せている「かのや」だけあって、クオリティは折り紙付き。シンプルだけに収まらない工夫も見えて、新しい新橋の顔となるその日まで期待していきたい。